第20話 龐統、陣立てをする

 ドリーはフランシス殿の的盧に乗って、百名ほどの手勢と共に西門へと向かった。

 ワシの『蟻地獄の計』が成るには彼女の動きに全て、かかっていると言っても決して、過言ではない。


 モーラの手勢は非常に少ない。

 町の規模は見たところ、上庸――後漢時代の行政区分の一つで龐統の出身地である荊州の西に位置していた。重要な漢中と接しているが大都市ではなく、中規模の都市――くらいはあるだろうか?


 上庸はあの規模を誇りながらも土地が貧しく、生産力が低いことで知られていた。

 その割に人口が多かったのは戦略上、重要な地であったのが大きい。


 このモーラにはそこまでの戦略的な価値はない。

 東側が湖に面している影響であまり、発展しなかったと考えるのが妥当か。

 そのせいか、パッと見で勘定した限りでは上庸の五分の一もいない。


 上庸の人口はおよそ、十万くらいだったろうか。

 町並みは広いのにどこか、閑散とした感じが否めないのは人の少なさゆえといったところだろうなあ。

 多く、見積もったとしても二万。

 少なく、見積もったら一万しかいない。

 この町の動員出来る兵が少ない訳である。


 かなり無理に動員をかけ、集めても二千の兵が限界らしい。

 市街戦になる以上、無理に動員をかけて集める必要はない。

 有志という形でもって、協力を仰げばいいのだからな。


 そして、集まった兵は千しかいない訳だよ。

 その中から、森に潜ませる兵――伏兵――に六百。

 ドリーと行動を共にする敵を挑発する決死の兵が百。

 残った三百がモーラを守る守備兵ということになった。


 伏兵はフランシス殿に指揮を任せた。

 彼らがもっとも得意とする騎馬隊で編制している。

 頃合いを見て、合図とともに吶喊とっかんしてもらうことになる。


 ワシは守備部隊を指揮する。

 いささか特殊な戦い方となる。

 ワシらは出番を待たねばならない。


 それまでは姿を見せず、息を潜める必要があろう。

 奴等が蟻地獄にかかった時、一斉に飛び道具で攻撃する手はずである。

 これには有志の市民にも参加してもらう。

 弓だけでは心許ない。

 石や熱湯、何でもござれである。

 要は目に物を見せてやれば、それでいいのだ。


 対するエルヴダーレンの兵力は先陣だけでも三千はいるようだ。

 この先陣が御自慢の騎馬隊と見て、間違いないか。


 斥候からの報告なので確かな情報である。

 本陣と後詰は五千以上と考えられるので全軍合わせて、一万といったところか?

 兵力差は十倍であるなあ。

 いやはや、参った。


 自然と笑えるくらいに追い詰められた状況ではないか。

 十倍差であれば、赤壁の戦いとほぼ同じとも言えるな。


 ワシの腕の見せ所であるぞ!

 楽しくなってきたぞ!

 孔明であれば、涼しい顔で粛々と策を弄するところだが、ワシにあのような芸当は真似が出来ん。


 暑苦しく、泥臭くなろうが勝たねば、話にならんのだよ。

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