第13話 出待ちに来た彼の名前は井端健介くん
黒羽花鈴はブルージーニアスになってからの方が悩みが増えた気がした。
ラビットボーイも国光無二も売れている。
私だけまだ売れてもいない。
私の唯一の仕事はテレビ番組ではなくラジオだ。
ラジオ名は『花鈴のトキメキ』だった。
毎週月曜日にハガキで送られてくる一般の方からのときめく瞬間を選んで読み上げる。
私の大事な仕事だからずっと続けたいと思っていた。
そして、今日はその月曜日だから、いつもの放送局に行った。
今日のテーマのトキメキは『明日の自分へ』だった。
送ってくれたハガキを1枚1枚見て決まったハガキは2枚。
2枚とも高校生でしかも常連さん。
そして、夜10時を回った頃に放送は始まった。
『皆さん、花鈴のトキメキへようこそ。初めての方にちょっとした自己紹介をしますね。私の名前は黒羽花鈴と言います。今話題のブルージーニアスで活動しています。よろしくお願いします。それでは、レッツミュージック!音楽が終わった後に皆さんのトキメキ紹介しますね』
そして、音楽が鳴り響いている間に、水とビタミン剤を飲み、音楽が鳴り止み深く息を吸い吐くと同時に喋り出した。
『今日は2枚のハガキを読みたいと思います。1枚目はふてくされ猫さん。『明日の自分は多分今日とそう変わらないくらい隠キャだと思います。』なるほど。でも、私から見たらふてくされ猫さんはこのハガキを送ってる時点で陽キャ確定なんじゃないでしょうか。では、次に行かせていただきます。最後はルートセブンさん。『僕は明日の自分は想像がつかないほど何かを成し遂げることはないと思います。トキメキがあるとすればこのハガキが今日読まれることを信じている自分がいることでしょうか。』と...やっぱりルートセブンさんは面白い方ですね。一度ふてくされ猫さんとルートセブンさんに会ってみたいですね。きっとお二方共に面白い方なんだろうな。あっという間に20分経ってしまいましたね。それではまた来週、貴方に私の声が届きますように。see you again』
放送が終わりスタッフさんからお疲れ様でしたと言われ、放送局のドアを開くと出待ちがいると私はいつも思っちゃうけど、そんなことはない。
だって、私は芸能人だけど有名人ではないから。
でも、今日は違ったトキメキが私にはあった。
声をかけて来た男性がいたからだ。
彼は言った。
『こ...こんばんは。ふてくされ...猫の...』
『あー、ふてくされ猫さん!こんばんは。私貴方に会えて嬉しい。でも、ごめんね。時間がないの。何か私に用?』
『これにサインして下さい!』
そう言って渡して来たのが、ネタ帳と書かれた自由帳の表紙だった。
私は快くその表紙に黒羽花鈴と花鈴のトキメキと書いた。
それから私は彼に聞いた。
『貴方がなりたい夢は何?』
『僕がなりたいのは、誰かに夢を与えることの出来る俳優です。出来るか分かりませんが。』
『へー、分かった。貴方のペンネームじゃなくて、本名教えてくれる?』
『井端健介(いばたけんすけ)です』
それを聞いて花鈴は裏表紙に『俳優になったらいつか共演しましょう、いばたけんすけくん』と書いたのだった。
そして、最後に握手してノートとペンを手渡し、車に乗り込んだ。
花鈴は今日が1番ときめいた瞬間だった。
花鈴と井端健介くんの将来が変わる瞬間でもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます