第23話 ヴィオラ・シャルル・フォン・アガートラム
昼下がりの午後十三時。
執務室のソファーにはガタイのいい老人と今の俺の外見年齢が一緒ぐらいの赤髪の少女が座っていた。
老人の名はモルドレッド・シャルル・フォン・アガートラム──この国の宰相である人物。
「この屋敷は気に入りましたかな?」
「ええ、素晴らしいわね。感謝しているわ。メイドの要望を全て叶えてくれて」
「はっはっ、英雄たる貴女を無下にはできますまい」
謁見の際は少し硬い印象を感じていたが、今は違うようで。公私とちゃんと分ける人なんだろう。
しかし隣にいる女の子が少し恥ずかしそうになのは何故だろう。
「それで・・・・・・私にしか出来ない話って何なのかしら?」
「はい、その前に──ほら、自己紹介をしなさい」
「ヴィオラ・シャルル・フォン・アガートラムです」
「あら、血縁者だったのね。・・・・・・似てないわ」
そう言うと声を上げてモルドレッドは高笑いした。そんなに面白かったのかよ。
笑いすぎだぞ、少し落ち着いてくれよ。
「いやーすみませんな。まさか陛下と同じ事を言われとは。はっはっはっ」
「それで本題は?もしかしてその子が関わっているのかしら?」
ヴィオラという少女を見ながら、モルドレッドに聞くと彼は頷いた。
うむ、見た目は可愛い・・・・・・いや可愛すぎる少女って感じだが。
サラリとした長髪に、カチューシャを身に着けて。やんわりとした可愛らしい目だ。
「この国は大昔から他国に侵略を許してきませんでした。それは圧倒的な力があったからですぞ。そしてその力こそ、魔剣や聖剣の所持者がいた事にあります」
「まぁ武力は守りにもなると言うし、間違ってはいないわね」
「そしてこの国は一本の聖剣を守って来ました。それが神炎聖剣レーヴァテイン──とある勇者が振るっていた剣です」
その話は聞いたことがある。
母であるカナンがよく童話を聞かせる時に、その勇者の話をしていた。
神の領域まで届かせる炎は対神兵器とも言われるぐらいの剣だ。
そして聖剣は人が好きである。好きであるが故に人間であれば誰でも扱えてしまうのだ。
でも本領発揮出来るのはほんのひと握りで、適性はちゃんと存在する。
対して魔剣は認めた人間にしか扱えないんだとか。
俺の持ってる氷蘭鉄心は最初から認めてくれていたという事になるのだろう。
だからこそ、女神ソフィはお勧めしてくれたのだと思う。
「そしてヴィオラがこの聖剣の適性値がずば抜けておってですな。陛下公認の元、聖剣所持者となったのはいいのですが・・・・・・」
言いたいことは分かる。
ヴィオラの手を見て、彼女は一度も剣を握って振った事がないのだろう。
筋肉だってそうだ。俺も見た目は細いが、質が全く違う。
そんな彼女を家族として心配しているのだろうな、モルドレッド宰相は。
「確かに一般人と変わらないわ。強くないし、鍛錬もした事ないんでしょう。で、彼女を強くして欲しいと?」
「話が早くて助かります!それでは──」
「勘違いしないで。先ずはこの子と二人っきりで話をしないと、押し付けてもダメでしょう」
ヴィオラの意思が一番大事である。
戦いたくないと言うのであれば、俺は面倒を見るつもりない。
というか自分が強くなるので精一杯なのに、タイミングは悪いよほんと。
「モルドレッド宰相はもう帰りなさい。この子は一日泊まってもらうわ」
「いやしかし、明日も学園があるので──」
「なら後でこの屋敷に制服やら教材やら送りなさい。ほら、シャキッとする!」
「は、はい!ではこれで」
少し強く言うと、慌てて扉を開けて出ていった。ここからは真剣な話──正直に言ってモルドレッドは邪魔だ。
ヴィオラも少し不安そうにこちらを見ている。
