第5話 解ける謎・深まる謎

「新手か? 先輩、そいつから離れてください」

和戸が宮水に警告する。


「この子は元から倉庫の中にいたから、先生がくれた味方だと思う。僕のことも助けてくれたし。だから大丈夫だと思うよ」


 明智と和戸も倉庫の中に入る。確かにロボットは彼らのことを害する素振りは見せなかった。


「うわ、なんだこれ? 血?」

粉砕された犬型ロボットの頭部から赤い液体が漏れ出し、明智の足元までのびている。


「血ではないな。そういう臭いはしない。おそらく、頭部にある精密機械の接続、もしくは保存に必要な液体なんだろう。こんなに本物そっくりの動きができるロボットは見たこと無い、相当特殊なCPUを搭載してるはずだ」


 分析をする和戸の目は爛々と輝いている。早く分解をしたくて仕方ないらしい。


「和戸、分解は後だぞ。コイツが味方かどうか見極めなきゃなんねえ」


 明智がそういって、人型ロボットの肩に手を置いた。


「確かに。このロボット君も人間と完璧なくらい同じ動きをしている。いくらロボット産業革命が起きたからって、ロボットは動物や人と全く同じ動きはできない。それができる身体の構造を作ったとしても、CPUが対応できないんだ。それくらい動物の動きっていうのは複雑で、状況で変わる臨機応変なものなのさ。だからこんなロボットをつくる技術を持つ奴が複数いるとは考えにくい」


「てことは、この人型もさっき襲ってきた犬型と同じところが作ったてことか?」


「その可能性が高い。そして、こんな動きを可能にする筐体をつくれるのは最大手のスマートリアリィ社しか考えられないんだ」


「また、スマートリアリティ社か…」


 明智がギロリと人型を睨む。すると、宮水が人型の前で手を広げて立ち塞がった。


「待ってよ2人とも! 先生からの書き置きがあったんだ、味方だってば!」


 宮水は書き置きの紙を明智に渡した。そして、和戸にも分かるように声に出して読み上げた。


「人質が危険になってきたから、そろそろ私は連れ去られることにする。お詫びに、君の助けになってくれるだろう人を残していこうと思う。三葉銑十郎から実験用に譲り受けた筐体で作り上げたアンドロイドさ。絶対に君を守ってくれるはずだ。なんたって彼は君の… いや、察しの良い君になら言う必要はないか。

三葉は居所は私の方では掴めなかった。アイツは用心深いんだ。だが、君なら奴を見つけ出す狡賢い方法を思いついているだろう? 幸運を祈る」


 手紙の内容を二人に質問される前に、宮水が口を開いた。


「二人とも、聞きたいことがたくさんあるはずだ。ぼくが本当は何か重要なことを隠していると知って、不信感を持ったと思う。でも、まだ教えられることはないんだ。本当にごめん…」


 彼は号泣して、嗚咽を漏らしている。明智も和戸も追及する気にはなれなかった。


「いいよ、先輩。あんたについてけば、この謎は解けるんだろ」

「僕もいいですよ。でも、まずはこの犬型ロボットを分解させてください」

「ありがとう、二人とも」


 和戸は比較的に傷ついていない犬型ロボットを倉庫の中に引きずり込んで、分解し始めた。


「お前、いつも工具持ち歩いてるのかよ」

「リュックに収まる分だけな。こういう時に必要になるだろ?」

「滅多にある状況じゃないだろ…」


 軽口を叩く明智と和戸だったが、頭部の分解が終わった時に絶句した。透明な丸いケースにいっぱいに満たされた赤い液体の中に、脳味噌が浮かんでいる。


「これ、本物だよな?」

「間違いないだろう。まず、脳に突き刺さっている電極で行動を統制してるっぽい。それで、ケースに繋がっていたケーブルで情報を読み取って、ロボットの身体を動かしていたんだ。この赤い液体は脳の電気信号を機械でも使える信号に変換する役割があるんだと思う。本物の犬の脳味噌を使ってるんだ、そりゃ本物と同じ動きができるよな。脳と機械を繋ぐのには微細な調整が必要だったから、頭をやられたらそれが狂って動かなくなったんだろう」


 和戸は些か残念そうな表情をした。


「先輩。何か言えることはあるか?」

「勅使河原先生は臓器移植の名医なんだ。だからこの液体の製造やロボットへの脳移植にも関わらされてしまった。そして、春香を見つけることは先生を助けることにも繋がる」


 もう一度和戸に向き直る。


「もしかして、その人型には人間の脳味噌が入ってんのか?」

「そうとしか思えないな」

「うわ。壊さなくてよかった。危うく人殺しになるとこだったぜ」


 明智は背筋が凍るのを感じたが、ぎこちない笑顔で軽口を叩く。

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