三ノ巻~月城と織田②~

前回の続き。


 私、月城莉菜つきしろりなは、小谷城場内の大広間にて、織田信長、その家臣である、羽柴秀吉はしばひでよし明智光秀あけちみつひでと対面している。


 大広間はとても静かで、庭にいる鳥たちも鳴かない。織田信長の重い空気と私の冷たい空気、そして私たちを心配そうに見守っている、明智光秀と羽柴秀吉。長政様は私の真横にいる。そう、私は織田信長に文句を言うためにこの機会を長政様から貰い受けた。お市様との結婚で、お互い手を出さないこと。そして、互いに援軍を要求された場合、すぐさま受け入れ、援軍を出すことを織田信長は約束をし、お二人の結婚は受け入れられた。そこからが問題だった。お市様は、長政様の奥方になると、兄である信長に見捨てられ、二度と兄の前に顔を見せるなと告げられた。ただ単に、織田から追い出したかっただけの事であり、浅井と同盟を組めれば、織田の傘下に入ることを想定したのだろうか、それでお市様を利用し、浅井へと嫁に出し、地位の高い織田家に頭が上がらず、信長の思い通りになった浅井家。そのため、長政様は信長に手足もそして、口も出せずにいた。お市様は、信長に見捨てられ、悲しみを胸のうちに秘めて今も過ごしている。


 私は、先日そう長政様に教えていただき、とある方法で信長を思惑を壊すことにした。


 私は、信長に話しかけた。


「織田さん」


「莉菜と言ったか?」


「はい。先日はどうも」


「長政から聞いたが、浅井の軍師となったとな?」


「えぇ。その通りで御座います。私は、晴れての軍師となりました」


「そうらしいな。それで今日は?」


「織田さんにあるご提案を申し上げたいのですが?お時間の方は宜しいでしょうか?」


「うむ。時間はたっぷりある。な、光秀」


「はい。明日には帰還致しますので」


「そのようにお願いいたしますよ。


「あいわかった」


「では、本題に入らせていただきますね」


「うむ」


 私は、信長にこんな提案をした。まぁ~要求と言った方が良いのかも。


「織田さんにまず、お願い事が御座います」


「御主の願いなら聞こうぞ」


「ありがとう御座います。では、まずそのお願い事なのですが……」



───浅井に援軍を下さい。



「ほう」


「単純な話、織田さんは約束通り、浅井には援軍を出したことはないとお聞きしましたが?ご理由をお聞きしても?」


「出せない」


「へぇ~」


「兵力が足りぬ」


「足りないのか~そうですよね!」


 私は、「半兵衛!」と呼ぶと、障子を開けて。織田の関係者と思われる二人の忍びを連れて入ってきた。


「お久しぶりでーす!このお二人見覚えあるでしょ?援軍を出したと言うのは嘘だよね~!兵力が足りなくて援軍を出せないと嘘ついて、実際はその援軍は、相手側、そう!敵軍側に援軍を出して浅井を滅ぼそうとしていたんだよね~!嘘は善くないよ!信長殿?」


 半兵衛は鋭い目付きで信長を見つめた。あんな半兵衛……見たこと無い。


「証拠はどこにあるのだ?」


「証拠?ありますよ織田さん。こいつらだよ」


 私は二人の忍びに刀をドンと床に突き刺した。すると、忍びたちは泣き目で信長に助けを求め始めた。


「の、信長様!」


「ばれてしまいました!助けて……」


「ばーかだよね~。主の前で泣きながら助けを求めるなんて!織田に手出すな?馬鹿言うなよな?お前らが先に手出してきたんだからな?浅井に、忍びを忍ばせて、情報を盗んでさ~先に自分の所へと流し、相手側とひそかに手を組んで、どちらも浅井を滅ぼさせたくて、まず浅井から援軍要請をされてもお得意の嘘を流し、元々手を組んでいた相手側に援軍を出す。阿保か。そんなに、頼れない?浅井をさ。それじゃあ天下は取れんよ」


「信長殿はなーんでそんなに浅井を嫌ってるの?」


 半兵衛はそう聞くと、信長は大笑いし始めた。


「気が変になった?」


「やはり御主らは面白い!ほしいぞ!」


「嫌よ」


「僕もいーやー」


「理由か?ただ一つだ。浅井を滅ぼせば、浅井の領地は我のものになる。家臣である御主らを我の手元に置けるからだ」


「単純だね~」


「お市様の件はどうなんですか?」


「市か。あれは使い物にならん」


「はぁ?」


「長政を殺せと言ったはずなのだが、一向に殺さない。長政を殺せば、結婚をしなくても済む。そう言ったのだがな。浅井の人間となったあやつは、もう織田の人間ではない。必要の無い人間だ」


 私はその言葉を聞いた瞬間、怒りに駆られいつの間にか信長を殴っていた。


「兄妹をなんだと思ってんだぁぁ!!兄妹っていうのはな!共に支え合い、互いに手と手を取り合って生きていくんだよ!兄が困っているときは妹が兄を手伝い!その反対もしかり、妹が困っているときは、兄が妹を助けるんだよ!無理やり結婚させて、家のために利用するなんて!ただの馬鹿がすることだ!!だから、お前はと呼ばれるんだ!!」


「莉菜っ!」


 私は、また信長を殴ろうとしたが、半兵衛が私に抱きついた。それでも私は、暴れていた。


「離せ!半兵衛!こいつは許さない!!長政様を殺そうとして、妹のお市を泣かせたこいつを!!」


「莉菜!!」


 長政様は大声で私を呼んだ。怒りに身を任せていた私だが、正気に戻り、信長の前に立った。


「織田さん。私のお願い事は……」



───もう二度と浅井とお市様に関わるな

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