第15話 帝国支配
ファーランド城
元は落ち着いた雰囲気の城だったが、現在帝国の皇帝となった有事の命令により、派手に飾り立てられていた。
本来、官僚や軍人たちが多く働いているはずの城には、いろいろな服を着た美少女たちが動き回っている。彼女たちは全員珍妙な服を着せられていた。
セーラー服・ブレザー・ナース服・ブルマなど、コスプレパーティ並の多彩な服が、メイドたちを包んでいる。
彼女たちは気に入っていないようで、窮屈そうにしていた。
その時、頬を押さえた黒ローブの少女が治療室から出てくる。
その周りには分厚い書類を抱えた多くの美少女が集まってきた。
「カグヤ様。税金ってどうやって取ればいいんですか?」
「西方領域で元王族を旗印にした反乱が起こって、連絡が取れません」
「来年の収穫に備えて村に種籾を配布しないといけませんが、どうやればいいのでしょう?」
「王都の用水路があちこちが壊れて、修繕しないといけません。誰に頼めばいいのでしょう」
コスプレをした美少女たちが次々に質問してくるが、カグヤは不機嫌そうに返す。
「なんで私に聞くの?あいつに聞けばいいでしょう?」
「ですが……ユウジ様に指示を求めても、『何とかしろ』と怒鳴られるだけでして……」
ユウジから大臣の地位を押し付けられた少女たちは困り果てている。
「私に言われてもしらないわよ!あんたたちは教育を受けた貴族の令嬢なんでしょ!ちゃんと仕事をしなさいよ」
癇癪を起こしてしまうが、令嬢たちは悲しそうに下を向く。
「ですが、私たちは実際の政治に関することは何一つ学んでいなくて……そういうのはすべて父や兄がしていたものですから」
彼女たちはシクシクと泣き出す。それを見て、さすがにカグヤも彼女たちに政治をやらせるのは無理だと気づく。
とはいっても、異世界人で高校生だった彼女にだってそんなことはできはしない。
「わかった。あいつに聞いてあげる」
カグヤはいやそうな顔をしながら、玉座の間に向かった。
玉座の間
派手な王様の格好をしたユウジが、えらそうに玉座に座っている。彼の周りには、暗い顔をした制服少女たちが侍っていた。
「ふふふ……お前たちの主人は誰だ」
「……ユウジ様です」
少女たちはしぶしぶ答える。
「そうだろう。お前たちの父や兄は、勇者でありこの世界で一番偉い俺を蔑ろにした。今も奴隷とした無理やり働かされて、苦しい思いをしている。お前たちもそうなりたいか?」
「……なりたくありません」
少女たちは震えながら答える。
「ならば俺に奉仕しろ!お前たち全員は俺のものだ!俺を崇め、奉仕し、愛するんだ。さもなければ、お前たちの家族の命はないぞ」
そういって玉座に座って威張り散らすユウジに、カグヤは冷たい声を掛けた。
「ずいぶん楽しそうね」
「楽しいさ。俺をみとめなかったこいつらが、俺に従うしかないんだからな。ふふふ、いつか世界中を俺のものにしてやるぜ」
そう粋がるユウジに、カグヤは冷静に告げた。
「世界征服もいいけど、あんたまともに帝国すら支配できてないじゃない」
「なんだと?」
睨み付けてくるユウジに、カグヤは書類を渡した。
「それで、これからどうするの?税金の徴収は?来年の種籾は用意しているの?西部の反乱はどう鎮圧するの?用水路の修繕の手配は?」
王としての指示を求められ、ユウジは困った顔をする。
「そんなのは大臣たちに任せている」
「馬鹿ね。彼女たちは単なる貴族の令嬢よ。国を治めるノウハウなんてもっているわけないじゃない。あんたが実際に帝国を仕切っていた貴族たちを殺したり奴隷にしたりしたせいで統治が行き届かなくなり、誰もどうすればいいかわからなくなっているのよ。このままじゃ税金どころか、水も食べ物も王都に届かなくなくなるわよ」
自分のライフラインが脅かされると聞いて、ユウジも考え込む。
しかし、すぐにどうでもいいといった顔になった。
「金がなけりゃ民からしぼりあげりゃいいだろう」
「どうやって?あんたが村や町の人を一人ずつ脅しつけてお金を巻き上げるの?大変そうね」
皮肉っぽく告げると、ユウジは言葉に詰まった。
「来年の種籾だって?知るかよ。各村で勝手にすりゃいいんだ」
「あんたが収穫された作物を無理やり全部奪っておいて、そんな余裕が残っているわけないでしょ」
カグヤは冷たく切って捨てた。
「西部の反乱だと?だったら俺がいって逆らった奴らを皆殺しにしてやらぁ」
「……そうすると、西部は誰もすまない土地になるだけよ。荒地になった西部を手に入れてなんになるの?なにか得になるの?」
冷静な指摘を聞いて、ユウジは目をそらす。
「用水路の修繕だぁ?そんなの奴隷に「直せ」って命令すりゃいいんだろ?」
「奴隷に命令しただけで直るような工事なの?普通は技術をもった専門家が指揮するものだけど。そういう人をしっているの?それともアンタが修繕工事をやるの?」
いちいち論破されて、ユウジの頭に血が上った。
「うるせえ!お前らが勝手にやれよ!」
「あんた、何逃げてんのよ。俺の命令を聞けっていうんなら、まともな指示をしてみなさいよ。自分にできもしないことをやれって命令することなんて、幼稚園児でもできるのよ!」
カグヤの正論にユウジはわなわなと震えるが、言い返せない。
そんなユウジを、カグヤは哀れみの目でみていた。
(なんていうか……皇帝と威張っていても哀れなものよね。所詮お子様か)
国家とはひとつの組織体である。いくらトップが命令しても、ノウハウをもつ優秀な部下が揃わないとまともに動かせるわけがない。
(このままだと、放っておいても破綻するかもしれないけど、破滅するのはこいつじゃなくて帝国なんだよね。数多くの罪もない民が不幸になるだけで、こいつはまた他の国へ行って同じ事を繰り返す。なんとかして止めないと」
カグヤの考えは正しい。今のユウジはチート能力を持った山賊みたいなものである。他人から奪うことはできても、何かを作り出したり維持したりすることはできない。
(なんとかして、私がこいつを倒さないと)
カグヤはもはや魔王同然となった勇者を倒そうと決意するのだった。
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