第14話 暴虐
日本 富士山の麓。
「御前、申し上げます。今巷で話題になっている、神埼徹とかいう者が閉鎖された石炭発電施設を買い取りたいと申しております」
スーツを着た紳士が、和服姿の老人に告げる。
「ほう。あの小僧がのう」
御前と呼ばれた老人は、面白そうに報告を聞いた。
「ゴールドホールド殿から少々苦情が来ておる。彼が支配する「銀行制度」から小銭をちょろまかしておる小僧が日本にいるとな。それを聞いた時は愉快な気分になったものじゃ。奴の一族が築き上げた「金融」というシステムの一部とはいえ破る者がいるとはな」
老人は平気な顔をしているが、スーツの男は汗をかいている。
「ご許可いただければ、警察を動かして逮捕させますが」
「かまわぬ。放っておけ。小銭を得て短い人生を謳歌するならそれもよし。じゃが……その金を元手に何か思いもつかなかった新しいことをするなら、「使徒」ぐらいにはなれるかもしれんな。むしろ奴がやろうとしていることに多少の便宜を計ってやれ」
それを聞いて、スーツの男は渋い顔をした。
「しかし、全世界の金融を支配しているゴールドホールド様のご機嫌をそこねれば……」
「奴になにができる。いや、70年前の大戦で一度は世界中の『神族』が結託してこの日本を奪おうとしたが、ワシが『竹筒』を破壊すると脅したら、奴らはすぐに根をあげて日本から手を引いたぞ」
老人の言葉に、スーツの男は頷く。この目の前の老人がいるから日本は独立を許されているというのは、彼にはよくわかっていた。
「それに、ゴールドホールド殿もうるさくは言わぬじゃろうよ。奴は世界の富の何割かを握っておる。小僧が少々金を盗んだところで、ネズミが食料庫から一粒米を食べた程度じゃ。それより」
老人は悲痛な顔になって命令する。
「ワシの可愛い孫娘を探し立せ!100年ぶりに生まれた我が一族の希望なのじゃ!」
「わかりました。ご命令に従います。御前……いや、竹取の翁様」
スーツの男-内閣総理大臣阿武総理はそういって老人の元を退出した。
アスティア世界 ファーランド帝国
「どうすればユウジをとめられるのかしら」
カグヤは中世ヨーロッパのような都市を歩きながら考え込む。。
ファーランド帝国の首都、エルドラドは以前は世界の貿易の中心として栄えていたが、今は住民の姿が見当たらない。たまに真っ黒い鎧をきた兵士たちが見回りをしているだけである。
あたりに立ち並ぶ民家はひっそりと戸締りされており、店もすべてしまっていた。
その時、カグヤの耳に叫び声が聞こえてくる。
「やめて!お兄ちゃんを放して!」
中学生くらいの女の子が、泣きながら兵士に食ってかかっている。
もうひとり、高校生ぐらいの男の子がいて、兵士に取り押さえられていた。
「ちくしょう!離せ!俺が働いて養ってやらないと、ミーシャが食べていけなくなるんだ!」
「……」
不気味なことに、兵士たちは一言も話さず、少女を殴りつけるとそのまま少年をひきずっていこうとした。
「やめなさい!」
カグヤが回り込んでとめようとするが、彼女を監視していた騎士が彼女を拘束する。
「くっ……」
治療魔法や補助魔法しかつかえない彼女は、直接攻撃に対して無力である。少年は兵士たちに連れて行かれた。
それを見届けて、騎士たちはカグヤを離す。彼らも一言も言葉を話さず、ロボットのように任務を遂行していた。
「ああ!お兄ちゃん」
泣き崩れる少女に、カグヤは近づいて慰める。
「ごめんなさい。ユウジのせいで」
「そうよ!あんたたち勇者なんて悪魔よ!お父さんやおじいちゃん、街の男の人はみんな連れて行かれた。あの勇者ユウジのせいで……憎い。あんなものをつくらせるために、みんなを奴隷扱いするなんて)
少女は同じ勇者であるカグヤに八つ当たりして、ポカポカと殴る。彼女の苦しみが伝わってきて、胸が苦しくなった。
気が済むまで叩かせて、カグヤは少女に告げた。
「……もう一度ユウジを説得してみるわ。こんなことやめるようにって」
そういって、カグヤは帝都エルドラドの南にある港に向かった。。
そこには巨大な船が建造中で、男たちが兵士に鞭打たれながら働かされていた。
さらに近くには奇妙なモノがあり、大勢の男たちが四角のブロックに削られた大岩を運んでいた。
「おら!怠けるな!死ぬまで働け!」
ごつい鎧を着た大男が、石を運んでいる労働者に鞭を打っていた。労働者は苦痛の声をあげながら、船から降ろした大岩をひとつずつ苦労して、砂浜に描かれた人型の枠にはめ込んでいく。
そのサイズは馬鹿でかく、全長50メートルほどもある
「アクター将軍!なぜこんなひどいことを!」
カグヤはその様子をみて、指揮官である将軍に抗議する。彼はは帝国の将軍の一人で、以前は皇帝に仕えていた近衛騎士だった。
「陛下のご命令だ。こやつらには陛下の玩具を作ってもらわねばならんのでな」
将軍は冷たく返す。
「玩具って……」
カグヤは男たちがはたらかされているのは、単なる玩具作りだったことを聞いて衝撃を受ける。
「そうだ。玩具だ。よし、捕虜を連れて来い。そろそろ皇帝陛下がこられるころだ」
将軍の命令で、他国の兵士や貴族たちが連れてこられる。
「彼らは……フロリダ王国の貴族?それだけじゃなくて、ミドガルド宗教国の司祭たちも、シャイロック商国の商人たちも!」
彼らはファーランド帝国が勇者に支配されたあとも抵抗を続けていた国々だった。
「まさか……ほとんどの国が滅ぼされてしまったのでは……?」
カグヤが不安に思っていると、王都から豪華な馬車が何台もやってきて、頭の部分に到着した。
馬車から精悍な少年と黒いローブを纏った男が降りてくる。少年はトオルと同じ顔をしていた。
「ユウジ!いったい何をしているのよ!」
カグヤは声を張り上げるが、ユウジはニヤニヤと笑って無視する。
少年についてきた馬車からは、その場に到着すると同時に悲鳴が上がった。
「お父様!お兄様!」
「ひどい!なんでこんな目に……」
馬車の中には、大勢の美しい少女が乗っている。
誰もが無理やりつれてこられたようで、目を真っ赤にして泣きはらしている。降りてきた少年、勇者ユウジは、馬車を振り返って宣言した。
「よく見ておけ。俺に反抗した国はすべて滅んだ。世界中の女はすべて俺のものだ!男はたとえ誰であろうと、奴隷として働かされる。お前たちが男たちに期待を寄せても無駄だ!」
それを聞いて少女たちは絶望する。
「世界を救った勇者様が……魔王以上の非道をするなんて!」
「この世界にはもう希望がのこされていないの?」
なきじゃくる彼女たちの前で、勇者ユウジは命令を下す。
「俺に反抗した者たちを今から処刑する。やれ!」
人型の手や足の部分に、大勢の縛られた人間が配置される。彼らは助けを求めて泣き叫んでいた。
「た、助けてくれ!」
「俺たちはもう逆らわない。勇者様に従う!」
彼らは縛られたまま、必死に命乞いをするが兵士は何の反応も示さない
ユウジの隣にいる黒いフードの男は、うなずいて両手を上げた。
「ユウジ様に逆らった愚かな人間どもめ・天罰を受けるがいい」
「ぎゃぁぁぁぁああ!」
捕虜になった人々の肉と骨が溶けていく。残ったのは神経線維だけになった。
「クロード。見事なものだな」
「恐れ入ります」
黄色い煙と悪臭が立ち上る中で、クロードと呼ばれた男は一礼する。
「『移植』」
再びクロードが手を振ると、その場に残っていた神経線維の束が、人型に並べられた岩の隙間に入り込んでいった。
それを見たユウジが会心の笑みを浮かべる。
「もう少しで完成する!世界を支配する俺の乗り物にふさわしい!あっはっは!」
ユウジは高笑いすると、あまりに凄惨な光景を見せ付けられて絶句しているカグヤに自慢する。
「どうだ。この超大型ゴーレム「ガンレム」は。格好いいだろう。これさえ出来上がれば、俺一人で世界を征服できるぞ」
「……あんた、いい加減にしてよ!こんなことの為にみんなを苦しめて!」
カグヤは憎しみをこめた目でユウジを睨み付けた。
「なんだよ。俺のスーパーロボットを見せてやったのに」
「もうたくさん!幼稚な子供の我侭にみんなを巻き込まないで!」
「幼稚だと!」
ユウジはカグヤに強烈なビンタをする。
「思い上がるなよ!てめえが生きていられるのは、俺様が優しいからだ。女なんていくらでもいるんだからな!」
ユウジは笑いながら馬車のほうをみる。
乗っている美少女たちは泣きながら目を逸らしていた。
「……誰もあんたなんか好きじゃないみたいだけど」
「なんだと!」
怒ったユウジは、カグヤの髪をつかんで無理やり立たせる。そして力任せに馬車に投げ込んだ。
「きゃぁぁぁ!」
美少女たちの悲鳴が響き渡る中、ユウジは轟然と胸を張る。
「誰も俺を好いていないって?上等じゃねえか。いつか絶対お前み従わせてやるからな」
そうつぶやきながら、ユウジは馬車に乗って王城にかえっていった。
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