第8話 この世は焼肉定食
無駄に顔がいいだけで腹が立ってくる賊である。
お主、ワシの引いた線を越えてしまったな。
あれほど、線を越えないようにと注意したが、意味がなかったようだ。
これだから、顔がいい者は困るなあ。
なあ、そうだろう?
顔がいいから、許されると思ってはいかんのだよ。
ここは自制すべきところだろうになあ?
「
ムカムカとした思い。
顔がいい男らへの積もり積もった積年の恨みとでも言おうか?
決して、焼肉を食べたかった訳ではない。
苦肉の策を思いついて、焼肉を連想した訳でもない。
ワシのこのお腹はほぼ酒によるものである。
顔と背丈は親譲りのものなのだ。
「士元。お前の顔がもう少し……母を許しておくれ」と涙した母上の姿をワシは決して、忘れない。
ああ。
その思いが炎となって、ワシの口から出たのだ。
全てが吐露されたぞ。
スッキリー♪
「なんじゃ、こりゃあ」
目の前の風景は全く、スッキリしたものではない。
火矢どころの騒ぎではないぞ、こりゃ。
赤壁で天を焦がした炎よりも危ない光景だなあ。
ああ、驚いた。
ワシの口から、言葉とともに業火の渦が噴き出したのだ。
大変だなあ。
賊の輩は目の前から、炎の渦が来るとは思ってなかったんだろうて。
上半身をこんがりと焼かれ、絶命した人間など見るものではないぞ。
炭だな、これは……。
「上手に焼けてない♪ シゲン。少し、火力強すぎ。私はもう少し、レアがいい」
「食べるのか!?」
「いや。人は食べない」
「そ、そうか」
露出狂幼女は時に良く分からないことを言う。
人は食べないと言った時、幼女とは思えない何とも言えない妖艶な笑みを浮かべた。
怖いんだが!
さすがは良く訓練された変態だ! などと感心している場合ではない。
「野郎ども! 取り囲んでやるぜ!」
賊はまだまだ、たくさんいるのだ。
粗末な物を出していた頭らしき男もそそくさと下衣を上げ、臨戦態勢に入っている。
「行け、シゲン。十万度アタックだ!」
「ボッヤー!」
ついドリーの口車に乗せられるように返事をしてしまったが、何をどうすればいいのだ?
疑問が頭に浮かぶよりも前にワシの頭脳が先に答えを導きだしたようだ。
さすが、ワシ。
さすが、軍師。
「能書きはいらない。シゲン。早くやれ」
ワシが線を引いたのは十歩先の場所である。
この十歩先というのが重要だ。
曹孟徳に悪来の異名を持つ豪傑である典韋という男がいた。
悪来というのは大力で知られた勇士なんだが、この典韋という男もたいそうな怪力の持ち主だった。
優秀な護衛だったと伝えられている。
かの飛将軍・呂奉先の軍と戦った際に部下に十歩の位置に敵が来たら、教えるようにと言った典韋は宣言通り、十歩以内に入った敵を
つまり、十歩最強である。
ワシ、冴えているな。
「シゲン。十歩だ」
「
その時、賊の一人が線を踏んだ。
瞬間、ワシの双眸より放たれた眩き
それはもう見事にパァーン! と瓜が破裂したように爆発四散したのである。
何を言っているのか、分からないと思うがワシも分からない。
十歩でパァーン! で分かる方がおかしい。
孔明なら、分かるのだろうか?
それはそれで何だか、ムカムカする話だな!
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