第17話 吉凶入り乱れ!ツッパリ『凛』と真面目『凛』の日常!!(17)



いじめは人の心を壊すというが、その通りだと思う。


目の前にいる女の子の姿、ハッキリ言って痛々しい。


返事に困って黙る私に、吉田さんのご乱心は止まらない。



「きれいごと言わないでよ!!正直に言ってよ!言いなさいよ!」


「えー・・・なにを言えというのですか?」


「あなたに死ねって言ったことについてよ!気にしてないわけないでしょう!?どう思ったのよ!?隠さないで、本当のこと言えば!?」


「ショックでした。」



仕方がないので即答すれば、傷つくような顔で固まる。




(正直に言ったら言ったで、そんな面すんのかよ・・・)



わがままだな、おい。


私に忖度(そんたく)しろってか?


私が貴女に対して、配慮ある発言をするとでも思ったのか?




〔★凛が推し量らなくてもいいと思われる★〕




若干、『凛道蓮』モードになったが、なんとかクールダウンしながら言った。




「吉田さんの言う通りです。否定はしません。」


「やっぱり・・・!同情したふりだったんじゃない!?自分をいじめた相手が苦しんでるのを見て、良い気になってるんでしょう!?」




泣きながら、勝ち誇ったように言う吉田さん。



「わかってたよ!簡単に許してくれるわけないって!すぐに許してもらえることじゃないって・・・!だまされるとこだった・・・!!」


「吉田さん・・・」


「菅原さんのやさしさに、だまされるとこだった!だますなら――――バレないように、だましてよ!こんなっ・・・!!」



怒ったり笑ったりと、ころころと表情を変える吉田さん。


情緒不安定(じょうちょふあんてい)な相手に私は言った。




「はい、どうぞ。」


「え・・・!?」




持っていたある物を差し出しながら伝える。



「これ、見て下さい。」


「はあ!?なにこれ!?・・・え!?これ・・・」



私の手の中にあるものを見て、吉田さんの表情が曇る。



「鏡・・・?」


「鏡です。」



戸惑う吉田さんに私は言った。




「今の自分の顔、鏡で見てどう思いますか?私から見ても、苦しそうな表情です。」


「え?だ・・・だからなに!?」


「苦しんでる人を、さらに苦しめるようなこと、私はしません。出来ません。自分がされたら嫌だから、出来ないんです。」



相手が苦しんでるとわかっていても、しつこくしつこく、嫌がることをしてくるのがいじめだ。


それがどんなにつらいか、一学期後半から今まで、嫌というほど思い知らされた。




「お願いします、吉田さん。」




やられた内容は違っても、彼女もイジメられていることに代わりはない。


だから、つらさと痛みはわかる。




「私に、吉田さんを苦しめるようなことを、させないで下さい。」




予備で持っていたハンカチで、吉田さんの目元の涙を拭く。




「菅原さん・・・!?」


「お願いします。」




ハンカチを相手の目元にあてたまま、頭を下げて頼む。




「吉田さんを苦しめるような真似を、私にさせないで下さい。いじめられるつらさを知っているからこそ、理不尽な攻撃で傷ついているあなたを追いつめたくありません。吉田さんは何も悪いことをしていないのですから。」


「うっ・・・!うわぁあああああああああ!!」




泣きながら、吉田さんが抱き付いてくる。


その体を両手でしっかりと抱きしめる。




「ごめんなさい!ごめんなさい!菅原さん!ごめんなさい!」


「いいんですよ。」


「ごめんなさい!ごめんなさい!私!!」


「つらかったですね。」


「うっう!うん!うん!うう・・・!」




いじめられていた女の子の背中を撫でながらあやす。


なだめる。


遠くで歌声が聞こえる。


始業式で歌われる校歌だろう。


そう予想しながら、出来るだけ優しく吉田さんを抱き寄せた。






泣き止んだ吉田さんから最初に言われたこと。




「菅原さんにひどいことを言って、本当にごめんなさい。」




真摯な姿と言葉による謝罪だった。



「もう気にしなくていいですよ。」



人が来ない後者の裏で、私達はくっついて話していた。


始業式はまだ続いているため、お互いの教室はカギがかかったままだ。


荷物を置いて帰ることは出来ないので、始業式が終わるまでの間、2人で時間をつぶしていた。


そこで吉田さんは、なぜ彼女がいじめられるようになったかを話してくれた。




「小村さん・・・さっきいたグループのリーダーの子なんだけどね、スマホを新しく買い替えたって話してたら話しかけられたの。『やりたいスマホゲームの人数が足りないから、付き合ってほしい。』って。」


「数合わせで、遊ぼうって誘われたの?」


「うん、最初はそうだった。初めてしたスマホアプリだったけど・・・すごく勝ったんだ。面白いぐらい勝って、小村さん達から褒められて・・・。女子グループの中でも、カースト上位の子達からチヤホヤされて・・・私、浮かれたんだ。嬉しくて、勝ち取ったポイントを小村さん達にわけて、喜ばれて、おだてられて・・・好かれてるって勘違いしてた。」


「そのポイントって、どんなものなんですか?」


「・・・ゲームの中で使えるマネーポイントなの。あんまりにも私が勝ちすぎるから、小村さんとかが『お恵みを~』とか、『おごって下さーい』とか言ってきて・・・気分がよかったから、言われるまま、あげちゃってたんだ・・・。」



「・・・そうですか。」


(・・・『たかられた』っぽい感じだな。)




それが話を聞いた第一印象。





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