第3話 反撃開始

「それじゃ行ってくるよ」

「行ってらっしゃい。お気をつけて」

いつものようにトオルを見送ったメルは、さっそくトオルの支援活動を始めていく。

午前いっぱいを使って、トオルをいじめている相手のスマホに侵入して情報を探っていった。

その中で、放課後に生徒会のメンバーによる打ち上げ会が行われるという情報をつかむ。

「ちょうどいいわ。まず一番トオル様に危害を加えている生徒会の方々にお仕置きしてやりましょう」

メルは生徒会メンバーのスマホに潜り、情報を探った。

そして放課後-美男美女で構成される、生徒会のメンバーは、あるカラオケ店に集まっていた。

「ぎゃははは。あいつ馬鹿だよな。ちょっと寄付くれっていったら、本当にふりこんでくるなんて」

生徒会会計のメガネを掛けた男子生徒が、通帳を見て大笑いしている。その中にはトオルから巻き上げた今までの金、300万円が入っていた。

「ほんと。私達(・・)へのボランティア活動として寄付してくれるなんて、(都合の)いい人だよねー。これからも仲良くしてあげなくちゃ」

書記の役職についている真面目そうな女子生徒も、トオルを皮肉そうにあてこする。

彼らはトオルの金で、この世の春を謳歌していた。

「おかげでお小遣い、全部貯金できちゃうよね」

「これが世の中の仕組みというものですよ。下々の者たちは、私たちに奉仕することが存在意義なのです」

聖清さやかは優雅にジュースを飲みながら放言する。

周りの取り巻きたちも口々にこのやり方を考え出したさやかを褒め、カモにされているトオルをこき下ろした。

スマホの中から彼らを見ていたメルは呆れてしまう。

散々飲み食いして散在した後、生徒会のメンバーたちは支払いをする。

「お支払いをお願いします」

「はい。電子マネーで」

トオルから巻き上げたお金を使ってチャージした電子マネーで支払う。

(なんと醜い。小悪党の分際で世の中を語るなど片腹い。トオル様に真実を告げましょう)

メルは人を騙して手に入れた金で豪遊している彼らの姿を映像名に記録すると、トオルのパソコンに帰っていった。


「ただいま」

いつものように疲れた顔をしたトオルが戻ってくる。

「お帰りなさい」

彼を迎えたメアは、真剣な顔をして告げた。

「トオル様。勝手ながらあなたの周囲の人間のことを調べさせていただきました。あなたは騙されています」

そういって生徒会メンバーの会話を録音したものや、豪遊する映像を見せる。

しかし、トオルは悲しそうな顔をして首を振った。

「……たぶん、寄付だのなんだのというのは嘘だろうって思っていたよ。だけど、仕方ないんだ。僕なんて他の学校じゃ受け入れてもらえないから、我慢して通い続けないと」

「どうして我慢なんてするんですか!悔しくないんですか!」

メルが高い声をあげると、トオルの表情も変わった。

「悔しいに決まっているじゃないか。だけど、俺にはもう誰も味方はいないんだ。騒いだって誰も相手をしてくれない」

「私がいます!私はあなたに助けられました。あなたの敵は私にとっても敵です」

メルは画面の中で必死に応援してくれる。

「ありがたいけど、二次元の君にできることって……。そういえば、この画像はどうやって手に入れたの?」

「私は電脳世界に存在する、ただ一人の意思を持った存在です。オンラインでつながっている機械なら、どこにでも入り込むことができのです」

メアは画面の中で胸をそらして自慢した。

「どこにでも入り込める?それならば……」

トオルの口元に悪い笑みが浮かぶ。

メアという協力なパートナーを得て、トオルは自分を苦しめた相手に反撃していくのだった。


メルはトオルの提案に従い、再び生徒会メンバーのスマホにやってきた。

そこでデータを習得して、携帯サービス会社が提携している『スマホ支払いサービス』から彼らの銀行口座のデータにハッキングしていく。

(全部返してもらいましょう。ちょちょいっと操作して)

口座の中のお金をいじり、いったん他国の第三者の口座に振り込んですぐに別人の口座に移す。

それを繰り返し、最終的にはトオルの口座にふりこんだ。

同じようにして全員の口座と、生徒会の口座、そして電子マネー残高も残高0にする。

(泥棒には泥棒を。天罰ですわ)

