4話 3rdオーダー

 今日もまた、気の沈んだお客様がこの店に来る。今日は20代後半ぐらいのOLさんだ。


「すみません、ブレンドのドリップ、メリタで淹れて貰えますか?」

「少々お待ちください。」


瓶の中に豆がなくなっていたので、いい感じに調合して、ミルを回す。カリカリと音を立てる度、芳香な香りが店に広がっていく。ペーパーをセットして軽く湿らせて豆を入れる。少しずつ、ゆっくり『の』の字を書きながら淹れ、カップに移した。我ながらいい出来だ。


「お待たせしました。ブレンドのドリップ、メリタです。」

「ありがとうございます。」


彼女はスマホをテーブルに置き、コーヒーを啜る。


「美味しいです。」

「ありがとうございます。」

「小説が進みそうです。」

「それはよかった。私も小説はよく読むんですよ。」

「そうですか!今、ハマっている作家さんがいて、えとどれだったかな?あっこれ!これ読んでみてください。」


彼女はスマホを差し出して、私に画面を見せてくる。3000文字ぐらいの短編小説だった。


「へぇ、面白いですね。」

「ですよね!この『amami』って言うひとの小説の表現が好きで最近はずっとこの人のを読んでいます。」

「私もこの人の表現が好きですよ。何か自分を語ってるみたいで。」

「分かります!」


彼女は入店時にはなかった笑顔で嬉しそうにしている。


「私も小説書いたりしてるんですよ。この人に寄せて考えてみましょうか?」

「本当ですか?お願いします!」


私は、頭の中で漫画を開く。


「俺は人間観察が好きだ。というか得意だ。最寄りから乗換駅までに誰がどこで降りるかも全部覚えているし、誰と誰が付き合っているのかも見たらわかる。今日も寝ているふりをしながらこのクラス1のビッグカップルを眺めていた。


 俺の目線の先にいるのは神木奈緒と佐野アキラのカップル。美女と美男子の最高峰同士が付き合っているのもあり、全学年が盛り上がっている。


 そんな全員の憧れのカップルの些細な変化でさえも、俺は見逃さなかった。最近、神木さんの体の痣が増えていっているような気がしないことはない。


 ある日、彼女が1人になる時あった。俺は勇気を出して話しかけた。


「大丈夫?腕とか?」

「大丈夫よ、ありがとう。」


 翌日、神木さんは自殺した。


 遺書には『もう耐えられません』と書かれていたらしい。


 俺は思った。あの時もっと寄り添ったらよかったと。3年前告白していればよかったと。」


私は話し終えると、水を一口飲んだ。


「すごいですね、こんな短期間で、こんなに似てる作品を作れるなんて。口調とかも完璧です。」

「ありがとうございます。」

「オーナーさん面白いからまた来たくなりました。」

「お待ちしています。」


そう言ってコーヒー代をテーブルに置き、彼女は帰って行った。


「自分の小説を読んで貰えるのって嬉しいですね。」


私はそう呟いた。

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