日常

「AI加工された写真ってなに?」


「バカ」

「なに言ってんの」


「その写真、見せてくれる?」

「ここで見せるのは、ちょっと」

「それじゃ、校舎の陰に行こうか」




 見せられたのは、劇で見せた彩の死体姿に、セクシー女優の画像をAIで合成した写真だ。乳首も股間もあらわな姿。

「なるほど。良くできてるね」

「すいません。ご存知だと思ったのですが」

「どうせAIで合成するなら、おっぱいをもうちょっと盛ってくれても良くない?」

「え?」

「そう思わない?」

「えっと、その、どうでしょう」

「そこは、そうだそうだ! って乗り突っ込みするところだよ」

「え? はあ。彩さんて、意外とお茶目なんですね」

「ちょっと笑っちゃいます」


「教えてくれてありがとう」

「不愉快じゃなかったですか?」

「あなたが悪い訳じゃないんだから、謝る必要なんてない」

「彩さんの死体。とても素敵でした」

「私こそ。ありがとう」




 誠たちと合流する。

「なんだったの?」

「私が劇で半裸になった姿に、AIで全裸に合成した写真が出回っているそうです」

「なにそれ」

「ミクと同じパターン?」

「そうです」

「むかつくなあ」

「アイドルでも、写真集に載っている水着姿を加工して出回っているじゃないですか。おなじことですよ。気にしたら負けです」

「彩は対応が大人だな」

「さあ、学園祭を回りましょ」




 屋台で買ったジャンクフードを昼食代わりに。人気のある露店は、既に売り切れの看板が掲げられている。

 お化け屋敷や、アトラクションなど回っていると、学園祭終了時刻がせまる。そうなると、屋台も食材を余らせてももったいないので、安売りを始めたり、食材をミックスしたり、大盛とか、特大盛とか販売し始め、一般客に加えて、生徒や先生まで参加して最後の学園祭を楽しんでいる。




 校内放送が流れる。

「本日をもって、学園祭は廃止となります。屋台や看板などは、明日、産廃業者が解体して回収します。廃棄物に限り、落書きや持ち帰りを認めます。みなさん、はしゃいじゃってください」




 営業の終わった屋台や出し物から、クラスメイトが思い思いの落書きをしたり、スタッフ専用Tシャツや暖簾に寄せ書きをしたり、出し物の前で集合写真を撮ったりして、思い出を刻んでいる。




 誠たちクラスメイトも、教室に集まって、劇の上映会が始まった。

 上映後、劇のデータがクラスメイトに配られる。生体認証がキーになっているので、クラスメイトしか観られない。



 さらに、衣装や小道具が並べられ、衣装はそれを着た本人に贈られた。ミクと彩にも、肌色の水着が贈られる。

「なんか恥ずかしい」

「でも、嬉しいです」

「こんど着てね」

「こんな恥ずかしい水着、着れないよ」

「遠くから見たら、裸と見間違いそう」


 その時、誠は、顔色の悪そうな彩に気がつく。

「彩。調子悪そうだけど、大丈夫?」

「ちょっと暑いですかね」

 誠が、彩の額に手を当てる。

「熱いよ。保健室へ行こうか」

 誠に付き添われ、教室を後にすると、ミクとデイフィリアも付き添う。

「今日は四人、一緒の行動だからね」



 保健室で体温を測ると、38.2℃の熱が。

「今日は帰ろう」

「学園祭の疲れが出たのよ」

「稽古もあったしね」


 誠は、彩を背負う。ミクとデイフィリアが、ふたりの荷物を持つ。夕日を背に、家路を歩く。

「学園祭、楽しかった~」

「ふたりの演技にはやられたよ。まさに体当たりの演技」

「せっかくやるなら、良いものにしたかったし。ね、彩」

「はい」


 背から体温が伝わる。身体から匂いがする。腕を絡める。今だけは誠をひとり占め。ふらふらする頭。でも、気持ち良い。




 彩の部屋。


 彩が寝ている。えこみが測定器を見て言う、

「体温以外、バイタイルに問題ないわね。学園祭の疲れが出たのよ。再生臓器だらけのあなた、無理しすぎ」

「私のこと、知ってるんですね」

「もちろん。ちょっと身体起こして」

 彩が身体を起こすと、首の両脇に冷却材を貼る。

「頸動脈を冷やして、今日はこのまま寝なさい。補水液を置いておくから、こまめに飲むこと。夜中に目が覚めると思う。特製卵粥を作っておくから、食べて」

「ありがとうございます」

「これで2、3日、様子をみましょう」

「まるで医者みたいですね」

「医者みたいじゃなくて、医者よ。アメリカで医師免許取ったの」

「凄い」

「たいしたことないよ。アメリカには私より凄い人間がゴロゴロいるんだから」

 微笑むえこみ。

「おやすみ」

「おやすみなさい」




 数日後の朝。

 制服姿で彩はあらわれた。

「みなさん、おはようございます」

「だいじょうぶ?」

「ご心配おかけしましたが、もう大丈夫です」

「心配したよ」

「元気になって良かったね」




 久しぶりに、横田ハウスメンバーが全員そろっての朝食だ。


「家には管理人のあたしと、冴えた医者と、有能なメイドがいるから、だいたいのことは大丈夫よ」

「それって、えこみさんと、アンのこと?」

「そう」

「えこみさん、医師免許もってるそうです」

「医者なの?」

「二十歳なのに」

「飛び級か」

「ミクもその気になれば、飛び級で大学卒業ぐらいできるんじゃな?」

「あたしは、今の生活が気に入ってるから」

 チラッと、誠を見る。

「飛び級には興味ないかな」

「学校の授業、退屈じゃない?」

「授業中はだいたい、日本語の勉強してるから。漢字とか、慣用句とか」

「日本語の勉強も、大概、進んだでしょう」

「日本語以外は、いろんな分野の論文読んでるかな」

「だったら飛び級しろよ」


「そういうデイフィリアは、将来、なにになりたいの?」

「体を動かす仕事が良いな。今の時代、頭を動かす仕事は、AIでほとんどできちゃうからね。私が生きていた時代じゃ、信じられないけど」

「彩は?」

「やっぱり、医者でしょうか」

「医者。良いね」

「いくらAIが発達しても、外科手術は人手が必要だし。なにより、私が今、こうして生きているのは、そういった医者のおかげですから」




 その時、デイフィリアに電話がかかってくる。

「ちょっと、電話」

 デイフィリアは席を立って、廊下で電話に出た。

「Hello」




 夜。誠の部屋を訪ねるデイフェリア。

「誠。私とデートして」

「急だね」

「10月26日。私の誕生日なの。誕生日プレゼントだと思ってさ」

「だったら、みんなでお祝いしよう」

「ダメ。このことは、ふたりだけの秘密」

「どうして?」

「どうしても」


「わかった。デートしよう」

「やった。デートプランは私が考えるから」

「了解」

「それじゃ、おやすみなさい」


 デイフィリアは、誠の部屋を出て行った。






 おまけ




 ミクは、学園祭で着た、肌色の水着を着てみた。


 うわあ。これを海やプールで着る勇気はないなあ。

 でも、まあ、誠とふたりきりならありかな。




 彩は、学園祭で着た、肌色の水着を着てみた。


 恥ずかしいけど、海やプールで着てみようかな。

 誠とふたりきりのデートで、着てみたい。

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