第22話 向いてない
ユーリは先ほど逃げた少女を追って、路地裏を駆けていた。
そのすぐ後ろには、リンスレットがいる。
「ユーリさん、どういうことなんですか……!?」
「何がよ」
「いや、だから私の嗅覚がどうって……」
「ああ、それ。要するに『運がいい』ってこと。悪いとも言えるけれど」
「それだと分からないですって……! ちゃんと、説明してくださいっ」
リンスレットがユーリに追いついてきた。
ちらりと並んだリンスレットを横目で見ながら、
「あなたは来ない方がいいかもね」
「……!? それって、さっきの子に何か……? ユーリさん、さっきローブの切れ端、嗅いでいましたよね……?」
「結論を言うわ。あの子はまず、吸血鬼ではない。けれど、吸血鬼に何らかの関わりがある」
「っ!?」
リンスレットが驚きの表情を浮かべる。距離のあるうちは、さすがにほとんど匂いはしなかった。
だが、近づいた時に微かに感じたのは血の匂い――そして、ローブに染み付いた匂いで確信した。弱いが確かに、死臭がした。
ユーリにとってはすでに嗅ぎ慣れたもので、だからこそ分かってしまう。
たまたま寄ったこの町にも吸血鬼がいる――そして、おそらくその吸血鬼は、最近成ったばかりだろう、と。
「ま、待ってくださいっ」
「うるさいわね、何を待つの?」
「追いついたら、どうするつもりなんですか?」
「どうするって、決まってるでしょ。吸血鬼は殺すわ」
「だ、だって、それは……」
リンスレットが困惑の表情を見せる。彼女も理解しているのだろう――少なくとも、先ほどの少女は吸血鬼になんらかの関わりを持っている。
考えられる可能性はいくつもあるが、吸血鬼と一緒にいて無事であるということは、血縁者や親しい関係にある人間に限る。
実際、そういう者達にユーリは何度か出くわしてきた。
「リンスレット」
「はい――え?」
彼女の名前を呼ぶと同時に、ユーリはローブを翻しながら身体を回転させ、思い切り蹴りを入れた。
首元に強く入った一撃で、リンスレットは壁に強く打ち付けられ、そのまま倒れ伏す。
「そこで寝ていなさい。終わったら、迎えに来てあげるから」
リンスレットは動かなくなり、ユーリはすぐに駆け出した。
これからすることに、リンスレットは邪魔にしかならない――ユーリはそう判断した。
リンスレットはまだ完全に吸血鬼にはなり切っておらず、彼女はユーリのように吸血鬼化された際に――特別なことは何もされていない。
ほとんど人間と変わらない意識を持った彼女では、この先の戦いにおいては邪魔になるだろう。
(死臭を漂わせるような吸血鬼は――どんな理由であれ、生かしておくことはできないのよ)
ユーリは吸血鬼でありながらも、『正義の味方』になることを目指している。
その正義の在り方とは、すなわち人に仇なす存在を葬ること。
故に、吸血鬼以外の者を殺す対象にすることだってある。
そこに同情は不要であり、ユーリにとってたとえ――吸血鬼が誰かの大切な人であったとしても、必要ならば殺す以外の道はないのだ。
路地裏を駆けていくと、だんだんと死臭が強くなっていく。
ユーリが辿り着いたのは、すでに使われていないボロボロの一軒家であった。
迷うことなく、その敷地内に足を踏み入れると、家の奥から声が聞こえてくる。
「大丈夫……ここにいれば、絶対誰にも見つからない。あたしが、あんたを守るからね」
「――それは無理ね」
「……っ!?」
ユーリの言葉に、少女が驚いた表情を見せた。
「な、あ、あんた、誰……?」
「誰でもいいでしょ。それより、あなたはすぐに立ち去りなさい」
「か、勝手に入ってきて、何言ってんだ! こ、ここはあたしの家だぞ!?」
「……分かってないわね。あなた――その後ろにいる子、もうとっくに手遅れじゃない」
少女の庇っている『それ』は、もはや人としての体裁すら保っていなかった。
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