ミク、恐ろしい娘!

 12月に入り、東京は一気に冷え込み、寒くなった。




 ミクは、陽子に話しかける。

「横田先生は、今年のクリスマスも帰って来るのかな?」

「たぶん。毎年、クリスマスから年末年始にかけては、実家で過ごすから」

「今年も実家なのかな。みんなは、東京に住んでるよね」

「どうだろう」

「いっそのこと、横田先生のご両親を横田ハウスに呼んじゃえば良くない?」

「それは、祖父母しだいだね」

「るるちゃんも呼んで、みんなでクリスマスパーティしようよ」

「それじゃあ、連絡してみる」

「よろしくね」




 ある日の夕食時、ミクは宣言する。

「今度のクリスマスから年末年始は、アメリカから誠さんのお父様が。田舎から祖父母が横田ハウスにいらっしゃることになりました。みんなでクリスマスパーティを開いて、三人をおもてなししましょう」


「え?」

「なにそれ。突然」

「先方の都合は確認できたんですか?」

「それは今からします」

「ダメじゃん」


「つきましてあたしは、折衝のため、明日から出かけてきます。クリスマスまでには帰って来るから、パーティの準備はよろしくね」

「学校は?」

「授業の内容なら、全部理解してるからだいじょうぶ」

「出席しないと単位、取れないよ」

「その時は退学して、横田ハウスに就職しようかな」

「はあ?」



 翌朝。ミクは、リュックサックを背負って、家を出て行く。

「クリスマスパーティの準備の進捗は、しっかり訊くから、くれぐれも、抜け駆けしないように」


 一同は、唖然として見送った。




 ほどなく、祖父母とのスナップショットや、横田優人とのツーショット写真が送られてくる。


「ミクはいったい、なにしてるの?」




 クリスマスが近づくと、大きなもみの木が庭に立てられた。さらに、電飾や飾り付けが送られてきた。手書きのはがきが同封されている。


「飾りつけよろしくね(ハート)」


「ハートじゃね~よ!」

「でも、飾ったら綺麗ですよね」

「とても一日じゃ終わらないよ」


 誠は言う、

「みんなで手分けしてやろう」


 一同は瞬時に理解した。

 こういう状況になれば、誠がそう言うのは当然だ。みんなも手伝わざるを得ないから、個人で誠を独占することはできない。


 彩、デイフィリア、えこみ、るる。四人はクリスマスパーティの手伝いをすることになり、個別に動けなくなった。クリスマスでの攻め手を封じられた四人。攻撃を封鎖する、巧みな策。


 「ミク、恐ろしい娘!」




 ミクは、誠の父、祖父母と共に、クリスマス三日前に帰ってきた。

「ただいま~。ツリーの飾り付け、どんな感じ?」

「あなたのおかげで綺麗にできました」

「ホント!? 夜が楽しみだなあ。ね、おじいちゃん。おばあちゃん」

「昔は家ごと電飾するなんて、あったらしいがな」

「疲れたでしょ。部屋まで案内するね」

 ミクは、ふたりの荷物を持って、エレベータへ案内した。三人はエレベーターで3階まで行く。


「あの娘。おじいちゃん、おばあちゃんと、めちゃくちゃ仲良くなってない?」

「外堀から埋めだしたな」




 クリスマス当日。


 電飾に彩られたもみの木が庭で輝き、食卓には、本場の七面鳥が丸焼きになってテーブルの中央に鎮座している。


「七面鳥の丸焼きって初めて見た」

「私もです」

「あるんだね」


 ケーキは小分けにひとりひとつずつ、配られる。未成年にはジュースが配られ、成人にはシャンパンが配られる。




「若輩ながら、私、ミク・キャサリン・クラークが、パーティの進行をせて頂きます。本日は、お忙しい中、お集まり頂き誠にありがとうございます。横田優人さんには、このような住まいを提供して頂き、居住者一同を代表してお礼を言わせていただきます。ありがとうございました」


 ミクは、優人にお辞儀をする。


 優人はお辞儀で返す。


「4月に同居を始めてから、今では、横田誠さん、横田陽子さん、キャンディ・ハインラインさん、手塚えこみさん、アンさん、デイフィリア・ディックさん、小松彩さん、そして私と、総勢8名の大所帯になりました」


 ゲストが加わったリビングは、いつもより狭く感じる。


「本日のゲスト。陽子ちゃんの同級生、宮部るるちゃん。誠さんの祖父、横田優太郎様。同じく祖母、横田奈菜様。そして、この家のオーナー、横田優人様。乾杯の音頭をお願いします」




「ただいまご紹介にあずかりました、横田優人です。最初にお礼を言わせてください。ミクちゃん。彩ちゃん。デイフィリアちゃん。えこみちゃん。俺の申し出を受けて、ここに住んでくれてどうもありがとう」


 みな、会釈する。


「アン。キャンディ。ここの管理監督を丸投げして申し訳ない」


 どういたしまして。という風のふたり。


「なぜか今年は、親父とお袋がここにいるので、調子が狂うが、来てくれてありがとう。るるちゃんもありがとね」

「お招きいただき、ありがとうございます」


「陽子と誠。ここの生活は楽しんでるか?」

「楽しんでるよ」

「まあ、ぼちぼち」


「挨拶が長いのは年寄りの悪い癖だ。乾杯しよう」


 みな、グラスを持つ。




「メリークリスマス!」


 皆は声をあげる。




「メリークリスマス!!」

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人間を失格した科学者は羅生門で美女を創る おだた @odata

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