学園祭

 劇を終えた出演者、スタッフ、クラスメイトが集まった。


「お疲れさま」

「おつかれ~」

「楽しかったよ~」

「楽しかった」

「大変だったけどね」


 ミクは言う、

「ホントだよ。あたしなんか、ラストシーン、裸の設定なんだもん」

「肌色の水着と、炎とか、煙とか、ライト強く当てたりして、うまくごまかしたじゃん」

「それでも恥ずかしかったよ」

「実際、客席から見ていたら、まあ、エロかったよ」

「もうお嫁に行けない」

「これは誠が責任を取らなきゃな」

「なんでそうなる」

「ふたりは、そういう関係になったんだから」

「演技だよ」

「誠さん、責任とってください」




「彩もまた、エロかったね」

「胸元と、股間は、シーツで隠していたけど、お腹の傷を、わざわざ見せるなんて、なかなかできないよ」

「私、演技には自身がなかったので、死体役ならできるかなと。セリフ無いし。それに、他の子に傷のメイクするんだったら、私の傷を見せた方が、リアルじゃないですか」

「恥ずかしくなかったの?」

「ちょっとは恥ずかしかったけど、この身体を含めて、小松彩だと、皆が認めてくれましたから」

「友情の勝利だな」




「出し物は終わった。みんな、後は自由に、二日間の学園祭を満喫してくれ。解散!」




 ミクと、彩と、デイフィリアは、誠と学園祭を回りたい。

「「「誘わなくてわ!」」」




 ミクは、劇を振り返る。

 誠の背中。合気道を習っているだけあって、筋肉質な背中に負われた。練習の時、なんどもやった。背から誠の匂いがした。早く、誠を誘わなきゃ。



 その時、ミクは女生徒に囲まれる。

「良い演技でした」

「すぞく、感動しました」

「綺麗でした」

「エッチなところも含めて、ミクさんのファンになりました」

「一緒に学園祭を回りませんか?」

 ミクは、ファンの女子に連れ去られた。




 彩も、女生徒に囲まれる。

「彩さんの勇気に感動しました」

「辛い過去があったんですね」

「傷を隠さず、あえてさらけ出す姿勢。尊敬します」

「一緒に学園祭を回りませんか?」

 彩は、ファンの女子に連れ去られた。




 デイフィリアは言う、

「ふたりとも大人気だな」

 これは、漁夫の利かな。

「誠、一緒に学園祭。回らない?」



 突然、えこみがやって来て、誠の肩に手を回す。

「劇見たよう。大感激だよ。特に誠君の熱演に心打たれた!」

「どうもありがとうございます」

「私、日本の学校の学園祭、初めて。誠、案内してね」

 えこみは誠の腕を取って、学校の中へ消えて行く.




 呆然と見送る、デイフィリアだった。

「三人とも、人気あるなあ」




 学校の中を巡る、誠とえこみ。

「なにか、おすすめは?」

「ポピュラーなのは、お化け屋敷とか、たこ焼きとか、喫茶店とかかな」

「お化け屋敷? なにそれ入ってみたい」



 ふたりでお化け屋敷に入る。お化けの衣装を着た高校生が、一生懸命、20歳の大人を驚かせる。

「キャー」

 と、悲鳴をあげるが、それは恐怖心というよりも、ほとんど楽しんでいる様だ。


「おもしろかった~」

「おもしろい…」

「みんな、一所懸命だね」



 コスプレカフェで、アニメやゲームの衣装を着た高校生たちに、紅茶とケーキをご馳走になったり、ゲームをしたり、たこ焼きを食べたり。

 ふたりは学園祭を楽しんだ。




「楽しい~。日本の学園祭って、本当にお祭りみたいだね」

「アメリカにはありませんか?」

「アメリカは、クリスマスとイースターかな。特に、イースターは盛り上がるよ。それでも、学園祭みたいに、何でもありってことはないよ」

「学園祭も、今年で廃止なんです」

「そうなの?」

「保護者や近隣住民から、苦情が多いらしいです」

「そっかー」

「廃止している学校、多いですよ。うちの学校が今までよくやっていたと、先輩が言っていました」

「こういうバカ騒ぎ、好きよ」

「こういうバカ騒ぎが、できないんですよ」

「世知辛いね、日本って」




 その夜、誠が部屋でくつろいでいると、端末に龍之介からメールが届いた。

『ミクちゃんが噂になってるぞ』

 メールを開く。

『ミクちゃんの動画だ。もちろん、最初は18禁専用のサイトに投下されたものだが、コピーされて出回ってる』

 添付動画は、昼間、演じた劇のラストシーン。俺とミクが抱き合うシーンを、セクシー女優とAI合成し、あたかも、俺とミクがセックスをしているかのように描かれているのだ。


