第25話 王都にて

 王都は外壁に囲われており、地上に生きる魔物の侵入を阻むようになっている。

 上空の魔物については、外壁の上部にある監視塔で常に目視による確認が行われ、近づくモノがいれば対処を行うのだ。

 そこらの町や村とは比べものにならないほど多くの人々が暮らし、行き交う場所――そこに、ユーリとリンスレットは辿り着いた。

 門の警備の人数はそれなりにおり、さすがにフードを被ったままでは突破することはできない。

 故に、ユーリは普通に一人で王都へと入り、リンスレットは、


「……か、家畜と同じ馬車に無理やり詰め込むなんて、ひどくないですか……!?」

「あなたはその赤い目をまだコントロールできないんだもの。仕方ないでしょう」

「うっ、そ、それはそうかもしれませんけど……」

「それから、ここからは勝手な行動は絶対に慎みなさい。王都ともなれば『調停騎士団』の人間もいるし、上位騎士だって滞在しているはずよ。あなたなんか、見つかればすぐに殺されるわ」

「わ、分かっています。勝手な行動は、しません。でも、上位騎士が王都に滞在しているのに、この王都に吸血鬼がいるんですか……?」

「そうね。周辺の町や村を探った結果――ここに拠点がある、という結論に至ったわ。吸血鬼って言うのはね、自分のテリトリーを持つものなの。だから、できる限り大きな都なんかに隠れ潜むことは多いわ。人が多い分、隠れるのも難しくはないわけね。こうやって、わたし達が王都にいるのがいい証拠じゃない」


 ユーリとリンスレットは問題なく王都の中へと入ることができている。

 吸血鬼と言っても、見た目は人間と変わらない――通常、身を潜めている吸血鬼を人間が見つけ出すことは難しい。

 大抵は、向こうから仕掛けてきて発見するか、何かしらの痕跡から辿り着くことになる。

 ユーリの場合は、吸血鬼の匂いを判別できる――つまり、広い王都に身を潜めていようが、近くにいれば見付けられるのだ。

 ユーリが『吸血鬼殺し』と呼ばれる所以である。


「それで、どうやって探すんですか?」

「そうね。少なくとも向こうはまだわたし達が町中にいることには気付いていないはず。ただ、こっちも吸血鬼がどこにいるか分かってはいない――なら、一先ずは絞るために歩き回るのが正解かしら」

「こ、この広い王都を、ですか……?」

「なら、手っ取り早い方法を取ってもいいわよ」

「手っ取り早い方法? 何か他にも作戦が?」

「簡単よ。『ユーリ・オットーがお前を殺しに来た』ってここで大体的に宣言して、暴れ回るの」

「……!? な、なんですか、それ! そんなのダメに決まっているじゃないですか! それに、私達がいるってバレたら――」

「吸血鬼が逃げる? 答えはノーよ。奴らは絶対に逃げない」

「……? どうして、ですか」

「わたしの話を聞いていなかったの? 吸血鬼はね、自分のテリトリーを作るのよ。自分が絶対の存在であるという自負のもと、影の支配者として君臨するために、ね。それなのに、他の吸血鬼がテリトリーにやってきて暴れたとして、逃げ出すと思う? そんな屈辱はあり得ない――それが、吸血鬼っていう存在なの。まあ、逃げる奴もいるし、ここで目立っても『調停騎士団』の上位騎士とやり合う羽目になるから、暴れるつもりはないけれどね」

「そういうことですか……。では、やはり歩き回って調査するしかないって感じですね」

「ええ、そういうわけだから――また後で合流しましょう?」

「え、別々で行動するんですか?」


 ユーリの言葉に、リンスレットは少し驚いた表情を見せる。


「当たり前じゃない。仲良く王都の観光に来たわけじゃないのよ?」

「私、ユーリさんみたいに吸血鬼の匂いとか、判別できないですけど……?」

「そこは大丈夫。あなたはできなくても――向こうはできるから。自分のテリトリーであなたみたいな無知な吸血鬼がふらついてたら、食いついて襲い掛かってくるかもしれない。まあ、撒き餌みたいなものね」

「撒き餌……囮みたいなものですか」

「そういうこと」

「……分かりました。では、発見したら合図はどのように……?」

「空に向かって一発――魔法を放ちなさい。王都で戦うことになれば、混戦も避けられないわ。だから、あなたが人々を守りたいって言うのなら、できる限り人のいないところを選んで動くことね」


 ユーリからリンスレットに向かって言える、唯一のアドバイスであった。

 ユーリとリンスレットは一旦二手に分かれて、行動を開始する。

 リンスレットに対しては、発見した場合に合図を送るように言ったが、ユーリが発見した場合――合図を送るつもりはなかった。

 そこに上位騎士が辿り着く可能性も考えれば、当然のことだ。


「でも、一人だけ挨拶しておかないといけない人がいるわね」


 前もって手に入れていた情報の中に、ユーリがよく知る人物が――ここに滞在しているという情報を得ている。

 先んじて、話をつけておかなければならないだろう。

 ユーリは早速、行動を開始する。家の屋根伝いに移動をしながら、少しばかり目立つような動きを見せる。

 決して一般人に気取られるようなことはなく、あくまで上位騎士であれば勘付くような、そんな動きだ。

 そうやって王都の中を移動していれば、ユーリの動きに釣られてやってくる者がいる。

 人間離れした動きで、ユーリの前に一人の女性が姿を現した。


「こんなところでまた会うとは、な。ユーリ・オットー」

「久しぶりね、『剣姫』――アレクシア・フォーレス」


 何度目かの邂逅――かつての憧れの人物であり、今は敵同士でもある。

『調停騎士団』が誇る最高戦力である上位騎士。

 ユーリの復讐の相手を殺した女性――アレクシア・フォーレスであった。

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