「聖剣を出しなさい。見てみたいわ」
「は、はい・・・・・・おいで、レーヴァテイン」
オドオドしながらヴィオラが言うと、真っ赤な等身に黄金の装飾が着いた剣が彼女の手に現れた。
うむ、見てるだけで体温が上がっていくのを感じるな。
熱気が伝わってきて、ちょっと暑くてイライラする。
「もういいわ。姿を消してもいいわよ」
「は、はい」
聖剣は彼女の手から消える。
「聖剣を所持してるって事に、何か感じる?責任感だったり、その反対で嫌だなって思う事はあるかしら?」
「えっと・・・・・・責任感は感じてます。・・・・・・嫌だとは、思ってない、です」
「その責任感、今はいらないわよ」
「で、でも・・・・・・私は聖剣所持者で──」
「私は嫌いだわ」
こんな小さな子に、大人達は皆寄って集って重い責任を押し付ける。
たかが適性が高いからって、戦争の抑止力にするのが気に入らない。
俺のように戦えるのならまだしも、剣も持ったことないのに。
「こんなにも可愛い女の子に責任を押し付ける大人が嫌いよ。確かに貴女は聖剣所持者なんだろうけど、嫌になったら聖剣持って逃げてもいいわ」
「さ、流石にそれは・・・・・・ダメです」
「そう、逃げないのね。──ヴィオラ・シャルル・フォン・アガートラム」
「は、はい!」
「強くなりたい?誰かを救えるぐらい、守れぐらいの力が欲しいかしら?」
そう聞くと、ヴィオラはめいっぱいに頷いた。
「ほ、欲しいです!・・・・・・民の為に、強くなりたい・・・・・・弱い自分を、変えたいです!」
「よしっ!それじゃあ決まりね。今日から住み込みで、色々と教えてあげるわ。今日中に服とか必要な物をこちらに持ってこさせないと」
「あ、あのぉ・・・・・・お爺様の許可は・・・・・・」
ヴィオラは許可がないと動けないらしい。
一つこの子に教えてあげようか。
──我儘っていう子供の特権を。
「子供っていうのは親を振り回して困らせる存在よ。それは爺でも婆でも変わらないわ。そこを活かしてあらゆる経験を重ねるの。宰相の事は気にしなくていいわ。私からちゃーんと説明しておくから」
「は、はい。・・・・・・えっと、ルゥ様・・・・・・明日は終業式で、お昼から冬休みです」
「あら、そうなの。なら明日はゆっくりしまょう」
一年の勉強を頑張ったけど、休みなくいきなりやらせてもダメだ。
色々と心の整理もあるだろしな。
「そういえば、歳はいくつ?」
「・・・・・・十二歳、です」
「私と同い年なのね。これから私の名前を呼ぶ時は呼び捨てか愛称にして」
「え、でも・・・・・・」
「私、友達がいないの。ヴィオラ、貴女と友達になりたい」
「ふぇ、あ、あの・・・・・・」
俺が友達になりたいと言うと、何故かヴィオラの瞳はうるうるとしていた。
え、何?なんで泣きそうになってるの?
俺ってば変な事言ったかな?ぶっちゃけ、思い当たらないんですけど。
「うぅ・・・・・・あぅ・・・・・・」
ヴィオラは静かに泣き出した。
あーー女の子泣かしたーー。
何か知らないけど罪悪感を感じてるんですが。
「ど、どうしたのよ?何か私、気に障ることでも言ったかしら」
「ううん・・・・・・友達、ヴィオラもいないから・・・・・・嬉しくて」
「あぁ、そういう事だったのね。私、中等部から編入予定だから、学園でも友達よ。仲良くしてね」
「・・・・・・う、うわぁぁぁぁぁん!」
「──え、えぇぇ?」
悪化してしまった。ヤバイどうしようか。
女の子が泣いて止める方法なんて、俺知らないんですけど。
クソっ、こんな時にGoo〇le先生でもいてくれたらいいのに!
あの全知全能何してやがんだよ!仕事サボんな!なんてスマホないから言えない。
えっとそろそろ泣き止んでくれませんか?
