三ノ巻~乗っ取り事件~

 斎藤龍興さいとうたつおきの元に来てから二週間がたった。私月城莉菜つきしろりなは、竹中半兵衛と共に町の中にある甘味処で、半兵衛の愚痴を聞いている。斎藤龍興の家臣からの嫌がらせや、斎藤龍興自身からのパワハラがあったらしく、愚痴る相手が私しかいないと、相談してきたので甘味処で菓子を食べながら愚痴を聞いてあげているのだ。


「もう嫌だ~!」


「半兵衛は悪くないよ!半兵衛はあの家臣たちより働いて身体張ってるじゃない!!なのに、なんなのあの!!」


「莉菜はなにもされてない?」


「たまーに尻触られたりするけど」


「なんだって!?もー僕は怒った!!」


 半兵衛はそう言うと、急にその場に立ち上がり、私の両手を握った。


「稲葉山城を乗っとるよ!」


 稲葉山城乗っ取り事件。酒に溺れた悪行を行った斎藤龍興を諫めるために行ったというあの乗っ取り事件!? 


「乗っとるって……」


「なーに!簡単だよ!僕に任せて!」


 数日後、半兵衛はたった一日で稲葉山城を乗っ取ってしまった。私は、半兵衛がいる大広間へと向かった。


「半兵衛!?」


「乗っ取ったよ~!龍興様ってば、凄い交渉してくるんだけど~」


「そりゃーそうでしょ!!たった一日でここを乗っ取ったんだから!やりすぎじゃない?」


「いいや。このくらいやらないと、龍興様自覚しないでしょ?自分が家臣や莉菜に何をしたかをね」


「半兵衛……」


「大丈夫!後で返すからさ!」


「借りたものを返す言い方だね……」


「借りたんだもの~」


「半兵衛らしいや」


 半兵衛が稲葉山城を乗っ取り、しばらくたつと、あの織田信長が何回も城に攻めてきたが、半兵衛に敵わなかった。すると、織田信長は、私と半兵衛を自分陣地へと呼び出し、私たちは、織田信長の元へ向かった。


 何故、私も呼ばれたのかは分からなかった。私たちは、織田信長の陣地へと足を運ぶと、言葉がでないくらいの覇気を纏った織田信長がいた。半兵衛は織田信長に話しかけた。


「あんたが織田信長?」


「そうだが」


「強そうだね~」


 軽っ!? そんな感じで話してて良いの……?いきなり首を切られたりしないの……? そんな風に心配していると、織田信長は私の方を見た。


「……御主、何者だ?」


「ただの薬師ですが……」


「違うな」


「長政様からお聞きになられましたか?」


「うむ。長政が言うには、姫巫女ひめみこの生まれ変わりだとな?」


「そうらしいですね」


「姫巫女なら僕も知っているよ!莉菜その姫巫女の生まれ変わりだったの?」


「大谷さんに狙われるから隠しておけと言われてたの……ごめん」


 私は、織田信長に自分が異世界人であり、姫巫女の生まれ変わりだとバレていたので、半兵衛にも、今までのことを話した。


「そうだったんだね……でも、莉菜が異世界人であろうが、姫巫女の生まれ変わりだろうが関係ないよ!莉菜は莉菜何だから!」


「半兵衛……」


「莉菜よ、半兵衛と共に我の元に来ぬか?」


「……織田さん。私は、浅井長政様の家臣でございます。決して、あなたの元へは行きません。たとえ、お市様の兄であろうが、長政様の義兄であろうが、私は、長政様の元から離れません」


 私は、そう言うと織田信長は大笑いし始めた。


「面白い!気に入ったぞ!だが、我は御主を諦めぬ。精々生き延びてみろ」


「言われなくとも、生きて見せます」


「僕も、賛成!織田信長、僕もあんたのもとへは行かない!僕は、莉菜と一緒に生きる!そういうことなんで!」


 半兵衛は私の手を引っ張り、稲葉山城へと戻った。


 時は過ぎ、半年がたった。半兵衛は斎藤龍興に城を返し、半兵衛は斎藤龍興のもとから去った。私は、長政様から戻ってこいという文を貰い、私も斎藤龍興の元を去ることになった。


 小谷城へと戻る途中、一番最初に半兵衛と出会った甘味処によると、なんと、みたらし団子を食べている半兵衛がいた。半兵衛は私に気づくと嬉しそうに手を振った。私は、甘味処により、みたらし団子を頼んだ。半兵衛は私に話しかけてきた。


「久しぶり!浅井に帰るの?」


「そうだよ!長政様から文で戻ってきて良いよって貰ったの!」


「そうなんだ!ねぇ!僕も一緒に行っても良い?」


「はい!?」


「僕、行く当て無いしさ!それにこうしてまた莉菜と会ったんだから何かの縁?って言うでしょ?僕も、莉菜と一緒に居たいしさ!」


「長政様からの許しがあれば良いけどね~まぁ、大丈夫でしょ!」


「やった!またよろしくね!」


「うん!」


 こうして、私と半兵衛は休んだあと、共に小谷城へと向かうために馬を走られた。そして、この時代に来てから初めての友達が出来たのであった。

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