第24話 神族

(さて……復讐するには、まず相手のことを知らないとな。あの爺さんは何者なんだ)

自分のしたいから離れたトオルは、体内に埋め込まれたマイクロチップから逆にたどって、老人が「竹筒」と呼んでいる円筒型の機械に侵入する。

そこに保存されていた内容は、まさに人類史を覆すものだった。

「あいつらは……魂だけで地球に移住してきた異星人の末裔なのか」

『竹筒』とは、宇宙船であると同時に精神保存用のコンピューターであり、長い時間を掛けてこの地球にやってきた。

彼らの一族の故郷の星はすでに滅び、そこの住人たちは魂を機械に保存することで何光年もの旅を実現できたのである。

そうして地球にたどり着いた彼らは、地球人に転生し、文明を指導してきた。

「人間に転生した異星人「神族」は、人類を裏から操っている。そのうちの一派「竹取の一族」は、まだ使用可能な宇宙船「竹筒」の生体再生機能を握り、世界中の神族と渡り合っているということか」

トオルが調べた情報では、「竹筒」の中には体を再生したりあらゆる病気を完治させる生体再生機能がまだ使用可能だった。これはもともと現地生物である人間の体に異星人の魂を宿らせることができるように改造するための設備である。

その研究から生み出された「医療」は、竹取の一族が握っていた。それを広めたおかげで、莫大な金と権力を握ることができ、「竹取の一族」は神族の中でも強い立場を維持することができていた。

他にも「金融」を支配するゴールドホールド一族・「エネルギー」を支配するエレクトリア一族・「通信」を支配するネットワーク一族、「食料」を支配するフード一族、「宗教」を支配するジーザス一族

など、神族は裏から人間社会に深いかかわりを持っていた。

「奴らに復讐することは簡単だ。俺はすでに世界最高のコンピューター『竹筒』をのっとった。だけど、奴らの支配体制を安易に破壊すると、罪もない何十億人もの人が迷惑する」

トオルはすでにアスティア世界で、関係ない者にまで復讐の手を広げて邪悪な存在となったユウジの末路を見ている。直接手を下した竹取の翁、そして彼に味方する神族と戦うのは望むところだったが、何も知らないで生活している一般人の生活まで破壊するつもりはなかった。

「だけど、奴らは世界を支配しているしなぁ……」

医療・通信・金融・食糧生産・エネルギー・宗教など、どれも現代社会になくてはならないものである。トオルはどうやって一般市民に被害を及ぼさず、神族を駆逐するか考えた。

長い時間考えた末、ひとつの結論を下す。

「奴らが必要とされない、新しいシステムを築くしかないか」

トオルは決心すると、「竹筒」を操って全世界のコンピューターに支配の手を広げるのだった。


その日は、世界を支配する神族にとっては、初めて自分たちに逆らう「外敵」が現れた日になった。

アメリカのシリコンバレーで、聖地エルサレムで、スイスのチューリヒで、中東の砂漠の地下に作られた秘密都市で、中国の黒竜江沿いのある都市で、そして日本の富士山の麓で複数の男女が叫び声を上げていた。

「これは、どういうことだ!」

彼らはパソコンの画面に表示された銀行口座のアクセス画面を見て絶叫する。彼らが銀行預金という形で預けていた金に、アクセスできなくなっていた。

その額は合計で60兆ドル-6000兆円にも及ぶ。数万の仮名口座に分けていた電子マネーが、取り出すことも動かすこともできなくなっていた。

「アクセスエラー。下記の連絡先へ」

それぞれの国の言葉で、そんなふざけた文言が表示されている。

そこには見たこともないURLが表示されていた。

それぞれの神族の部下の中で、最高の腕をもつハッカーが侵入すると、あっけなく画像が表示された。

「ハロー。神族の皆さん。私の名前はトオル。あなた方にある要求があります」

画面には年若い少年の姿が浮かんだ」。

「貴様!どういうことだ!死んだはずだ!」

それを見た竹取の翁は、驚きの声を上げた。

「要求とはなんだ!言ってみろ!」

金融の支配者、ゴールドホールドが吼える。

それを見ていた俺は気分が良くなった。


「私の名前は神埼徹。あなた方の仲間、竹取の翁に無実の罪で殺された、ただの人間ですよ」

自分で言っておきながら、腹が立つな。

「ですので、その復讐をしたいと思います。あなた方にはそれを傍観していただきたい。関係ない人にまで復讐するのは、私の本意ではありません。この条件を呑んでいただければ、他の神族の金はお返しします」