多分メイドが来てしま──
「ルゥ様!何事ですか?!」
あぁ、こっちのメイドが来てくれたか!
てっきりターニャとかいう戦闘狂の方が来るかと思ったが、これは救いである。
俺はアリアに事の経緯を伝えると「預かります!」と言って彼女を抱っこして持って行った。
これは予想だが、ヴィオラはかなり甘やかせられるだろうな。
俺も・・・・・・甘えたいでちゅ・・・・・・。
────────────
「という事で、外に出て買い物がしたいわ」
「成程ですね。しかし母上様は国民に顔を知られているので、大騒ぎになると思うのですが」
黒死蝶の拠点から帰ってきたナガレにヴィオラの一件を伝え、外に出て彼女に歓迎プレゼント的な物を渡したいという事を伝えた。
「そこよね・・・・・・どうしたらいいかしら?頭が良いナガレに相談したら、いい答えが返ってくると思ってたんだけど」
「うーむ。まぁ手は無くはないですけど」
「流石ね!早速教えてちょうだい」
そう言うと、少し言いづらそうにする彼は難しそうな表情を見せる。
言いづらい事なのだろうか。
「この国は多様性も取り入れており、他種族が暮らしています。獣人、エルフ、ドワーフ、人間──その中の種族に扮して、尚且つ深いフードの付いたローブでも着れば問題ないと思いますが」
「その中で真似しやすいのは獣人かエルフね。でも獣耳なんてないわよ」
アリアのような、ふわふわさらさらの獣耳なんて持ち合わせてない。
というか人間なんだから、生えてないのが当たり前だ。
「変装用の魔道具がありまして、それが中々にリアルなんですよ。ちゃんと自然に動きますし」
え、何それめっちゃ気になる!
よし!是非とも用意してもらおうじゃないか。
という事で、ナガレに用意して欲しいと伝えると彼は一度外に出たが、割と直ぐに戻ってきた。
彼の手には箱があり、きっとその中に入っているのだろう。
「こちらが獣耳と尻尾です」
「カチューシャ・・・・・・?と尻尾はどう付けるのかしら?」
「これは最新型で頭に着けると、自然に馴染むようです。違和感が全くないらしいですよ。尻尾はそのまま腰にポンっと貼り付けるだけで、取れないんだとか」
うん、物は試しようだな。
カチューシャに獣耳が付いた物を受け取り、頭に装着。すると、ゾワリと変な感触を受け、頭を触るとふわふわでサラサラなのが手に伝わる。
お?アリアの獣耳を触ってるのと同じ感じだ。
ナガレに鏡を用意してもらい、自分を見てみると・・・・・・おおおおおおっ!!!!
か、かわいいっ!?!?え、ええ、なんですかこの生き物?!?!
まさか、自分が自分を褒める日が来るとは。
うっそだろバカクソ可愛すぎて尊いぞ。
しかも本当に自然に見える。確かに、これなら獣人だと見た目では見えてしまうな。
「尻尾も付けましょうか?」
「そ、そうね!お願いするわ」
ちょっと恥ずかしいが、付けやすいように服をはだけさせてナガレに付けてもらう。
するとまたも獣耳を付けた時の感触を感じて、鏡で見てみると・・・・・・ふにゃんふにゃんしてる。
ちゃんと尻尾だけ独立して動いてんのパない。
「ど、どうかしら?似合ってる・・・・・・?」
「流石は母上様です。大変よく似合っておりますよ。寧ろ獣人に生まれた方が良かったかもですね」
クスクスっと笑うナガレは、そう冗談を言って見せた。
それぐらい素敵だと言う事だろう。
少し鏡の前で今の自分を楽しんでいると、アリアが入ってきた。
「ルゥ様。ヴィオラ様を宥めていたら寝てしまって・・・・・・彼女、相当嬉しかったん──」
「あっ・・・・・・えっと・・・・・・」
アリアは今の俺を見で硬直した。
目の前で自分が愛する存在が、いきなり獣耳と尻尾を生やして鏡の前でニヤけているのだから。
そしてナガレはまたクスッと静かに笑った。
ナガレは俺の耳元で「語尾に、にゃんっと付けて何か可愛い事を言えば動きますよ」と言われたので、早速試そう。
「わ、私の事、いっぱい愛して欲しい・・・・・・にゃ、にゃん!」
「はぁぁぁぁん///////」
「へぶっ!・・・・・・あっぷ!ア、アリア・・・・・・おっぱいが、おっぱいで潰れりゅ・・・・・・!」
動くとは言ったが、こんな風になるって分かってたよね!?絶対にワザとだよねナガレくぅん!!!
