第8話 真相

 宮水が語った真相はこういうものだった。


 まず、今まで不可能とされていた脳移植の理論を勅使河原が発見した。その理論を学会で発表したが倫理的な問題の発生を恐れて、世間一般には公表されなかった。だが、権力者である三葉銑十郎はそれをどこかで聞きつけて、ある計画を練りはじめる。

 

 三葉は美しい女性になりたいという思いをずっと胸に秘めていた。そのため、理論を知ったから、美貌を持つ女性を金にものをいわせて集め始めた。しかし、金銭で寄ってくる女性に、三葉の望む素朴さや清純さを残しつつも、美しさを持っている者はいなかった。そんな時に現れたのが、困窮に苦しんでいる美少女の瀧川春香だ。三葉は一目で春香を気に入り、家に呼び出して持病等の問題がないか確認して、計画を動かし始めた。


 三葉は勅使河原の家族を人質にとって、春香の身体に自分の脳を移植するように命じた。スマートリアリティ社で築いた権力と財産を使った全く隙のない犯行であるため、勅使河原は反抗をすることができなかった。万が一失敗することがあれば、彼の家族は殺害されてしまう。


 無事計画を成功させた三葉であったが、あることを見落としていた。手術で取り出した春香の脳はどこにいったのかということである。


 勅使河原は春香の脳を保存して、バイク事故で脳死をした少年、宮水秋人の身体に移植していた。理不尽に身体を奪われる少女を不憫に思った彼ができる唯一の罪滅ぼしだったのだ。


 宮水の身体で目を覚ました春香は、最初こそ落ち込んだが、すぐに思考を切り替えた。三葉はもちろん、死んだ三葉銑十郎としての財産を春香の名義に変えて、自分の物にするはずである。だから、春香は悟られぬように身体を取り戻し、三葉銑十郎に身体を乗っ取られている春香を演じて、財産を手に入れてしまおうと考えたのである。


 まず、春香は担当医としてついた勅使河原にそのことを打ち明けて協力を要請した。それから宮水として、三葉銑十郎と接して親しい関係になり、常に気を伺い続けたのである。


 三葉の動向を伺い続けて約一年、資産の移行が完了したことを知った。それから、三葉が全ての財産を隠し持っている居所を知るために、真実に気づいているような素振りを見せ、不安を煽って、彼が居所に戻るように仕向けたのだ。


 まんまと策にハマって、資産を隠している居所に戻った三葉を探すために、春香は宮水として仲良くなった明智たちを利用することにした。というのも、三葉本人にGPSをつけることには問題があるからだ。どのタイミングで三葉が同棲しているアパートから出ていくか分からない上に、居所に行くまでにバレたら自分を敵として認識される可能性がある。なので、GPSのついた何かを三葉に持ち去らせる必要があった。それには、春香がGPSをつけられるくらい近づくことができて、三葉が脅威に感じて処理をする必要があると思わせるほど優秀な明智達がベストだったという。三葉は予想通り、同棲のアパートを監視していて、明智と和戸を脅威に感じた。また、二人はこの秘密を漏らさないという信用もあったようだ。


 明智たちはこの説明を聞いて、名状しがたい感情になった。利用されたことへの怒りはないが、話のスケールの大きさに何を考えればいいか分からない。


「先輩は先輩じゃなかったてことか…」

「君たちが最初にあったときから、私だったけどね。でも宮水くんの脳は多分ミヤッチに入ってる」

「脳死だったんじゃないんですか」

「人の身体に必要な機能の脳分野が死んでても、ロボットの身体には関係ないからね。あんな蹴りできるの宮水君だけだし」

「身体が入れ替わる前から宮水さんを知ってたんですか?」

「昔、不良に絡まれてるところを助けてもらったことがあるんだ。それでちょっとね…」


 人間の動作をすることはできるが、意識を持ち思考することはミヤッチにはできないのだろうな、と和戸は思った。宮水の脳はただロボットを動かすCPUと化しているという予想は外れていない。


 三人の話に耳を傾けていた三葉が、拘束されたままであるが喚き出した。


「あの医者裏切ってやがったのか。また新しい身体に移るときのために家族もろとも手元においてやったのに」

「人質をとって、誘拐しただけでしょ。あんたを裏切らない理由がない」


 春香がすかさず反論した。その春香を三葉は鬼のような形相で睨む。


「お前は美しい容姿を生まれ持ったからいいじゃない。私はかわいい女に生まれたかったのに現実はただの醜男。どんなに勉強して、どんなにお金を稼いでも欲しいものは手に入らなかった」


「じゃあ、性転換手術なり、整形なりすれば良かったのに」


「性転換しようが、整形しようが、なれるのはただの醜いおかま。私はね、純粋でかわいい女の子になりたかったのよ」


「それが人から奪っていい理由にはならない!」


 三人は、勅使河原達家族が監禁されている部屋に向かった。特にひどい待遇を受けていたわけではないようで、全員健康体であった。

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