俺は一応礼儀正しく要求したが、神族に受け入れられることはなかった。

「何を言うかと思えば。貴様ごときが我々と対等に交渉できるつもりなのか?たかが人間の分際で」

太ったチャイナ服を着た男、フード一族の長があざ笑う。

「貴様はすでに金融という我が領域を犯した。許してはおけぬ」

背が高く、やせた白人の男、ゴールドホールド一族の長も首を振った。

「当然ですわ。下賤な人間の分際で、私たち神に肩を並べる資格があるとおもっておられるの?あなたたち人間は我々神族の奴隷。立場をわきまえなさい」

シスター服を着た美女、ジーザス一族の長もそっぽを向く。

彼らの反応を見て、竹取の翁も傲慢に頷いた。

「貴様は何を勘違いしておるのか知らんが、我々神族は……」

「存じていますよ。あなた方神族は、元をたどれば同じ穴の狢……いえ、同じ星から来た宇宙人。あなた方にとっては我々人間はサルのようなもので、交渉するような対象ではないのでしょう」

まあ、人間同士どんなに互いに争っていても、猛獣が襲ってきたら無条件に協力するようになるよな。奴らにとって俺は、そういうものなんだろう。

なら、俺も覚悟を決めるか。神族を滅ぼして、地球を再び人間の手に取り戻すのも面白いし。

「では……私は今からあなたがた神族私の敵です。支配者面で人間に寄生してしている虫けらであるあなた方を滅ぼしてやりましょう。手始めに、金を奪います」

俺が電脳世界の内部から各金融機関の中央サーバーをハッキングすると、画面に表示されている彼ら神族の口座残高が、どんどん減っていった。

「くっ!金はどこにいっている!」

「ネット上に勝手に作られた架空銀行に移し変えられています」

画面上には「ワールド銀行」というふざけた名前の銀行に、世界中の金融機関から送金されていった。

「やめさせろ!」

「無理です。あらゆる金融機関のホストコンピューターに食い込まれていて、強制終了させたら世界中の銀行口座のテータが消える可能性があります」

部下からの指摘で、ゴールドホールドは真っ青になっている。そうなったら世界規模で大混乱になるのからな。

奴らがなすすべもなく見守るしかない中、ついに世界中の神族の電子マネーの全額6000兆円が俺の口座に流れてきた。

「安心してください。これからの人間社会で現在行われている事業の投資や融資はすべて私が行いましょう。そうしないと人間社会自体が破壊されてしまいますからね。表面上は何もおきませんよ。ただ、あなた方が支配者の地位からすべり落ちるだけです」

俺は思わず高笑いしている。そうさ、神族が支配者面で威張っていても、実際に物を作ったり社会秩序を維持しているのは人間自身なんだ。「金」という力をとりあげることで、神族の人間社会に及ぼす影響力は半減するだろう。

「貴様……こんなことをしてただで済むとおもうな。世界のどこに潜もうとも、必ず探して殺してやる」

真っ赤な顔な顔で抗議する神族たちに、俺は冷たく笑う。

「私はもう死んでいますよ。日本の竹取の翁によって殺されましたからね。私を無力な小僧として殺した彼を恨みなさい。それより……あなた方に提案します。ゲームで決着をつけませんか?」

「ゲームだと……」

睨み付ける神族の前で、オープニング音がなって別の画面に切り替わる。

そこには『ファーランド』と題名が描かれていた。

『私はゲームの魔王としてあなたたちを待ちましょう。もし私を倒せなければ……このシミュレーションが現実に実現するでしょう」

画面に世界中のコンピューターが狂わされ、社会秩序が完全に破壊される映像が浮かぶ。あらゆる原子力発電施設がメルトダウンを起こし、流通が破壊され、軍事基地に保管されているミサイルや爆弾が自爆する映像が映し出されていた。

まあ実際に行う気はないけど、奴らはこれで本気になるだろう。

「チャンスを与えましょう。魔王である私を消滅させることができれば、あなた方の勝ちです。せいぜい私の世界に多くのプレイヤーを送り込むことですね。そうそう、あなた方で『ファーランド』世界に意識を送り込む機械を開発して、全世界に配布しなさい。制御プログラムは送っておきます」

各々の神族のコンピューターに、「『精神感応(テレバス)』を電子化したデータが送りつけてやる。やつらは死に物狂いでVR機械を生産し、配布するだろう。俺を倒すために。

「せいぜい宣伝して参加者を募るべきですね。ゲーム開始は半年後です。それじゃ」

一方的にしゃべって、トオルがいたサイトは破棄される。

各神族は真っ赤な顔をして部下に問いかけた。

「奴の居場所は?」

「隠す気もないようです。あの映像の発信源は-日本の……」

そこまでいった所で、部下の顔色が変わる。

「どうした?日本のどこだ?」

「そ、それが……『竹筒』本体です。竹取の一族のコントロールを離れ、何者かにのっとられています」

「なんだと!」

各神族の代表者は、驚きの声をあげた。

「す、すぐ日本に向かうぞ!神族の歴史始まっていらいの危機だ!」

こうして、世界中の神族が日本に集まるのだった。


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