──ふにゅん、ぽよん、むにょん、ぷるん。
あぁダメです。おっぱいに意識を持っていかれる。
それ以上はやめてください!女の子になってもムラムラはするんですっ!
今無性に自分で性欲を治めたい気分に駆られてるから、やめて欲しいんですけど・・・・・・。
暫くアリアは離してくれなかった。
「なりゅほど!そういふことだったんでふね」
「ありゅあ。ほほをすりゅすりゅしながらいわぁないへ」
ナガレから事情を聞いたアリアはというと、俺の頬に自分の頬をピタッとくっつけてスリスリしている。
そんなに気に入ったのか、この獣耳が。
まぁ偶にのご褒美とか、不意に付けたりしてもいいかも。
俺自身も気に入ってるしな。
ほっぺたをもちもちされた時間を暫く過ごした後、ようやく開放された俺はやっと庶民地区に行く事が出来た。
─────────────
プラティオ王国、王都庶民地区
多くの人々が日々を謳歌するのに葛藤し、様々な物で溢れかえっている。
多種多様な商いも多く、商店街なんかもあり、王がアリーシャになってから賑わいを見せているようだ。
貴族も庶民地区で買い物等利用するが、それは極少数で殆どは庶民同士や旅人などが多いそう。
教会や冒険者ギルド本部なんかもあるらしいし、寄ってみたいな。
「色々教えてくれてありがとね。はい、お礼の飴ちゃんあげるわ」
「わぁ!しろねこのおねぇちゃん、ありがとぉ〜!またね〜!」
「気おつけて帰るのよ。ふふっ、子供って可愛いわね。・・・・・・私も子供か」
独り言を呟き、しゃがんでいた体勢を直して歩き出す。
なぜ小さい子供に庶民地区の事を聞いたのか?
それは純粋だからだ。
下手に大人に聞けば嫌な思いしかしないってイメージがある。
それに互いに信用してないし、相手の話の出方を見ながらって疲れるだろう。
だからこそ子供はコントロールがしやすくて、こちらもやり易い。
ローブに付いたフードを深く被り、肩がけバッグにゃんにゃん型空間収納──略してにゃんにゃんバッグを持って裏路地から出た。
このにゃんにゃんバッグだが、無くしていたかと思ったらちゃんとムラサメが回収してくれていたみたいで、しかも改良を施してくれた。
お陰である程度の大きさでも入れる事が出来る様になり、大いに助かった。
まだ時間的に昼下がりの十四時──その為、人通りは大勢の人がいる。
これだけ人がいれば紛れやすいと思いながら、俺は目的の場所へと歩みを進めた。
──────────────
暫く歩くと、魔道具店に着いた。
なぜこの店に来たのか、それはヴィオラという聖剣使いの少女が魔法も長けているからである。
これはアリアがヴィオラを慰めている時に引き出した話らしく、本人が言っていたんだとか。
学園でも魔法の授業がつまらないと言ってるらしく、常に魔法の成績は首席。
これはナガレに速攻で裏で調べてもらって分かった事だ。
つまりは剣よりも魔法の方が長けているという事になる。
してヴィオラは愛用の指揮棒を壊してしまったんだとかで、歓迎プレゼントにそれを買おうと考えたのだ。
魔法を使う上でより一層質の良い魔法を発言させるには媒介を使用すると良いらしい。
その媒介という物が魔法石という輝く石だ。
それを加工して、職人が手を加える事で初めて魔道具になる。
しかし魔道具とはいえ、これはあくまで魔法用の魔道具であり、私生活で使えるような物も存在する。例えば街灯とかだな。
