第11話 新しい吸血鬼
知らない女性が立っていた。
女性は少女の前に立つと、くすりと笑いかける。
見たこともない、女性だった。
少女の身体は動かない――ただ、女性の顔を見ることしかできなかった。
ぼんやりとしているけれど、笑顔を浮かべた女性はどこか優しげな雰囲気を感じさせる。
「生きていたい?」
「――」
少女はその問いかけに答える。
声はでないけれど、女性は理解したように頷いた。
「そう、じゃあ……そうするといいわ」
「――」
「私? 私はただの意思よ。あなたと……ユーリの、ね」
「――」
ユーリ――その少女の名を聞いて、徐々に意識がはっきりとしてくる。
反対に、女性は少女の傍を離れていく。
追いかけようとして、少女は光に包まれた。
***
「……あれ?」
リンスレットは、木造の天井を見つめて疑問の言葉を口にする。
声が出る――確か、腹と喉を貫かれたはずだった。
疑問が心の中に浮かび上がる中、傷口に触れる。
ざらざらと、少しだけ違う感触がした。
「目が覚めたみたいね」
「あっ……ユーリ、さん」
「気分はどう?」
「ここ、天国ですか?」
「地獄よ」
「ええっ!?」
「嘘。というか、わたしを勝手に殺さないで」
リンスレットに声をかけてきたのは、知り合ったばかりの少女。森でリンスレットを助けてくれた――《吸血鬼》の少女だ。
リンスレットはそこで、ようやく自分の身に起こったことが改めて現実だと理解する。
死の間際、彼女と口付けをかわしたということも。
「……っ、初めてだったんですよっ!?」
「起きてすぐに言うことがそれ?」
呆れたような表情を浮かべて、ため息をつくユーリ。
だが、やはりそれ以上に疑問に残ることがある。
「……どうして、私は生きてるんですか?」
「何となく理解はできてるんじゃない?」
リンスレットの問いかけに、ユーリがそう答える。どくん、と心臓が高鳴る感覚があった。
あの怪我では助かるはずもない――今生きている理由があるとすれば、リンスレットはすでに人間ではないということだろう。
「私を、吸血鬼にしたんですか?」
「そんな簡単な話じゃないけどね。今のあなたは、半分くらい吸血鬼」
「半分……?」
「そ、傷を自分で治癒するくらいの能力は備わってる。けど、心臓を抜かれたり、しばらくそこに刃を突き立てられたら再生できずに死ぬ――基本的には人間とは変わらないわよ」
そこまで言い終えると、ユーリがリンスレットの前に一本の短刀を差し出す。
怪訝な顔でそれを見つめ、
「これは……?」
「あなたは奇跡的に助かった――けれど、吸血鬼になりかけていることに変わりはないわ。だから、そんな運命が嫌なのなら、今ここで死ねる選択をあげる」
「え、え……それって――」
「じゃ、しばらくしたら戻ってくるから」
「あっ」
ユーリが話を終えると、すぐに部屋を出ていってしまう。
聞きたいことは他にもあるが、少なくともリンスレットに与えられた選択は二つ。
一つはこのまま吸血鬼になることを受け入れて、生きること。
もう一つは、吸血鬼になることを拒み、死ぬこと――今のリンスレットなら、まだ比較的簡単に死ねるということだろう。
戦っていたときのイリナとユーリを思い出す――お互いに血を流させて、文字通り肉や骨を削るような、戦いを繰り広げていた。
思い出しただけでも背筋が凍る。
「……私――」
リンスレットは、渡された短刀を手に取った。
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