五ノ巻~また会う日まで~

謹慎処分をくらって二日がたった。時の時間は長く、今日も城内から出てはいけないので暇をもて余していた。


 すると、廊下から半兵衛の声が聞こえた。私は、少し襖を開け半兵衛を呼んだ。


「半兵衛~」


 私の声が聞こえたのか、ドタバタと走ってくる音が聞こえ、私の部屋へと来た。


「莉菜!部屋入ってもいい?」


「いいよ~」


 私は、襖を開け半兵衛を中へ入れた。半兵衛は、私の前に座り話しかけてきた。


「ねぇねぇ!」


「何?」


「信長のところにいる「羽柴秀吉」って覚えている?」


「うん。あの、猿みたいな顔の人でしょ?」


 羽柴秀吉。後に豊臣秀吉と名乗り、天下人となる人物。三成も吉継も兄上……高虎さんも仕えることになる。


「それで?」


「今、ここに来ているんだけど」


「私に文句言いに?」


 私は、そう言うと半兵衛は「違うよ~」と首を横に振った。


「僕と莉菜を、織田に引き抜きにさ!」


「半兵衛も嫌がっていたじゃない」


「まぁ……そうなんだけど」


「?」


「莉菜ももう一度、秀吉様に会ってみない?」


「秀吉様……?」


 半兵衛の主君は長政様のはず……なのにって……。


「ちょっと待ってて!」


 半兵衛はそう言うと、部屋の外へと出ていった。私は、困惑していると半兵衛の声と、もう一人の声が聞こえた。


「半兵衛殿、引っ張らないでください」


「いいから~」


 半兵衛は、半兵衛よりも二、三センチほど背のある男性を私の部屋へと連れてきた。男性は、「昨日ぶりですな!」と私に話しかけてきた。


「えぇ」


「もう、わしの名前はご存じであろうか?」


「はい。羽柴秀吉殿」


「おぬしは、月城莉菜つきしろりな殿でお間違いないか?」


「えぇ。今日はどのようなご用件で?あいにく、私は謹慎処分をくらっている身で御座います」


「長政殿から聞いていますとも!信長様がご迷惑お掛けしました」


 秀吉は頭を下げ謝ってきた。私は予想外のことで慌てて秀吉に「顔をあげてください」と言った。すると、秀吉はこう言った。


「今回はわしの顔で許してはくれぬか?」


「許すも何も、秀吉殿は何も悪くはないですよ?」


「いいや!主である信長様が問題を起こしたのであれば、それは家臣である我々の責任でもある!本当に申し訳なかった!」


 ……この人は、人柄が良い。こんなに謝って来る人なかなかいない。主のミス、責任は部下のミスでもあり、責任でもある。この人は本当に天下人に相応しい人。


「それと、どうか信長様に仕えては貰えぬか?」


「無理です。私は、長政様に恩があります。それを返すまでは誰にも仕えません!」


「そうか……無理は言わない。半兵衛、おぬしは……」


「秀吉様は、天下人に相応しい才能を御持ちでいる。信長には仕えたくない。だって信長は天下人には相応しくない。だから、僕は秀吉様に仕えるよ」


 半兵衛は秀吉に仕えるのか……。史実通りではある。信長と浅井がぶつかれば、半兵衛とも争うことになる……。本当は、半兵衛と一緒にいたい。けど、私は、この命を長政様に捧げている。だから、私はここで半兵衛と離れる。またいつか、半兵衛と共に戦える日を待とう。


「半兵衛……そっちでも頑張ってね」


「うん!莉菜もね!信長に仕える訳じゃないから、またどこかで会えるよ!」


「そうだね!秀吉殿、半兵衛をよろしくお願いいたします」


「あぁ!任せてください!長政殿に話をして、早速、半兵衛を連れて城へと戻るとするか!」


「半兵衛!またね!」


 私は、城内から出れないため、ここで半兵衛とお別れ。またいつか会う日までそう言う意味で「またね」と言うと、半兵衛はニッコリと「うん!」と返事をしてくれた。半兵衛との別れ。いずれは互いに争うと思うが、また「友」として共に戦うことを願い、送り出したのであった。

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