11話 ラストオーダー
今日もまた、気の沈んだお客様がこの店に来る。今日は女子小学生だ。
「ブレンドのドリップ。」
「お嬢ちゃん、コーヒー飲めるの?」
「子供扱いしないで!」
彼女は足を浮かして椅子に座り、スマホを眺めている。誰かから連絡を待っているようだ。私はいつものようにミルを回し、コーヒーを淹れる。白いカップに注ぎ、小さな皿に置いたあと、スプーンをつけておいた。
「お待たせしました。」
「なんで?」
「はい?」
「なんでスプーンがあるの?」
彼女は目に涙を浮かべ叫ぶ。
「なんなのよ!小学生だからってコーヒーを飲んじゃいけないの?飲んでもブラックはいけないの?分かんないよ!何が普通なのよ!みんなそうしているからなんなのよ!私もそうしないといけないの?多様化だのなんだの騒いでるけど、縛っているのは大人たちじゃない!」
彼女は右腕で涙を拭く。灰色のパーカーに涙が滲み、色が濃くなっている。薄くメイクをしていたからだろうか、さっきまで何もなかった頬が少し赤く腫れている。
「ねぇ、嬢ちゃん。」
「えっ、あっ、すみません。」
彼女は少し冷静になり、コーヒーをすする。余程好きなのか、蕩けきった顔になっていた。私にも思わず笑みがこぼれる。
「美味しいです。これ。」
「ありがとうございます。」
「また、飲みに来てもいいですか?」
「勿論!」
彼女はお代をテーブルに置き、颯爽と帰って行った。少し浮かない顔をして。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます