第2話 彼女の裏の顔

───1ヶ月前。


 学校にも慣れ始め、大勢とはいわないが友人が出来て楽しい高校生活を送っていた5月のある日の放課後。その日は、掃除当番に当たっており、学校に残っていた。


 ちなみに部活は入っていない。中学ではサッカー部に入っていたが高校でも入ろうとは思わなかった。


 いつもなら友人と帰るが今日は一人だ。ロッカーがあるところで靴を履き替え、校舎を出る。すると目の前を立川が通っていった。


「あれは……」


 立川──あれ? 下の名前なんだっけ?

 美人で人気者みたいな奴としか覚えてなかったので名前をちゃんと覚えていなかった。ようするに名前を覚えていないほど彼女には興味がなかった。


 そう考えているうちに立川は、校舎裏へと入っていく。


 ん? あそこになんかあったっけ?

 校舎裏なんて何もないし、行く必要なんてないと思うけど……。


 何をしに行ったのか気になった俺は、こっそりと後をつけることにした。校舎裏に行った立川は急に立ち止まった。それを見て、慌てて近くにあった大きな木に隠れた。


 何をするのだろうか……。彼氏と待ち合わせか? いや、彼氏いないって聞いたことあるような……。もしそうならここにいるのはマズイよな。


 後をつけること、隠れて見ることは良くないと思い、この場を離れようとした。だが、そのタイミングで立川の声が聞こえてきた。


「もう、ほんとイヤ。どうせあいつら私の顔しかみてないし、視線がいちいち鬱陶しい──」


 この後も立川の独り言は、続くがこの状況に対して驚きすぎて固まった。


 今、あそこにいるのって立川だよな?

 疑うほどさっきの独り言をいった人物は、オレの知る立川美奈ではなかった。

 口調も雰囲気も全て別人……。


 さて、見なかったことにしよう。このままここに居続けるといけない気がしてここを立ち去ろうとするが下に落ちていた何かのガラスの破片を踏んでしまいパキンと音がなってしまった。


「誰!?」


 立川は、バッと後ろを振り返り辺りを見回す。俺はというと踏んだ後とっさにさっき隠れていた木にもう一度身を隠す。


「誰かいるんでしょ?」


 立川は、さっきの優しさのない口調でそう言いオレがいる方へ近づいてくる。


 これはもう隠れずに出ていく方がいいのか?

 あちらはおそらく誰かいるということに気付いている。


「なかなか出てこないわね。じゃあ、こうしましょう。今すぐ私の前に出てきてくれたら盗み聞きをしたことを怒らないわ。けど、出てこなかったその時は──」


「ご、ごめん……盗み聞きするつもりはなかったんだ」


 普通に出てきた俺に対して立川は、驚いていた。


 こういう奴をほおっておくとろくなことがない。なのでこうして身を隠すのを諦めた。


「えっと、あなたは、確かクラスメイトのくん?」


「いや、朝井なんだけど……」


 ボケか本当に間違ったのかわからないな……。


「あっ、ごめん。私、どうでもいいクラスメイトの名前は覚えないから」


 さらっと傷つくようなお言葉頂きました。どうやら立川にとって俺は、どうでもいいクラスメイトらしい。


「で、夜井くんは、いつからここにいたの?」


 どこまで聞かれていたのかが気になったらしく聞いてきた。それよりもコイツ名前覚える気ないな。


「立川がここに来た時から……」


 嘘ついてもすぐにバレそうなのでここは正直に答える。


「えっ、最初から? 最悪なんだけど……」


 立川は、両手で顔を隠し下を向いた。そして数秒後立川は、こちらへ向かってきてキスできるんじゃないかっていうぐらいの距離まで近づいてきた。何をされるのかと考えていると立川は、俺に向かって人差し指を指してきた。


「さっきの出来事忘れなさい。もし、クラスメイトとかに言ったらどうなるかわかってるでしょうね?」


 えっ、どうなるの?

 てか、忘れろとか言われましてもあんな衝撃的なこと忘れられるわけないんだが……。それにクラスメイトに言って俺に何の特があるんだ?


「なんかいろいろ心配しているようだけど、みんなからチヤホヤされる君が実は全部演技でしたってことは誰にも言わないよ。言う必要ゼロだし」


「ぜ、ゼロ……まぁ、確かにそうね」


 今は、言う必要性がないだけ……。時と場合によれば言う可能性はあるけど。


「残念でしょ、私が性格悪い人で」


 立川は、表向き優等生でみんなから好かれるような毎日ニコニコしている人間。だが、実際は、それはすべて自分のためで優等生のふりをしているだけ。


「いや、むしろ俺は、優等生ぶってない立川の方が好きだよ。君の作り笑いとか、言いたくないことをベラベラ話してる姿、見てられなかったから」


「あなた、変わってるわね」


「そうか? 俺はさっきの君を見ても別に失望してないよ」


「やっぱり変わってるわよ。……もういい、取り敢えず、今日あった出来事は、すべて忘れなさい。もし、他の人に言ったら許さないから」


「はいはい、わかりましたよ」


 さっき言わないって言ったはずなんだが……。


 その日からだ。立川がやけに俺に話しかけてきたり、共に行動してきたりするようになったのは。おそらく俺が知らないところであの日あった出来事を他人に言うかもしれないと思っているから何度も他人に言うなと口止めしてきたり、こちらに視線を向けてくるのだろう。







 







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