第15話 吉凶入り乱れ!ツッパリ『凛』と真面目『凛』の日常!!(15)



始業式、新学期初日は最低だった。


教室で渕上の幸せ話を聞かされ、体育館では締め出されただけでも最悪なのに・・・



「ひっく、ひっく!」


「吉田さん、しっかりして。」



ヤンキー女どもに泣かされた、同じ委員会の女子を保護することとなった。


その子、吉田さんが、いじめられたくないから私に暴言を吐いたのは理解してる。


気にしてないと言えばうそになるが、今ここで、彼女を突き放す気にはなれなかった。




(とはいえ・・・私と一緒に行動してるのを誰かに見られるのはよくないな。)


「吉田さん、私と離れた歩きましょう。巻き込みたくないです。」


「う・・・うん。」




意味を理解した吉田さんは、一定距離を開けて私の後ろからついてくる。


使づ離れずで、無関係の距離のまま保健室についたのだが・・・



「え!?開かない!?」



施錠されて閉まっていた。



(留守にしてるのか・・・参ったな。)



早く身を隠したいのに、開いていないと逃げ込めない。


目だけで吉田さんを見て、ガタガタと音を立てながら開かない戸をゆらす。


それで相手にも、保健室にカギがかかっていると伝わった。


ジェスチャーで、しばらく待とうと伝える。


保健室の前にいる私と、少し離れた物陰で隠れるように座り込む吉田さん。




(・・・人間って、つらい時は時間を長く感じるというけど・・・)



つらいわけじゃないけど、今も時間がたつのを遅く感じる。


いじめによる無視や暴言などに耐える時とは違った居心地の悪さ。



(この場合は、『気まずい』って感じかな?)




楽しい気分じゃないことは間違いない。



(大丈夫よ、凛。ちょっと我慢するだけじゃない?)



保健室の先生が、そんなに長くホームグラウンドを開けているわけがない。


すぐに帰ってくるだろうと思ったのだが―――――




(・・・遅いな・・・・・・。)




待ってども待てども、保健医が戻ってくる様子はない。


腕時計と廊下の先を交互に見るを繰り返す。



(トイレにしては長い。大便だったとしても長いけど・・・もしかして、便秘?)



保健室の先生が便秘なんて、職務怠慢もいいところよ!


ちゃんと、うどんか食物繊維を食べなさいっての!



〔★決めつけてはいけない★〕




イライラを抑えながら、養護教諭の帰りを待つ。


時折、吉田さんの方を見る。


彼女はこちらを見ることなく、下を向いたまま動かない。


時々、痛々しい足をさすっている。



「痛っ・・・!」



反射的につぶやいてしまっているらしい苦痛の声。


それを聞いたら、たまらなくなった。



(・・・・・待てないな。)



自分のことなら我慢できるが・・・・・これは無理だ。



「ちょっと先生、呼んできますね。」


「え?す、菅原さん・・・」



一言、吉田さんに伝えてから保健室の前から移動する。



(これ以上待てるか!!)



待ちきれなくなり、職員室へ向かった。



「失礼します。」



あいさつをして、職員室に入る。


ガラーンとしていたが、1人だけ教師がいた。



(あ、生活指導の男の先生だ。)



そう思ったら、相手の先生と目があった。


途端に先生は、嫌そうな顔で私に近づいてきた。



「始業式をさぼって、何やってるんだ?」


「え!?いえ!サボったのではなく・・・」


「多いんだよな。寝坊した生徒が、体育館に入りにくくて保健室に逃げることは?」


「違います!そんなんじゃないです!」


「とにかく、保健室に行くぐらいなら、もう帰っていいよ!1-Aの菅原だな?担任の井谷先生には俺から報告しておく。」


「え!?あの・・・!」


「みんなが帰ってくるまで、教室の前で立ってなさい。」



私の学年とクラスと名前を記録すると、シッシッと手で追い払う男性教師。


逆らっても、私には何の得にもならないので職員室から撤退した。


視線を感じて振り向けば、職員室の出入り口に吉田さんがいた。



(・・・ついて来たのか・・・)



目だけで吉田さんの方を見れば、心細そうに私を見ていた。



(仕方ない・・・『自前』にしよう。)



そう決めて、吉田さんの側まで近づき通り過ぎ際に小声で伝えた。



「ついてきてください。」


「・・・。」



相手は何も言わなかったけど、首を縦に振ってこたえてくれた。


だから、人通りの少ない道を選んで進んだ。


誘導する。


ほとんどだれも来ないと、『大親友』から聞いた、校舎裏へと移動した。


全校生徒が体育館に集まっているということもあり、誰にも会うことなく校舎裏へとたどり着けた。



(ここまでくれば、大丈夫よね?)



周囲に生徒や教師がいないことを確認する。



「吉田さん、こっちへ来てください!誰も見てませんから。」


「う・・・うん。」



安全を確信してから吉田さんに声をかける。


手招きすれば、恐る恐る近づいてきた。



「こんな場所で悪いですが、かんたんな手当てをしましょう。『自前』ですが、すみません。」


「え?手当て?自前って・・・?」


「アイテムは持ってます。」



コンパクトサイズの、応急処置セットを見せながら言う。



いじめによる怪我をするおかげで、いつも持ち歩いていたのだ。



〔★装備している理由がむなしい★〕




「さあ、ここに座って。」


「・・・うん・・・」


「あ、その前に、汚れをとりましょう。」



手で軽く、吉田さんの制服の土を払ってから、傷の手当てをした。


ひどい傷にだけ、ぼんそうこうを貼った。



「どうして・・・助けてくれるの?」



手当てしていれば、怯える声で聞かれた。



「・・・痛そうだったから。」



無難な答えを返した。


特に理由はない。



(だって、気づいた時には、身体が勝手に動いていたから・・・。)


「これでいいよ。」



そう伝えて、ハンカチで制服の汚れを払う。



「なにも・・・聞かないの?」


「・・・・私がいじめられてること、知ってるでしょう?私から貴女に接触するような真似はできません。お互いのためです。関わらない方がいい方が良いでしょう?」


「ごめんなさい・・・」



そう伝えたら、頭を下げられた。


関りを持たないことについて、理解してくれたのだと思ったのだけど・・・



「菅原さんに『ひどいこと』言って、ごめんなさい・・・!!」


「え?」


「いじめる側に回って・・・!!」



(・・・あ、そっちか。)



吉田さんの言葉で、自分の解釈違いに気づく。




(『ごめんなさい』って、そういう意味の『ごめんなさい』か・・・。)




相手が言ってるのは、今日のことではなく、過去への謝罪だった。








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