ナガレ曰く、相当良い物を買わないとヴィオラにとってはダメらしい。
本人にあう魔道具でなければ、真価を発揮しないという事だろう。
ならヴィオラ本人を連れてくれば良いだけの話なのだが、それでは俺が満足しない。
俺が選んだ物をヴィオラに渡したいのだ。
店の扉を開けると、カランカランと来客を知らせる音が鳴る。
その後に可愛らしく元気な声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ〜♪」
お店の掃除をしていたのか、箒を持っていた。
俺の存在を確認するとニコッと笑顔を見せる。
鳶色の髪をポニーテールにして、ぱっちりと開いた翡翠色の瞳がまた可愛らしい。
そして・・・・・・俺と同じく小さい。
おっと、彼女を観察してる場合ではなかったな。
さっさと魔法用の魔道具である指揮棒を探さないと。
俺は歩き出して、魔法用という小さな看板を見つける。その通路を歩くと、指揮棒は普通に見つかった。
「えっーと、困ったわね」
こういう事ならナガレを連れてくれば良かったと後悔している。
だって余りにも種類がありすぎるから。
通路の一角全てが指揮棒で埋まっているのだ。
こんなにも種類があるなんて思わなかった。
そして、俺は考え続けた。
ヴィオラが得意とする魔法は闇獄魔法というちょっと変わった魔法だ。
世界には大まかに五種類の魔法が存在する。
火炎魔法、水流魔法、風翠魔法、光天魔法、闇獄魔法。
それぞれが火、水、風、光、闇の特性を持ち、人は生まれつき、どれか一つ持っている。
稀に魔法を持たぬ者が産まれるが、その人達は蔑まれるらしい。・・・・・・酷い話だ。
さて、ヴィオラが闇獄魔法が得意であれば、それにあった魔法石で加工された指揮棒──しかもかなり良質な物を選ばなければならないのだが。
「・・・・・・うーん」
「何かお悩みですか?」
「えぇ、ヴィオラに合う指揮棒を探しているの。どれがいいかしら──・・・・・・何時からそこにいたの?!」
全く気配が分からなかったんだけど?!
それだけ夢中になりすぎてたのかな。
「店に入ってから一時間経つけど、そこから動かないので、様子を見に来たんですよ。そしたらずっと唸ってるもんですから」
「ご、ごめんなさい。商いの邪魔だったわよね」
「そんな事ないですよ?余っ程大事な人なんですね!ヴィオラさんって人」
ニコッと笑顔を見せてくれる小さな店員さん。
俺と同い歳ぐらいだろうか?
またも指揮棒選びに戻ろうとすると「・・・・・・おい」と声を掛けられた。
随分と野太い声のイケボやなと思いながら振り向くと、ポニーテールの女の子の後ろにガチムチカッターシャツピッチピチイケおじが立っていた。──か、かっけぇぇぇ。
「え、っと指揮棒を、さ、探してるんだけど」
あ、なんでこんな所でコミュ障発動するねん!
流石にイケおじに拍子つかれたぜ。
「フードを取りな。話はそれからだ。なるべく、常連さんになりそうな客は顔を見て話してぇからよ」
「もう、パパ!そんなに怖い顔で言わないの!ごめんなさい。パパってば強面だから、別に怒ってないんだけど」
おっふ。この父でこの子が娘・・・・・・?
は、はえ〜〜。母親の顔見てみたいです。多分俺、惚れる自信あるわ。
ま、まぁそうですね。顔を見て話を普通はしますよね?
