第25話 VRゲーム

地底都市タカマガハラ

そこは数千年前に「竹筒」が着陸した場所で、神族たちにとっては聖地扱いされていた。

しかし、集まった神族たちの顔色は悪い。「竹筒」はトオルにコントロールを乗っ取られたまま、不気味な沈黙を続けていた。

「『竹筒』にハッキングはできないのか?」

神族の一人が竹取の翁に聞くが、彼は黙って首を振った。

『ハッキングどころか、アクセスすらできぬ。どうやら本当に「ファーランド」というゲーム以外に入り口はないようだ」

それを聞いて、神族の間に絶望が広がる

「『竹筒』は貴様の管理下にあったはずだ!たかが人間の小僧に乗っ取られるとは!」

ゴールドホールドが激昂して攻めるが、めがねを掛けた男に止められた。

「よせ。今はどうやって、最悪のコンピューターウイルスと化したトオルとやらを消滅させるかだ」

とめたのは、『通信』を支配しているネットワーク一族である。彼の一族は近年、『竹筒』を劣化コピーさせた機械、いわゆるコンピューターを社会に送り出して、莫大な富を手に入れていた。

「何か考えがあるのか?」

「ああ。こうなったらやつが仕掛けたゲームとやらに乗ろう。我々の配下をプレイヤーとして送り込み、やつにワクチンを打ち込んで消滅させるしかない」

ネットワーク一族の長の言葉に、神族たちは頷いた。

「彼が作ったゲームですか。しかも彼を倒さないと、現実世界が滅びかねない。これはゲームの形をした本物の戦争ですね」

「ああ。今までの常識が一切通じない。まずは戦いながらデータを集め、やつの作り出したゲームの弱点を探ろう」

竹取の翁の発言を竹筒の中で聞いて、俺はひそかにほくそ笑んでいた。

よしよし。俺の思い通りに進んでいるな。奴等の配下がこのゲームに参加すればするほど、神族たちは足元をすくわれることになるんだ。

『ゲーム開始は半年後だ。各自手分けして宣伝と意識を電脳世界に送り込むためのゲーム機械の生産を行うのじゃ」

会議の結論が出て、神族たちはそれぞれの国に帰っていくのだった。


半年後

電脳世界へ意識を飛ばす施設「VRゲート」が完成し、世界中から選りすぐりの人材が集められる。

彼らは神族ではなかったが、その傘下で社会を支配している「使徒」という人間のエリートたちだった。

「よし。ではサイバーログイン」

日本からは、普段は自衛隊に所属している特殊部隊の隊員が選ばれて電脳世界に送り込まれる。

意識が体から離れた瞬間、オープニングとして情報が伝わってきた。

「これは……」

精神に直接インストールされる情報を見て、トオルを直接殺害した隊長がうめき声をあげる。

オープニングとして伝わってきたのは、神族の正体とその歴史だった。

魂だけとは言え異星人が地球にやってきて、人間社会に入り込み、世界を支配していると言う一般社会に秘密にされている情報があますところなく伝えられてくる。

隊長をはじめ、詳しい真実まで知らなかった隊員たちの間に動揺が広がっていった。

「竹取の翁とは、異星人だったのか。単に日本を本当に支配している人間だと思っていたのに……いや。今はそのことは考えまい。我々は任務を果たすだけだ」

隊長が気合を入れなおした時、続いてトオルについて情報が伝わってきた。

「このゲームの魔王は、単なる少年でカグヤ様を誘拐した犯罪者などではなかったのか。悪いことをしてしまったな……」

隊長の心に罪悪感がわきあがってくる。続いて、魔王の目的は神族の排除だということも伝わってきた。

「人間の視点から見たら、むしろトオル君のほうに正当性があるのではないか……?」

隊長がちらりとそう考えた時、オープニングとしての選択肢が迫られる。このゲームにおいて「神族」と「魔族」のどちらかを選ぶように指示された。

「仕方がない。いろいろ思うところはあるが、我々の主は神族だ」

隊長は神族の側に立つことを選ぶ。

気がつけば、彼らは素っ裸で森の中にいた。

「全員いるか?確認せよ!」

隊長の命令で点呼がとられるが、何人かの隊員が欠けていた。

「副隊長もいなくなったのか!行方不明の者はどうした?」

「わ。わかりません。ですが、もしかしたら裏切ったのかもしれません」

そう答える隊員の顔にも、迷いが見られる。彼らはこの戦いの大儀について疑問を抱いていた。

「お館様は異星人だったのか……」

「人間社会を支配して、俺たち人間の命をなんとも思ってないだって?そんな存在の為に戦うことが、果たして正しいのだろうか?」

厳しい訓練をつみ、先祖代々神族に仕えていたエリートの家系から選ばれてこの特殊部隊に参加した者たちの間からも、そんな声が上がっている。

「つまらないことを気にするな。竹取の翁がたとえ異星人だとしても、今日の日本を作り上げ、守ってくださっているのだ。我々は竹取の一族をお守りし、反逆者トオルを倒す。そのことが、多くの無辜の民を救うことになるのだ!」

隊長の檄により、隊員たちの中にも覚悟が戻った。

「わかりました!我々はあなたについていきます」

そう声をあげる隊員をみながら、隊長はあることを思ってた。

(……この戦いに、我々「使徒」ではない一般人を参加させて兵力の増強を計ろうという意見もあったが、無理だな。このゲームに入ると同時に真実を知らされた一般人たちは、むしろ神族の敵に回ってしまうだろう)

隊長は、神族が人間社会を支配するためには、神族という存在そのものを隠匿しないといけないことをわかっている。今の世で異星人の支配者が人間を支配しているなどという真実が広まったら、社会は大混乱に陥り、一般人の多くは反旗を翻すだろう。

それを防ぐには、神族とその直接の配下だけで魔王となったトオルを倒さなければならない。隊長は腹をくくった。

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