四ノ巻~兄妹~

 織田信長を殴ったその日、信長は大笑いをし帰ってしまった。私、月城莉菜つきしろりなは、長政様に説教され、五日間の謹慎処分をくらった。


───夜


 私は縁側に座り、夜空を見上げていた。すると、廊下から人の足音が聞こえた。私は、音がする方を振り向いた。


 すると、足音の正体は藤堂高虎とうどうたかとらさんだった。高虎さんは、私の隣に座り腕を組み、私に話しかけてきた。


「あの織田信長を殴ったらしいな?」


「お陰で、長政様から五日間の謹慎処分を受けましたよ」


「なんかあったのか?」


「……私、元の時代に兄がいたんです」


「弟?」


「はい……でも、私が十歳の頃、兄は十五になったばかりなのに、結核という病に倒れ、次の年には……」


「亡くなったんだな」


「えぇ。その通りです……」


「結核というのはどういうものなんだ?」


「結核というのは、空気中に存在する結核菌という菌を吸い込むことによって引き起こされる空気感染症。この時代で言えば労咳ろうがいと呼んでいますよね?」


「労咳のことを莉菜の時代では結核と呼ばれているんだな」


「はい……兄を亡くしてから、私は人とはあまり接しなくなりました。その後も、両親は、離婚して私は、どちらにも捨てられ、母の実家で暮らしていました。母の実家でも、邪魔者扱いをされていたので、人が嫌いになりました。兄の場合、病なのはしょうがない。けど、夢にまで兄が出てくるんです。父と母は今どこにいるかは分かりません」


「そうだったのか……」


「でも今はこうして、高虎さんたちがいるので安心なんですよ?本当の家族のように向かい入れて貰い、家臣としても頼ってくれる。そんな家族を、あの織田信長は傷つけ、お市様を悲しませた。だから私は信長を殴った。許せなかった。長政様があの時、私の名前を呼んでくれなかったら、信長を殺してた」


「そこまで」


「そうしないと気が済まなかった。今もですよ?」


 私は、右手を強く握りしめた。また、怒りが込み上げてきて血が滲む程握りしめた。


 すると、高虎さんは私の手を擦り、「やめろ」と言ってきた。私は、自然と涙があふれでてきた。


「……なぁ」


「……」


「俺が、お前の兄となろう」


「え?」


 突然の高虎さんの発言に驚き、高虎さんの顔を見上げた。真剣な顔をして本気なんだと思った。


「兄を亡くしたのであれば、俺が代わりに兄となり、莉菜。お前の兄妹となろう。本当の兄妹ではないが、お前の兄の分まで生きよう!」


「高虎さん……」


「遠慮はするな。それとも俺が兄であることに不満があるか?」


 高虎さんにそういわれ、勢いよく首を横に振った。


「不満ないですよ!!」


「それなら、今日、この瞬間からお前の兄にだ!」


 高虎さんは、そう微笑みながら私の頭を撫でた。高虎さんが私のお兄ちゃん……


「あ、兄上!」


 私は、高虎さんのことをそう呼ぶと、高虎さんは悩みだした。


「しっくり来るな……」


「この時代ですから、兄上と呼んだ方がいいのではないかと……」


「それもそうだな。俺も、莉菜のことを妹のように接しよう!」


 こうして、私は高虎さんの妹となった。次の日から、高虎さんの私に対する態度がものすごく甘くなったのであった。

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