 なんじゃこりゃ!


 こういうのは、ミクのためだと思って隠している方が、状況を悪くする。いずれ本人の耳に入る。俺は、横田ハウスメンバー全員をリビングに集めた。




 事情を説明し、動画をみんなに見てもらった。もちろん、ミクにも。


「これって違法行為ですよね?」

 キャンディが冷静に状況を説明する。

「違法行為だけど、一度、拡散してしまったデータは消せない」

「警察がAIで取り締まっているはずですけど」

「警察が取り締まっているのは、最初に画像をアップした者と、それを別のサーバーに拡散した者ね。個人のPCに入ってしまったものは、どうしようもない」

「つーか、これ、学校が記録用に撮影した動画が元ですよね。学校が漏洩したってことですか?」

「故意に漏らしたのか。ハッキングされたか。それは学校に訊いてみないとわからない。その辺は、私が動くから。一番の問題は、ミクちゃんの心よ」


 全員の視線が、ミクに注がれる。


「正直、気分が悪いです」

「明日は学園祭二日目。最終日。無理して学校に行く必要はない。一日、家にいる?」

「いえ。今日、閉じこもってたら、ずっと家から出られなくなりそうですし、なにより、そういう卑怯なやからには負けたくありません」

「既に知っている人がいると思っていて。心無い言葉をかけられるかも知れないけど、気をしっかりもって」

「はい」

「何か言われても、無視すること。愉快犯に反応すると、余計、つけあがらせるだけだから」

「わかりました」

「みんなも、よろしくね」

「わかりました」

「OK」


「ちょっとまった」

「どうしたの? 誠」

「受け身だけじゃ芸がない。俺に策があるんだけど」

「?」




 翌日。学園祭二日目が始まった。


 誠。ミク。彩。デイフィリアの四人はそろって、夏に着た浴衣姿で、学園祭に登場した。ミクをひとりきりにしない。強いみかたがいる。今日は四人で回る。

「三人とも、リラックスして学園祭を楽しもう」


 学校内は、いたって平常運転で、ミクに詰め寄るような人はいない。学校内も、コスプレや着ぐるみが闊歩しているので、浴衣姿の俺たちが目立つようなことはない。

 しかし、時間がたつにつれて、男性の一般客が増え、ミクを遠くから撮影するやからが現れた。

「どうする? 注意する?」

「許可のない撮影自体、規律違反。学園祭実行委員にまかせて、無視しよう」




 一般論として、デザイナーベビーとして完成された美人のミクは、どこでも目立つ。動画が流出したのは昨夜、ほんのわずかの間だ。世界でいったい何人が、あの動画を見ただろう。ミクに気が付く人は、ほとんどいないのではないだろうか。杞憂で終わることを願うばかりだ。




 数人の女生徒がミクに歩み寄る。

「昨日は、一緒に学園祭を回ってもらって、ありがとうございました」

「楽しかったです」

「浴衣、とても似合ってますね」

「撮って良いですか?」


 ミクって女性にも人気があるよな。美人で人柄も良い。



 彼女たちは、写真を撮り、お礼を言って、去って行った。




 数人の女生徒が彩に歩み寄る。

「昨日は、一緒に学園祭を回ってもらって、ありがとうございました」

「楽しかったです」

「浴衣、とても似合ってますね」

「撮って良いですか?」

「どうぞ」


 彼女たちは彩を撮る。



 撮り終えて、ひとりの娘が言う、

「ネットに、AI加工された写真がアップされてますけど、あのシーンはとても良かったので、気にしないでください」


「AI加工された写真ってなに?」

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