第1章~浅井ノ章~

一ノ巻~大谷吉継~

月城莉菜つきしろりなは推しである石田三成いしだみつなりの処刑を回避させたいと日々願い、いつも通り眠りにつくと、私に似ている女の子と出会って、不老不死ふろうふしの力を授かった。女の子が消えると同時に、私は目を覚ますとそこはとは違う時代にタイムスリップしてしまった。


 しかも、戦場のど真ん中に寝ていた。怖くないのかって? 怖いに決まってるでしょ! 戦場だよ! しかも、不老不死って何よ! 良く分かっていなかったけど、石田三成を助けられるならなんでも良い! そう思って力を貰っただけで、何故! 戦場のど真ん中にいるのよ! そう叫ぶと、黒い影が私を襲おうとしてきた。私は、背後に気づきどうすれば良いのか分からず目を瞑った。


 すると、何かが私の周りに飛んでいるのに気づき、目をゆっくり開けると、綺麗な藍色あいいろの蝶々が沢山飛んでいたのだ。そして、後ろを振り向くと、黒い影は消えていて、腰まである黒髪が特徴で白の着物を着てその上に、水色の羽織りを身に纏った男性がいた。男性は無言で私の手を取って走った。


 しばらく走っていると、小さな小屋に着いた。私と黒髪の男性は、その小屋の中へ入ると小屋は静かで誰も住んでいない感じだった。私は、黒髪の男性にお礼を言った。


「あ、ありがとうございます!綺麗なお人!」


 すると男性は、クスっと笑った。


「綺麗なお人か……面白いな」


 男性の声は透き通った声だった。男性は、私に名前を聞いてきた。


「お前は何て言うんだ?」


「私は、月城莉菜つきしろりなと言います。失礼ですが、貴方は?」


「俺は大谷吉継おおたによしつぐ浅井長政あざいながまさ様の家臣だ」


 私は男性の名前を聞き、困惑した。ここは? もしかして戦国時代!? だとしても、あんな気持ち悪い影なんかいないはず……。それよりも、大谷吉継って石田三成の無二の親友で、最期まで友のために戦い続けたあの大谷吉継!? 私、タイムスリップした瞬間から凄い人としゃべちゃった……。


 私は困惑しながら嬉しさのあまり泣いてしまった。すると、大谷吉継は私の頭を優しく撫でた。


「怖かったな。しかし、莉菜。お前はこの時代の者ではないな?」


「へっ?」


 私は、大谷吉継に戦国時代の人間ではないとすぐにばれてしまい、思わず間抜けな声が出た。大谷吉継は私に、「殺したりはしないから話してはくれないか?」と言い、私は全て話した。


 すると、大谷吉継は「成る程」と小さく言った。


「だいたい理解はした。だが、莉菜が知っている戦国の世とは違うな……」


「どういうことですか?」


「今の時代は、莉菜の言う通り戦国時代だ。しかし、先程見た黒い影が至るところにいる。莉菜の知っている戦国時代とは違う。あの黒い影に襲われたものは死ぬ。いつからあんな者が出始めたのかは分からないが、生まれた頃からあの影は存在していたからな」


 本当に私が知っている戦国時代じゃないんだ……。でも、あのスライム状の黒い影は一体何? 大谷吉継も知らないって……この時代はおかしい。


「莉菜。戦が終わるまでこの小屋に身を潜め。俺は、長政ながまさ様に報告に向かわなければならない。いや、大丈夫か……蝶を飛ばそう。そうすれば、長政様も気づいてくれるはず。そうと決まれば、莉菜。お前に話さなければならない」


「何をですか?」


「今から話すことは、一部で伝わっている話だ。長政様や俺、高虎たかとら、そして莉菜が知っている石田三成いしだみつなりしか知らない。あまり他人には話してはいけない。仮に話してしまえば、お前が狙われてしまう。あの影にも。だから、この話しは秘密だ。良いな?」


 大谷吉継にそう言われ、私は頷いた。大谷吉継は微笑み「わかった」と言った。そして、私は、大谷吉継から「姫巫女」という私と同じ、不老不死の能力を持った哀しき巫女の話を聞くことになったのであった。

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