14話 発見
「よし! 気を取り直して、手がかり探すぞ!」
ライルはパッと笑い、歩き出す。
そう、ファストたちは彼らが冒険者だと知っていながら、完全に放置して帰って行った。
遺跡から追い出すことはおろか、口頭で探索を禁ずることもせずに去ったのだ。
執行団としては粛清しなければならない相手も、その行動もほったらかしにするあたり、2人とも本当に信仰心が無いのだろう。
未熟故に敗北し見逃されたのはひどく悔しいことだがこの状況は好都合だ。
利用できるものは利用する、それがライルの信条でありフゲンも賛同する方針だ。
「にしてもけっこう入り組んでるよなあ」
奥へ奥へと進みながら、ライルは呟く。
と、そこで思い出したかのように立ち止まり、相方の方に振り向いた。
「フゲン、お前を進行方向決定係に任命する」
「なんだ急に。どうした」
「俺は方向音痴なんだ。この調子で俺が先頭を行くとお前もろとも迷子になって、遺跡から出られなくなるかもしれない」
「あーそういう……。ま、いいぜ。オレに任せとけ」
どんと胸を叩き、バトンタッチをして前に出るフゲン。
壁から照明をひとつ拝借し、堂々たる足取りで進み始めた。
敵対者が去った今、彼らの行く先を邪魔する者はいない。
2人は悠々と遺跡内を巡る。
几帳面に敷かれた石畳。
時おり見える、壁の石に刻まれた模様。
等間隔に並ぶ柱たち。
ライルたちはそれらを眺めつつ、手がかりらしいものが無いか、また執行団に危害を加えられたであろう警備員たちがいないか、目を凝らして探す。
「お」
しばらくして、前を歩いていたフゲンが不意に声を上げた。
「ここ、中心部じゃね?」
彼がそう言いながら足を踏み入れたのは、遺跡にある中では最も大きいであろう、広間のような場所。
奥の方には祭壇のようなものが設置されており、なるほど確かに、神殿であったこの遺跡の主となる場所らしかった。
「期待大だな!」
「ああ!」
目を輝かせて頷き合い、彼らは意気揚々と広間の探索を開始する。
ライルは入ってすぐ右手の方へ、フゲンは正面の祭壇の方へと足を進めた。
するとフゲンが祭壇に着くなり「ライル、こっち来てみろ」と呼びかけた。
壁を観察していたライルは、さっそく発見があったのかと期待して彼の元に駆け寄る。
「ほら、これ」
指し示されたのは祭壇の背後の壁。
かすれた壁画と、その傍らに何やら文字らしきものが刻まれていた。
「これは……何だ?」
「うーん、何だろうな」
フゲンは首を捻る。
文字は彫ってあるから比較的しっかり残っているが、壁画の方はほとんど何が描かれているのかわからない。
かろうじてわかるのは、「何かを手に乗せた人物」と「翼を持った三つ編みの人物」だけ。
それらも風化しかすれてしまっており、明瞭には見えない状態だ。
「羽根があるってことは、こっちは人間じゃねえよな。ウリファルジか」
「いや、違うんじゃないか? ウリファルジは最近現れたんだから、壁画にはいないと思うぞ」
「あー確かに。じゃあ別の『使い』かもな。聖典に載ってる奴か?」
「可能性はある、が……判断に足るだけの特徴が描かれてないから、なんとも」
2人は揃って眉間に皺を寄せる。
せっかく手がかりになりそうなものを見つけたのに、読み解けないのでは世話ない。
「文字の方は……古代文字っぽいけど、それ以外のことはさっぱりだな」
絵から文字へと視線を移し、しかし同様に為す術が無く、溜め息をつくフゲン。
古代文字を読もうと思うなら、少なくとも地上国では高等の教育機関に通うか、はたまた師の下につくか、さもなくば高価な本を買って独学に励まなければならない。
初等教育しか受けていない者、ましてや学校を中退した彼には到底読めるはずもない代物なのだ。
「お前は読めねえのか?」
「無理だな」
頼みの綱であるライルに尋ねるも、即答される。
絵にしろ文字にしろ、この場での解読はどう転んでも不可能だということが確定してしまった。
「そうか……。じゃあとりあえず写しとくわ」
また読める奴を見つけて聞こうぜ、とフゲンは言い、鞄から手帳とペンを取り出して壁の文字を見よう見まねで書き始める。
ライルはその隣で、どこか焦点の定まらない目で壁を見つめていた。
「フゲン」
彼は視線を動かさぬまま、声だけで相方を呼ぶ。
「なんだ?」
フゲンもまた、作業を止めずに声だけで反応した。
「…………」
自分から呼んでおいて、ライルは少し返答を躊躇う。
「ライル?」
返事をしない彼に、フゲンは問いかけた。
目線は変わらず壁と手元を行き来している。
「俺、他に何かないか探してくる」
やはり壁を見ながら、ライルは言った。
常時と大差ない言い方、声色。
ただその表情だけは、いつもと違った。
「おー、よろしく」
しかしそれをフゲンが知ることは無い。
軽く手をひらひらと振り、彼はすぐにまた作業に戻った。
ライルは彼の隣から離れ、ひとり広間の探索を続ける。
間際に言いかけた台詞を口の中で、そっと転がしながら。
* * *
結局、広間には壁画と古代文字以外に目ぼしいものは無く、他の場所もほとんど見尽くしたが手がかりは皆無であった。
ここまでの苦労を考えると若干の物足りなさがあるが、冒険とはそう上手くはいかないものである。
はてさて新たな発見はあるのだろうか、2人は残る地下区域へと向かった。
フゲンの先導のもと入り口付近に帰って来た彼らは、最初に後回しにした階段を下りる。
段を踏み違えないよう一段一段、ゆっくり歩を進めていくと、そのたびに肌寒い空気が増していくようだった。
地下は一本道の通路になっており、ところどころ脇に小部屋があるのが確認できる。
2人は横並びになって、それぞれ右と左を見ながら道なりに歩いて行く。
と、突き当りに到達する寸前でライルが足を止め、声を上げた。
「あ! おいフゲン、いたぞ!」
「何がだ?」
つられてフゲンも立ち止まり、顔をそちらに向ける。
「警備員! ほら」
ライルが指さした小部屋の中。
そこには縄で縛られ転がされた、6名の警備員たちがいた。
全員、猿轡をされており、ライルたちを見て何か言いたげにもごもごと口を動かしている。
「ひとまず無事そうだ」
彼らに目立った外傷が無いことを確認して、ライルは嬉しそうにフゲンの方を振り返って言った。
「なあお前たち、これで全員か?」
彼がしゃがんで問いかけると、6人は揃って首を縦に振る。
「よかった。誰も殺されたりしてないんだな」
ホッと胸をなでおろすライル。
槍で縄を断ち斬ってやろうと彼らに近付く彼だったが、フゲンが「ちょっと待て」とそれを制止した。
「大人しくしてくれてるうちに、事情を話しといた方がいいだろ。万が一にも執行団だと思われちゃかなわねえ」
フゲンはライルにそう耳打ちをする。
誤解されたまま騒がれるのは本意ではない。
「む、確かにそうだな。じゃあするか、説明」
「おう」
短い秘密会議を終え、2人はおもむろに警備員たちの傍に座った。
これから話をするぞという、ライルとフゲンなりの「構え」である。
無論、それが警備員たちに伝わるわけもなく、彼らが大いに困惑したのは言うまでもない。
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