ファーランド王国編
第12話 ファーランド王国
アスティア世界。
時間は少し遡る。
「あはは!よくも俺を元の世界に返そうとしたな。お前のほうこそ異世界に飛ばされるがいい!」
光り輝く鎧をまとった、勇者ユウジ・カンザキは、金髪の姫から学んだ勇者送還魔法を打ち返す。
空間に黒い穴が開いていき、姫がそれに飲み込まれる直前、帝国の金髪姫の体が結晶に包まれた。
「させないわ!ホーリークリスタル!」
光の結晶が姫を覆い、彼女を包む闇から身を守る。空間にあいた穴は、再び塞がれていった。
ユウジは、邪魔をした女を振り返る。ユウジと同じ黒い髪の美少女は、この上ない悲しみをたたえた目でにらみ返してきた。
「カグヤ。なぜ俺の復讐の邪魔をしたんだ!」
「もう十分でしょ。やりすぎよ!メルは元の世界から召喚された私たちに優しくしてくれた!それに、彼女はあなたに危害を加えたことなど一度もなかったわ」
黒髪の美少女-勇者のパーティメンバーで、共に魔王と戦った治療士竹取神楽耶は、必死にユウジを説得した。
「いいや。あの女にも罪はある。俺を勝手にこんな世界に召喚した上に、勝手に元の世界に戻そうとした」
「それは、あなたが好き勝手なことをするから……」
カグヤの批判を、ユウジは鼻で笑う。
「領地を要求したことか?帝国の全財産を奪ったことか?美女を献上させたことか?魔王を倒した当然の報酬だろうが」
「それだけじゃない!罪もない多くの人を理由もなく拷問して殺したでしょ!」
カナの弾劾に、ユウジは首を振った。
「理由ならある。お前は俺が奴らにどんな目にあわされてきたのか知らないのか?俺の「学習魔法」の条件を思い浮かべてみろ」
「たしか、その身に受けた魔法を身につけられる……まさか?」
カグヤはあることに思い当たる。同時期に召喚された勇者たちの中で、ユウジは当初は何もできない最底辺の存在だった。
それが、いつの間にか最強の力を身につけているのである。
「まさか……」
「そうさ。薄汚い帝国の奴らは、他の勇者に俺をいたぶらせたのさ。何日も、何週間も、何ヶ月も!」
ユウジの目に憎しみが燃え上がる。勇者たちは嬉々として彼を魔法の実験台として扱い、結果として彼はあらゆる魔法を学ぶことができたのである。
「……知らなかった。てっきり戦いで傷ついたものとばかり……」
「お前の治療魔法を真っ先に学び取ったおかげで、俺は生き残ることができた。感謝しているよ。だからお前だけは殺さなかったんだ」
「私だけは……?」
ユウジの言葉にこめられた意味を知り、カグヤは真っ青になる。
「ああ。他の勇者たちは俺の手で殺してやった。苛めていた俺に殺される時のあいつらの顔をみせてやりたかったぜ!どいつもこいつも土下座して俺に許してくれって泣き叫んだけど、俺は許さなかった。全員殺してやったんだ!」
狂気の表情で笑うユウジに対して、カグヤは絶望的な気分になる。他の勇者たちは、彼女にとっては大切な仲間だった。そんな彼らが同じ仲間に殺されていたのである。
「でも、帝国の市民たちに罪はなかったはずよ!」
「やつらは俺を無力な勇者として馬鹿にしていた。だから殺してやったんだ!俺を崇めないやつは、すべて死ぬべきなんだ!」
ユウジは堂々と言い放った。
「く、狂っている……きゃっ!」
呆然としてつぶやくカグヤの背後から、何人も騎士がやってくる。
「やめて!離して!」
「無駄だ。そいつらはすでに俺の傀儡だ。「隷属」の魔法でな」
それを聞いたカグヤは騎士の目を見る。その表面にはまがまがしい奴隷紋が浮かんでいた。
「騎士たちが帝国を裏切ったのは、この魔法の効果なのね」
「そのとおりだ。今や俺はファーランド帝国の皇帝だ!」
ユウジは高笑いしながら近づくと、カグヤの形のいいアゴをつかんで上向かせた。
「……皇帝には皇妃が必要だ。カグヤ、お前も俺に従え。勇者の中でたった一人俺に優しくしてくれた、お前こそが皇妃にふさわしい」
「いやよ!」
カグヤは全力で首を振って拒否する。
「ふん……ならば気が変わるまでゆっくり待つさ!」
ユウジが顎をしゃくると、騎士たちはカグヤを縛り上げる。
「……お前の気が変わるころには、俺は世界を征服しているだろうぜ。おい。一応その女の体も保管しておけ」
ユウジはそういうと、結晶に包まれた姫の体を運ばせた。
(メル……ごめんなさい。ユウジをとめられなくて。もしかしたら、あなたは永遠に囚われの身となるかも。あるいは、そのまま現実世界に行っていたほうがよかったかもしれない 。そこで運命の人に会えていたかも。。その可能性をすべて私が奪ってしまった。ごめんなさい)
カグヤは心の中で親友に対して涙を流して謝り続けていた。
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