第3話 彼女の親友
宮水の彼女、春香の異常さが分かった所で、その日の調査は終了にすることにした。
「本当にごめんね。危険な目に遭わせるつもりはなかったんだ」
「いいってことよ! 明日も探すのつきあうぜ、先輩」
次の日は土曜日であったので、朝から3人で集まった。
「とはいっても、家以外にどこを探せば良いんだ」
「先輩は春香さんと何処で出会ったんですか?」
「病院だよ。二人がお見舞いに来てくれた場所と同じさ」
宮水は彼女に病院で出会って一目惚れしたことや、手術を受けた彼女とリハビリの期間が同じで、距離が縮まったことを説明した。担当医が同じで二人の後押しをしてくれたこともあったという。
「じゃあ、病院に行こうぜ。犯人は現場に戻ってくるって言うしな」
「別に犯人じゃないだろ。でも賛成だ。先輩の彼女に関する何かしらの手がかりは得られるかもしれないし」
三人はアポもなしに病院に向かった。適当に聞き取り調査を行うつもりである。1人暇そうにしている熟年の看護婦がいたので、話しかける。
「なあ、おばちゃん。瀧川春香について何か知らないか?」
「はあ?」
「本当にすいません。以前、瀧川春香さんという方が入院していたと思うんですけど、最近訪ねてきたりしてませんか?」
明智の低いコミュニケーション能力を和戸がカバーした。
「タキガワハルカ? ああ、覚えてるわよ。すごい可愛い子だったから。あれ、君は…」
後ろで誇らしそうな顔をしている宮水に目をやって、看護婦は懐かしそうな顔をした。最初から宮水が話しかければ良かったのだ。
「以前お世話になっていました、宮水です」
「そうだ! 宮水君だ! あの春香ちゃんを落としたやり手だって話題になってたのよ」
「その春香と同棲していたのですが、家出されちゃったんですよ。最近見てませんか?」
「あら〜、喧嘩したの? でも退院以来見てないかな。いや、一度だけ来てたかしら」
「え、いつですか?」
「何ヶ月か前。勅使河原先生を訪ねてきたのよ」
「そういえば、勅使河原先生は?」
「あの先生、最近やめちゃってね。名医がいなくなって困ってるのよ。そうだ! 先生から宮水君に伝言があるのよ」
「僕に? ぜひ教えて下さい」
「人探しなら春香ちゃんの本当の友人を訪ねろって。どういうことかしらね? あとこんなに大事なこと忘れててごめんなさい。まさか、本当に来るとは思ってなくて」
勅使河原は二人の担当医だった男だ。臓器移植の名医でもある彼の退職は病院にとっても痛手だったらしい。だが、宮水に伝言を残していてくれたのは良い手がかりになった。
「捜査が一歩前進したって感じだな」
「なんだかうまく行き過ぎている気がするけど」
ペシミストの和戸はうまく進んだ捜査に不安をおぼえる。
さっそく三人は春香の本当の友人とやらを訪ねてみることにする。
「先輩、春香さんの友人が誰だか分かるんですか?」
「えーと、聞いたことがあるんだよ。確か同じ高校だった平沢みくるさんって人さ」
「凄い記憶力ですね」
「でも、先輩。どうやってその女の所に行くんだ?」
「彼女がいなくなった時に訪ねてみようと思って住所を調べておいたんだ。一人で行くのが怖くてまだ行ってないんだけどね」
「凄いじゃないねえか、先輩!」
明智たちは電車に乗って、彼女の住居に向かう。
インターホンを鳴らすと若い女性が出てきた。メガネで化粧っ気がなく地味である。おそらく彼女が平沢みくるだろう。今回はスムーズに行くよう最初から宮水が対応することにする。
「あの、なにか御用でしょうか?」
「こんにちは、宮水秋人と言います。瀧川春香のことでお話があるのですが」
「! あなたがもしかして春香の彼氏とかいう…」
「そうです」
「まずは渡さなきゃいけないものがあります」
家の奥にバタバタと走っていた彼女が戻ってきて、宮水に封筒を手渡した。中を確認すると、鍵とそれが何を開くための物かを示す紙切れが入っていた。どこかの倉庫の鍵だと示されている。
「勅使河原先生という方に託されました。絶対に宮水秋人という人物以外には渡してはいけないと言われました」
「良かったんですか? 確認も取らずに僕に渡してしまって」
「なんだか、あなたに安心感を感じてしまって… 初対面なのにおかしいですよね。ですからつい」
「春香の彼氏だからかもですね」
打ち解け始めた二人の間に明智が口を挟む。
「なんで勅使河原はあんたにこれを託したんだ?」
「分かりません。突然訪ねてきて、本当の春香の友人は私だけだからって…」
「相当彼女さんと仲良かったんだな」
「そうだと思います。でも、春香との最後の一年間、つまり去年はほとんど喋りもしなかったので私も驚きましたよ。最初は新手の詐欺かと思ったけれど、あまりにも勅使河原先生が真剣だったので」
春香と平沢の間には色々あったようだ。明智は何かしらの手がかりもあるかもしれないと思い、二人の関係を尋ねてみることにした。
「なあ、あんたと彼女さんがどのような友人関係だったのか教えてくれないか?」
「長い話になりますが、構いませんか?」
「もちろん」
「私と春香は高校一年生の同じクラスで出会ってすぐに仲良くなりました。見ての通り地味な私ですが、春香も大人しくておっとりした性格だったので、とても気が合ったのです。春香は美人なのでよく男子に告白されていましたが、それを鼻にかけないで、私とアニメの話で盛り上がってくれるような所が好きでした。どこか腹黒な所もあったんですけどね。
でも、高校三年生になってしばらくした後に彼女は変わりました。春香はとあるお金持ちの家に出入りするようになったのです。そのお金持ちはどこかの会社の会長で、美人な女性を家によんで愛でるのが趣味という噂が出回っている人です。当然私は反対しました。でも、アルバイトとは比べ物にならないほどのお金をくれるといって、聞き入れてくれませんでした。本当がどうか分かりませんが、会話をするだけで法外なお金をくれたそうです。彼女の名誉のためにいっておきますが、春香にはお金が必要だったのです。春香の家は貧困な母子家庭だったのですが、妹が難病にかかって高額な治療費が必要になってしまいましたから。
そんなある日、春香はパッタリと学校に来なくなってしまったのです。連絡をしても彼女からの返事はありません。教師に尋ねた所、病気になってしまって手術を受けることになったからだと言っていました。一ヶ月ほど経ったら、彼女は学校に戻ってきました。でも、なんだか以前の彼女とは違うんです。スカートを短くして、ハキハキと喋る春香は私に目もくれませんでした。その後は派手めのお友達が結構できていたようですが、私は怖くなってしまってそれ以来春香には近づかなくなりました」
平沢の話を聞いて、謎は深まったが同時に手がかりも得られた。
後ろで難しい顔をしている宮水に平沢が言った。
「宮水さん。もし春香に何かあったのなら、助けてあげてください。私は彼女から目を背けてしまったので、その資格があるのはあなただけです」
「任せてください。でも、春香はむしろ謝りたいんじゃないですか。ずっと一緒にいたから分かります。彼女が見つかったらまた仲良くしてやってください」
捜査はだいぶ進展したがもう日が暮れる。明日、つまり日曜日も引き続き捜査をすることにする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます