第3話 龐統、魔法使いになる

「魔法使いにあなたはなる」


 露出狂の変態少女はワシを指差すとそう宣言したさね。

 そこは『あなたは魔法使いになる』ではないかね?

 指摘はせんよ。

 面倒そうさね。


 下手に絡むと新たな扉を開きそうさね……。


「いや。一ついいかね? 魔法使いとは何かね。ゴ……殿?」

「違う。ゴディンではない。私は杖を振るう者――ゴンドゥル。呼びにくいのなら、ドリーと呼んで」

「はあ。その方が呼びやすいさね。いや、そうでないさ。魔法使いが分からんのさね。何ぞや?」

「そこから、分からないの? この豚野郎」


 変態少女はそう言うとワシを蔑むように鋭い視線を向けてくる。

 面倒そうでこちらから、絡まなかったのに向こうから、新たな扉を開くさね。

 どうしたもんかね?


 ワシ、そういう被虐の趣味ないさ。

 悪くないとも思い始めておるがね。


「魔法。それは神秘の力。魔法。それは冒険の扉を開く鍵。魔法。それは……」

「それ、いつまで続くさね?」


 変態少女は口上を途中で止められたことに相当な不満があるようさね。

 目つきだけでも感じられるワシへの非難がましい雰囲気というものさ。


「シゲン。まずその言葉遣いを矯正。その後に基礎から、みっちりと勉強」

「へ、へい」


 そこからの変態少女の変貌ぶりにはたまげたさね。




 どれだけの時間が経過したのだろう。

 頭がおかしくなりそうだ。

 実際、おかしくなってきた気はするさ……するな。


「大分、よくなった」

「へいへい。そうですな」

「シゲン。その言葉、良くない」


 下手な態度を見せるとあの目敏めざとい変態少女の容赦ない鉄拳が飛んでくる。

 勿論、手加減はしてくれているようだ。

 むしろ、罰にならない程度で御褒美といってもいいやんわりとしたビンタである。

 ある意味、癖になるのではないか?


「魔法、理解した?」

「理解はした。頭ではという意味だ」


 太平道や五斗米道――中国・三国時代に広く布教され、一派を築いた道教の一種――の行者が使う道術に近い物だろう。

 森羅万象の力を借りるだとか、この世ならざる者の力を借りるだとか、そういう類の物と考えても特に問題がないようだ。


 不思議なのはその魔法とやらを誰でも使うことが出来るということだろう。

 ワシが生きていた頃は火を付けるだけでもそれなりの労力を伴ったが、発火させるだけの簡単な魔法であれば、生活魔法として一般民衆ですら、使えるのだという。


「しかしな。ドリーさんや」

「シゲン。その言い方、良くない。私はばあさんではない」


 細かい。

 実に細かい。

 この巨乳露出狂変態少女。

 事務的な喋り方しかしない癖に言い終わると両手を組んでわざと胸の谷間を強調する姿勢を取ってから、ワシを見下したように薄ら笑いを浮かべるのだ。

 実に腹立たしい。


「じゃあ、やらないでいい?」

「いや、やってください。お願いします」

「そう」


 勝ち誇っている顔をしている。

 何とも腹立たしい。

 大事なことだから、二度目だ。


「おかしくはないか?」

「何が? おかしくはない」


 この態度である。

 ワシの方がおかしいということなのか?

 んだが、ワシが間違っているんだろうか?


「シゲン。時間がない。そろそろ行く」

「は? どこに? 聞いてない」

「あっ! カモがネギを背負って歩いている」

「なにー!? そんな馬鹿な話があるか」


 そう叫びつつもつい余所見をした瞬間、お尻に随分といい蹴りを貰った。


「あーれーーーー」

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