って事で俺はフードを脱ぐことにした。
ふさっと可愛らしい獣耳を表に出して、勝手にぴょこんっと上を向く。
ローブも脱いでにゃんにゃんバッグにしまった。
「こちらこそ、無礼でごめんなさい。これで話を聞いてもらえるかしら?指揮棒を探してるのだけど」
「──わ、わぁ!すっごく可愛いよ!パパ、お姫様みたいな子っているんだね!」
「こりゃたまげたな。まぁ有名人だからこそか、その耳と尻尾は。ローブを着てりゃバレねぇが、脱いだらバレるな。今度から俺の店以外じゃ脱ぐなよ?」
ポニーテールの女の子はぴょんぴょん跳ねながら俺を見てる。
俺も君に言いたいよ。君こそお姫様っぽくて可愛らしいってね。
「指揮棒を探してんのか・・・・・・内容を言いな。まぁそれによっちゃぁ高く付くが、英雄って事で少し安くしてやるよ。その代わり他の魔道具屋には近寄るな。ここ以外の店は全部値段相応じゃねぇからな。騙して商売してやがる。俺はそういうの嫌いなんでね」
真っ当に商売をしてるからこそ、あまり人が入っていないのかな?
ちょっと人通りを外れた場所にあるし、それも原因としてあるかもな。
でもこの店はナガレから紹介してもらった店で、ナガレ本人も通っているらしい。
なら十分に信用は出来る
「闇獄魔法の使い手にプレゼントとして渡したいのだけど、まだ小さいながらも優秀なのよね、その子。だから成長するのも頭に入れて、かなり良い物を買いたいのだけど」
「少し待ちな。そういうのはここには置いてねぇ、裏に行って持ってくる。ウェンディ、他に客が居ねぇから話し相手になってやりな」
「うん、パパ!」
イケおじはカウンターの裏へと向かっていった。
すると同時にウェンディと呼ばれてた少女が此方へ近づいてくる。
なんかキラキラした目をしてるんですけど。
そんなに俺ってば一般から見て凄い?
「私、ウェンディ。十二歳で、来年から学園の中等部に通うの!」
ん?同い歳は分かるけど、学園に通うの?
確か俺が通う予定の学園は、殆どが貴族の子供らしい。
稀に一般人が入る事があるが、それは余っ程に実力を持った存在がスカウトされて初めて学園に足を運べるようになる。
つまり・・・・・・ウェンディは後者って事になるのか。
「私はルゥ。同じく十二歳よ。私も来年の春から中等部よ。よろしくね」
「え、ルゥって星焔の魔女様!?ほ、ほんと?嘘じゃないよね?!でも、なんで獣耳??」
「偽装用に身着けているのよ。まぁ貴女のパパにはバレてしまったけど」
「あ〜!有名人だからだね!大変だね〜」
「それじゃあ、バレてくださいって言ってる様なもんだ。ほれ、こっちに来な。箱開けて見せてやるよ」
お互いに自己紹介をしていると、ウェンディの父親が早々と戻ってきた。
小さなテーブルへと招かれたので、そちらに行くと長細い箱がある。
それをゆっくりと開け、中身を見ると綺麗に加工された指揮棒が入っていた。
見た瞬間、値段ヤバそうと考えたのだが・・・・・・。
「こりゃあ、かなりの良質な魔法石で作ってあってだな。それに製作方法が普通とは異なるから、余計に値が張るぜ?」
「作り方が違うの?」
「あぁ、基本的に魔法石を嵌め込んだ物が多い。例えばこれだな」
適当に棚から取った別の箱から取り出した指揮棒を見てみると、確かに魔法石が嵌められているのが分かる。
対してウェンディの父親が見せてくれた物は嵌められていない。
「製作方法は二種類──嵌め込むか、溶かすか。溶かして指揮棒全体に馴染ませることによって、魔法使いにとって扱いやすい物になるらしい。しかしこの方法だとあまり作り手がいなくてなぁ。この国じゃ、俺含めて三人ぐらいか?」
「一応聞くけど、これがこの店にある最高の物って考えでいい?・・・・・・えっーと」
「レクスだ。レクス・ベルベット──その指揮棒はこの店にある中で最高品質だぜ?買うならプラティオ金貨百枚だ」
うわっ、滅茶苦茶高いじゃん。
プラティオ金貨一枚で二ヶ月は暮らせるにいいと言うのに、それを百枚ですか・・・・・・。
ちょっと安くなりません?
