第12話 龐統、大男に既視感を覚える

 ドリーが扉を開けに行くと大柄な壮年の男性とボロキ……ブルなんたら娘が折り重なるようになだれ込んできた。


 気合と体重のかけ過ぎではなかろうか?

 扉が壊れそうだといらん心配をしてしまったぞ。


「シゲン殿! まっこと、すまんことをした! うちの者が本当に申し訳ないことをした。何とお詫びしても許されんっ!」


 特別にあつらえたと一目で分かる装束に身を包んだ大柄な男である。

 見るからに身分が高いと分かるのにも関わらず、男はワシの前で床に膝をつくとこうべを垂れた。

 中々、出来るものではない。


 ワシが知る限りではこのような人たらしの動きを自然に行える人間は玄徳劉備殿くらいだ。

 ただ、いささかの暑苦しさを感じる。

 玄徳殿と比べると三割増しの暑苦しさである。


 この無駄に暑苦しいくらいの善意と熱意。

 どこかで見覚えがあると思ったが、益徳張飛殿や文長魏延に通じるものがあるのだ。

 益徳殿は短慮ではあったが、真っ直ぐな御仁ではあったな。


 自らの間違いを認め、謝罪する。

 簡単なようで誰にでも出来ることではないのだ。


 そういった意味では悪い人間でないと考えて、間違いないだろう。

 良くも悪くも真っ直ぐな人柄は嫌いではないよ?

 分かりやすいからな!


「お父様。シゲン様がその……呆れておられますよ。恥ずかしいわ」


 ボロ……いや、ブリうーたら嬢だったかが、借りてきた猫のように縮こまっていた。

 あれだけの酷い目にあったのに全く、感じさせないのは強がっているのか?

 それとも芯が本当に強い娘なのか。


「そうであった。それがしはフランシス・エークルンド。このモーラの領主であります。娘を助けてくれたシゲン殿……いや、先生! 某はどうすれば、先生の御恩に報いることが出来ましょうや」

「あ……ワシは人として、当たり前のことをしただけでしてな」


 背筋がヒヤッとしおった。

 ドリーのヤツに半目で氷のような視線を向けられたのだ。

 だが、ワシは気にせんぞ。

 実際に助けたのは事実である。

 ドリーのせいで無理矢理、舞台に上げられた気がするがそれは気のせいというものだ。


 過程ではなく、結果が重要であると心得る。

 勿論、過程は重要なのだよ?

 だが、こういった異郷の地で勝手が分からぬ場合は臨機応変こそ、肝要と言えよう。


「まっこと、先生こそ、武人のかがみですな! トロルのような醜さに負けず、よく頑張った! 某は感動した!!」

「ぬおっ!? あいたたたた」


 フランシスと名乗った大男に悪気はないのだろう。

 寝台から上体を起こしているワシを抱き締めた。

 それこそ、ギュッという妙な音が出るくらいの強さである。

 骨が軋んだ音ではないのかね?


 彼方で鐘の音が鳴るような幻聴が聞こえてくる。

 ドリー、疲れたろう。

 ワシはもう疲れたよ……。


「シゲン。寝るな。まだ、終わりではない」


 そんなドリーのちょっとばかり、焦った声が聞こえたが限界である。

 意識を手放したワシ、悪くない。

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