僕のことを大好きすぎるメンヘラ彼女は奇食家だった

@Eto_Shinkuro

第1話

 茜音(あかね)。この目の前にいる女の子の名前だ。ロングヘアーで、茶色く染めてで、きれいに巻いている。これは内巻というやつか。目も二重でとろんと大きく、顔立ちはかわいい部類に入る。服装もカジュアルでかわいらしく、一見、普通のモテそうな女の子。あくまで、一見。


 夕方、携帯にメッセージが入った。


 「ご飯できたから一緒に食べてほしいなぁ。」


 第三者がみたら、なんだこのリア充、爆発しろ的な内容。でも、僕の表情はこわばる。


 「今日は、何を食わされるんだ?」

 「来てからのお楽しみぃ。」


 仕方なく、僕は、半分ぞっとしながら、茜音の家に向かった。彼女の家は、僕のアパートから、自転車で5分の場所にある。彼女とは、アルバイト先で1か月被っただけだった。僕が入った1か月後に、彼女が辞めた。その間に、連絡先だけ交換していた。そういえば前は、ウサギを食べさせられた。自分で森で捕ってきたらしい。もはや、意味不明。



 チャイムを鳴らし、カギを開けてもらい、家の中にはいると、嗅ぎなれた匂いがする。これはカレーの匂いだ。


 「特性カレーです。」


 茜音は言う。カレーは味がもはやカレーだから、多少の創作が入ろうとも、触感だけの問題のはずだ。ほっと胸をなでおろした。でも、彼女のカレーは、本当に、味だけがカレーだった。ナマコに、イナゴに、カレーがかかっていた。カレーのスパイスは、自分で調合したらしい。僕は、腹3分目くらいにおさえて、帰りに牛丼を食べて帰ろうと思った。


 「どうして、こういう創作になるんだ?」

 「興味があるから。」

 「どこに興味をそそられるの?」

 「私の舌の上で、未知のものが食され、消化される、喜び。」


 意味不明だ。でも、普通にしていれば、めちゃくちゃタイプでかわいい。彼女になってくれたら自慢して外をずっと一緒に歩いていたいくらいだ。でも、していることだけに注目すれば、うん、きわめて迷惑だ。


 「食べさせてあげよっか。口開けて。」


 横並びに座って、横からスプーンを僕の口に近づける。体のいろんな部分が触れる。拒否できないのは、男の性。ちくしょう。

 ナマコが、イナゴが、口の中で踊る。最悪の舌触り。味は確かにカレーでそこそこの味だが、吐き気がする。やっぱり思い直し、率直に伝える。


 「味はそこそこだけど、僕はもっと、ありふれたメニューを食べたい。ご飯を作ってくれてるのはありがたいけど、あんまり、乗り気にはなれない。」


 はっきりといった。


 間髪入れず、返事が返ってくる。

 「聞かなかったことにしてあげるねぇ。その代わり、罰としてあと5回は付き合ってもらうからね。それで許してあげる。人にあんまり借りを作るもんじゃないよぉ。」

 「さっさと私のこと大好きになれば、幸せになれるのに。」

 彼女は、にたっと笑っている。


 僕が粗相をし、彼女がそれを寛大な心で許すという謎の構図が出来上がった。勘弁してくれ。


 彼女は、僕が大好きらしい。こうやって、ご飯を食べさせるのがたまらなく幸せらしい。そして僕は、ずるずると抜け出せない。


 「次回は、もっと豪華なの頑張ってみるねぇ。」


 何を頑張るんだ。

 「今日は、そろそろお暇するよ。」

 「泊ってけばいいのにぃ。朝ごはんも一緒に食べれるのに。」


 どうしても、許せないプライドがあって、僕は帰る。帰り道、一杯400円の牛丼を食べる。

 「口リフレーッシュ。」


 心の中で叫ぶ。さて、今日はもう忘れて寝よう。

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