最後に虚偽の取引データをつくり、彼らが私的に引き出したように記録する。

すべてを終えたメルはすっきりした気持ちで、トオルのパソコンに帰っていった。

次の日、弥勒学園では、各部活に予算を配分するための会議が行われていた。

この学園では生徒の自主性を高めるという名目で、部活の予算配分は生徒会に一任されている。それによって生徒会長の聖清さやかは絶大な権力を誇っていた。

「それでは、予算会議を始めます。部活動予算の総額は200万円で……」

会計の男子生徒がパソコンで口座残高をしたとき、目を疑った。なんと、すべて引き出されていて残高が0円になっていた。

「どうしたの?」

「い、いや。何かの間違いみたいで」

そういてごまかすが、何度確認しても残高は0のままである。

「何?なんなのこの取引記録は!」

画面を見たさやかも思わず叫び声を上げる。電子上の記録では、生徒会の口座からファミレスやカラオケ、ボーリングなどの私的な支払いがされていたようにされていた。

「と、とりあえず、神埼君からの寄付金を入れている隠し口座からお金を移して……」

さやかの指示に従い、裏口座の残高を確認するが、そちらも0円になっている。

「そんな!どうすれば……」

思わぬ事態に、さやかは頭を抱えるのだった。



「と言うわけで、あいつらから奪われたお金を取り戻してきました」

メルは画面の中で、威張って胸をそらす。

「どうも……ありがとう。というか、君にはそんな事もできたんだ。なんかすごいね」

トオルに褒められたメルは、うれしそうな顔になる。

「えへへ。どういたしまして。でも、きっとトオル様も同じことができますよ」

「俺が?残念ながら、俺は何もできない無能な男だよ」

さびしく笑うトオルをメルは励ます。

「そんなことはありません。あなたは間違いなく勇者ユウジと同じ「学習魔法」の能力を持っているはずです。その身に魔法を受けさえすれば……」

そこまで言って、今のメルは現実世界で炎や光などの魔法が使えないことに気づく。

「魔法かぁ。使えるようになるならそうなりたいなぁ」

トオルが興味津々の顔をするので、なんとかして彼に魔法を教えてあげたかった。

「そうです。幻術や記録魔法などの認識系の魔法なら、現実世界にも影響を及ぼせるはずです。『精神感応』」

パソコンから出た光の糸が、トオルの頭らに接続される。同時に魔法の呪文(プログラム)が脳にインストールされていった。

「うっ……ちょっと頭いたい」

「あっ。すいません。同意も得ずに…」

画面の中でメルが頭を下げるが、トオルは気にするなと手をふる。

「へえ……これが『精神感応(テレパス)』の魔法か」

「はい。相手の感情などを読み取る魔法です。上級者になれば考えていることも読みとれます。他にも記憶を魔法媒体にコピーして保存したり、離れたところにいる術者同士で会話したり知識を共有したりできます」

メアは嬉しそうに説明するが、トオルは苦笑する。

「ありがとう。でも現実世界じゃあまり役に立たないかも……待てよ。」

トオルは自分の頭から精神触手を出して、パソコンにつなげる。今まで目やキーボードを通してしか接することができなかった電脳世界を、直接脳で感じることができた。

「これは……もしかして現代社会だと使いようによっては最強の能力になるかも。メル、ありがとう」

トオルに礼を言われて、メルは照れくさそうに微笑んだ。


弥勒学園 理事長部屋

「ばっかもん!」

理事長室に怒鳴り声が響き渡る。

「も、もうしわけありません。お父様」

父親に睨みつけられ、さやかは思わず身を縮めた。

「お前がやっている事は私も知っている。だが、やるならもっと上手くするがよい。現金で引き出して手元においておくとか、領収書も架空のものを作るとか、いろいろやり方があろう。馬鹿正直に記録が残る電子マネーなど使うから、困るようになるのだ」

「は、はい……」

さやかは横領のやり方のまずさを指摘され、頭を下げて許しを乞うた。

「まあ、今回のことはいい経験になっただろう。私の裏口座から補填しておく。次はもっと上手くやるのだな」

「……はい」

さやかは父親が尻拭いをしてくれると聞いて、ほっとした。

「それから、今後はその神埼とやらとは直接関わるな。どんな形であれ、お前が表に出るのはまずい」

「でも、それならどうやってお金を搾り取れば?彼はもともとその為に入学させたようなものですし」

さやかは困った顔をするが、理事長はにやりと笑う。

「ときにはアナログのやり方のほうが上手くいくこともある。自分が動けないのなら、手下を上手く使うがいい」

理事長は彼のやり方をさやかに教える。

「これも人の上に立つ人物になるための勉強だ。しっかりとやるがいい」

「はい。お父様」

さやかの顔には悪そうな笑みが浮かんだ。


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