10話 6thオーダー

 今日もまた、気の沈んだお客様がこの店に来る。今日はどこにでも居そうな女子高生だ。


「ん〜、ブレンドのフレンチプレスで。」

「かしこまりました。」


作業のようにミルを回し、コーヒーをゆっくり抽出する。店を開いてから3年間、お客さんが来るようになってから1年間、手慣れてきた作業だ。


「お待たせしました。ブレンドのフレンチプレスです。」

「いただきます。」


彼女はカップを両手で持って、口元へ運ぶ。緩めに結んだポニーテールが揺れて、ズズっと音が鳴る。


「美味しっ。」

「ありがとうございます。」


私は厨房に戻り、シャーペンとメモを手に取る。今、いい感じの文章が降ってきた。途切れ途切れの単語をメモっていると、テーブルの方から声がした。


「私、好きな人がいるんです。彼は背が高くて、知的で、少し不気味で、周りのことがしっかり見えている人。最初は友達の友達程度だったんですが、もう彼しかいないんです。


 問題なのが、私の親友が、彼のことを好きなことです。本人は自覚していないと思うんですけど、彼と話すときだけは目が違うんです。ほかの男子と話すときは、別に嬉しそうな雰囲気もないんですが、彼と話す時だけは違くて。


 別に彼氏願望とかはあんまりないんです。でも彼といたらどれだけ楽しいのかなって。ただそれだけです。」

「好きなら好きでいいじゃないですか。」

「まぁそうなんですけど。」

「親友の好きな人を好きになっちゃいけない法律なんてないですよ。」

「確かにそうですね。」

「私の友達にもそういう奴がいたんですよ。


 そいつには仲のいい女子がいて、ずっと好きでした。でも、恋には障害が付き物です。彼の親友にもその子が好きな奴がいました。お互いなんとなく空気で感じながらずっと仲良くはしていました。


 ある日、その親友がその子に告白しました。結果は惨敗。他に好きな人がいるとのことでした。


 そいつは考えました。その好きな人は誰かを。その子は幼馴染だから、ある程度の人間関係は把握していました。小学校、中学校の友達や、高校で出会った仲のいい人達。その中にピンと来る人はいませんでした。


 文化祭後、そいつはその子に告白しました。返事はこうでした。


『遅いよ、バカ。』


 その後、そいつはその子とゴールインして、親友ともまだ仲良く遊んでいるようだとさ。」


私は彼女の反応を少し見る。まだ、話の世界に入っているようだった。


「つまりは、それくらいで壊れる友情ってその程度のものなんですよ。」


私は念を押すように言う。彼女は少し笑っていた。


「ちょっとだけ頑張ってみます。」

「また、愚痴でも聞かせてください。」

「ご馳走様でした。」


店の外を歩く彼女を眺める。足取りは軽かった。

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