みんなの夏休み・その2

 風景はアメリカから一転して、牧歌的な日本の山並み連なる田舎へ移る。


「親父! 御袋! ひさしぶり!」

「優人、帰って来たか」

「今日は、東京で俺がお世話をしてるメンバーも一緒に連れて来た。紹介しよう。大学で同じ研究をしている相棒、キャンディ・ハインライン」

「はじめまして。今日はお世話になります」

「研究に協力してくれた、小松彩さん。ミク・キャサリン・クラークさん。デイフィリア・ディックさん。三人とも誠のクラスメイトだ」

「よろしくお願いします」

「おじゃまします」

「お世話になります」


「そして、家事全般をやってもらってる、アンだ」

「アンです。アンドロイドです。こちらの家でも家事を手伝わせていただきます。どうぞよろしくお願いします」


「いやはや、みなさん、礼儀正しい可愛い娘たちだ。どうぞ、ゆっくりしていってね」



 誠は怪訝な顔で優人に言う、

「いくらなんでも、みんなそろって帰省することないんじゃないか」

「せっかく実家に帰るんだ。みんな一緒の方が楽しいだろ」




 温泉に入れないアンを実家において、日帰り温泉出発。

「行ってらっしゃませ」

「アンちゃん、行かないのかい?」

「私は構造上、温泉に入れないので。それよりも、夕食の準備を手伝います」

「そうかい。それじゃあ、お願いしようかな」

「はい」




 男湯では、優人と誠が、温泉に浸かっている。一方、女湯では、陽子、ミク、彩、デイフィリア、キャンディたちが湯に浸かる。温泉は渓谷を一望できる露天風呂だ。

「綺麗」

「紅葉のシーズンだともっと綺麗だけど、混んでるんですよね」

「冬は?」

「景色は良いですよ。湯から出ると寒いですけど」

「クリスマスにも里帰りするんでしょ?」

「父の思惑次第ですが、そうなりそうな気がします」

「そう。楽しみだな~」


 おもむろに、ミクが男湯との仕切りを登ろうとし始めた。

「なにしてるの? ミク」

「温泉で火照った誠の、引き締まったナイスバディを見るのよ」

 彩とデイフィリアがミクを止める。

「やめなよ」

「覗きは犯罪だよ」


「女湯が賑やかだなあ」

「…」

「良い娘達だろう」

「ああ」

「皆、遺伝子医療を受けていなければ、死んでいた娘達だ」

「…」

「あの中で、誰が好きなんだ?」

「そんなん、いないよ」

「そうなのか? ひとつ屋根の下で生活してて、女として意識しないてことないだろう」

「そりゃあ、そうだけど」

「早く、孫の顔が見たいなあ」

「飛躍しすぎだよ」




 全員、浴衣姿で家の戻ると、夕食の準備ができている。

「お婆さまと、お爺さまにお手伝いいただき、主に山の幸でまとめました。山菜の天ぷらに御浸し。岩魚の塩焼き。鹿と猪の燻製。茸と根菜の煮物などです」

「美味しそう」

「いただきます」


 一同、食事をしながら談笑する。




 夜は、二部屋の襖を取り払って、布団を敷く。女性六人がそこに泊まる。

「あたし、布団って初めてです」

「畳っていうの? 良い匂いがしますね」

「外がにぎやかね」

「蛙の合唱です」

「アメリカとは違う空気間ね。初めて泊まるはずなのに、なぜか懐かしい感じがする」

「デイフィリアは、日本人を自称してたからね」

「前世が日本人だったんじゃない?」

「かもね」

「陽子はここで育ったんでしょ?」

「はい」

「前から疑問に思ってたんだけど、お父さんって何者?」

「アメリカの大学で研究している、としか聞いてません」

「それじゃ、私たちがどうして、横田ハウスに集められたか、知らないんだ」

「なんか、意味あるんですか?」

「その件については、キャンディ先生が詳しいんじゃないかな」


 全員、キャンディを見る。

「知ってるよ。でも、各人のプライバシーにかかわることだから、私からは何も言えない」


「私の事を言うよ。私は数十年前に一度、小児がんで死んでいてね。当時、遺体を冷凍保存する会社があって、私はそこで冷凍保存された。未来の進んだ医学技術で蘇生できる日までね。そして、その日がやってきて、優人博士の研究所で蘇りました」


「私は、身体の多くを再生医療で治療しました。身体の傷跡は、その時のものです」


「あたしは、デザイナーベビーそのものだと思う。親と全然、似てないし。毎年、横田先生の病院で検査を受けてる。健康のためだという説明だけど、たぶん、デザイナーベビーとしての成長を検査してるんだと思う」


「私は、アンドロイドの試作機として作られたと思います。その試験先として、送られたと思います。最初から日本語と、日本の道路を想定した学習をしましたから」


「キャンディ先生は?」

「秘密」

「え~。絶対なんかあると思うんだよな。妹ちゃんは?」

「えっ!? あたしですか?」

「なんかない?」

「あたしは普通に、兄と一緒にいさせる為だと思いますけど」

「もしかしたら、とんでもない秘密が隠されてるかもよ」

「そうなのかな…」

「冗談だって、暗い顔しないで」




 朝。空が明るくなると、鳥がさえずる。山の稜線に陽が当たる頃になると、蝉がけたたましく鳴きだす。兎角、東北の山は騒がしい。




 朝食を済ませると、優人を除いた、横田ハウスメンバーで、ハイキングに出かける。途中には沢や滝があって、ちょっとした水遊びができる。地元の子供たちが、岩山から、沢へ飛び込んで遊んでいた。


 こんな時、真っ先に飛び出すのが、いつもならミクと相場が決まっているのだが、デイフィリアが靴を脱ぎ、裾をたくし上げると、沢の浅瀬へ走っていった。

「冷た!」

 水を蹴り上げると、飛沫が誠たちに降りかかる。

「なにすんのよ! デイフィリア」

「水も滴るいい男よ、誠」

 ミクも靴を脱いで沢の中へ入って行く。ふたりで水をかけあう。

「やったな!」

「あなたそんなキャラだった!?」

「そうよ」

「もっと聡明でおとなしいと思ってたのに」

「残念でした。ホントは馬鹿で短気なのよ!」


「私も参加します」

 靴と靴下を脱いで、彩が沢に走って行く。

「楽しそうだよね」

「おまえも行けよ」

「お兄ちゃんに言われるは癪だけど、陽子、行きます!」




 女子4人で沢遊び。水しぶきがシャツや髪を濡らし、足や腕の肌から滴る。女神の戯れ。楽しい声が、沢に響き渡る。




 優人の出身地では、祭りと花火大会がある。神社の参道には、たこ焼きや焼きそば。リンゴ飴や綿あめなど、様々なの食べ物屋や、金魚すくいに射的などの露店が並ぶ。


 全員、浴衣で日本の夏を楽しむ。

「デイフィリア以外が浴衣は、新鮮だな」

「綺麗でしょ?」

「美人でしょ?」

「誠、私をエスコートしてよ。私。日本のお祭り初めてなの」

 デイフィリアは誠の腕に自分の腕を絡める。

 「なんで誠がデイフィリアが専属なの? あたしだって日本のお祭り初めてなんですけど」

 ミクが逆側の腕に、自分の腕を絡める。

「さ、行きましょう」



「お兄ちゃん、修羅場だなあ」

「陽子さんも、誠さんのことは好きでしょう」

「それは、家族ですから」

「将来、義姉おねえさんになるかも知れないんだよ」

「それは、想定外でした」

「私も負けてませんよ」

「彩さん」




 花火の打ち上げ時刻まで、射的や、金魚すくいに興ずる。


「誠、あたしたこ焼き食べたい」

「誠、私は焼きそばが食べたい」

「誠、リンゴ飴食べません?」

「あんたたち、ちょっとは遠慮しなさいよ。早くしないと、花火の打ち上げ時間よ」

「全部買って、花火見ながらシェアしよう」

「「「やった!」」」




 人数分のたこ焼きや、焼きそば、イカ焼き、トウモロコシ焼きなど、いろいろ買う。さすがに誠ひとりでは持ちきれないので、皆で手分けする。

「こんなに買ってどうするの?」

「あたし達の人数分より多いよ」

「花火は毎年、爺ちゃん、婆ちゃんも含めて、家族全員で見るんだ」

「そっか」

「もう、花火の時間だよ」

「良い場所、とらないと」

「場所なら爺ちゃんがとってくれてるよ」




 打ち上げ場所の河川敷に、シートを敷いて、祖父母が待っている。

「お待たせしました」

「お世話になります」

「ありがとうございます」


 彩が、祖父母の手を引く。

「お爺さん、お婆さん、おふたりは真ん中にお座りください」

「はしっこでいいよ」

「そうはいきません。優人さんにも、誠さんにも、陽子さんにもお世話になってます。今日の主役は、皆さんの家族ですから」

 彩は、買ってきた食べ物を取り分ける。

「彩ちゃんは良い娘ね」

「どうもありがとう」


「あの娘、外堀から埋めてるわ」

「負けてられない」

 ミクとデイフィリアも、参戦する。




 ほどなく、花火が打ち上がる。歓声があがる。皆、瞳を輝かせて花火に見入る。



「優人、今年の夏は大賑わいだな」

「皆、良い娘だろ?」

「こりゃ、ひ孫の顔を見る日も近いかもなあ」

「俺も孫の顔を見るのが楽しみだよ」

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