「もう少し安くしてもらえる?そしたら魔道具ではこの店しか利用しないし、なんだったら私の声で広める事だって出来るわ。この店は良い物を置いてるわって」
「へぇ〜・・・・・・ガキの癖に頭働くな。流石は魔女様って訳だ。ふぅむ、別に俺の店の名前を広めなくてもいい。だが、この店だけ利用してくれよ。その分、安くしてやるから」
よし、話は決まったな。
屋敷に帰ったら、魔道具はこの店で買う様にみんなに言っておこう。
「プラティオ金貨八十枚。これが限界だな。これ以上下げるってんなら、俺と喧嘩になるからやめときな」
「それで決めるわ。寧ろ二十枚も減らしてくれて感謝よ」
俺はにゃんにゃんバッグから財布を取り出す。
元々、今回の買い物はかなり値段が高い買い物だろうと考えで一応は、金貨百枚持ってきていた。
レクスと俺は二人並んで支払いをするのにカウンターへと向かう。
ウェンディは他に客が来たら対応するのに、待機していた。
「数えてくれるかしら?間違ってたら大変よ」
「言われなくてもやるさ」
レクスは黙って金貨を数えていき、終わったのか軽くため息を吐いて指揮棒か入った箱を紙で包んでくれる。
それもちょっとオシャレでプレゼントで喜ばれそうな良質な紙だ。
カウンターのしたから紙袋を取り出し、商品を入れて俺の元へと渡された。
「ほれ、プレゼントなんだろう?サービスだ」
「感謝するわ。本当にありがとう」
「気にするなよ。母はよく頑張ってると思うぜ。俺ならここまでしねぇからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
──今こいつ俺の事・・・・・・母って呼んだか?
そしてレクスはナガレとも顔馴染みだ。
つまりは黒死蝶のメンバー・・・・・・?って事でいいのか。
いいやちゃんと確かめる必要がある。
「・・・・・・序列を言いなさい」
俺は少し低い声で、そう言った。
その様子を肩を竦めながら見つめるレクス。
しまったか?と言わんばかりの表情だ。
「No.4だ。実力はナガレと同じだが、俺はアイツほど頭が良い訳じゃねぇからな。それに俺は昨日帰って来たばっかりでね。本当は動くなとナガレに言われてるんだが、母が来るとなっちゃあ、話が変わってくる」
「帰ってきた・・・・・・?一体何処から」
「世界樹があるアウトサージュ大陸だ。ちょいと元凶の顔でも見ようかと思って行って見りゃあ、信じられない光景を見てしまったんだ。これに関しては明日にしようぜ。今日の夜から屋敷に住むわけだしな」
あっ、そうやんけ。
ナガレは確か黒死蝶の全員が俺の屋敷に寝泊まりすると言っていた。つまりは彼もだろう。
「ウェンディも一緒なのかしら?子供なんでしょう」
「あぁ、アイツはここに置いていく。あとな、あれは俺の子供じゃねぇよ。誰の子でもなく、つか人間じゃねぇな」
はい?何を言ってるんだよこのイケおじ。
人間じゃないってんなら、一体何なんだ?
「でもさっきは自分の年齢とか教えてくれたわ」
「それはウェンディの嘘だ。この国に紛れるのに嘘つくよう、俺が設定してある」
レクスは”設定"という単語を強く表現しながら言った。
まるで機械みたいな事を言うなと思う。
レクスは窓際で立ったままのウェンディを見つめた。
「あいつは戦術人形──俺が作った魔道具だ。戦闘で俺はウェンディを駆使して戦う。言っておくが、ウェンディはあれでも世界樹の契約者を普通に殺すからな?」
「・・・・・・戦術、人形?」
「作り方はかなり特殊で、世界じゃ俺一人しか作れねぇからな。なんだったら母にも一体作ってやろうか?」
「今は遠慮しとくわ。でも役に立ちそうね」
店内にある時計を見ると、十六時半を針が刺してた。
そろそろ帰らないとアリアあたりが心配するかもしれない。
まだこのお店は開いてるのだろうか?
「帰ろうと思うけど、まだ閉めないの?」
「十七時に閉めるようにしてんだよ。そういや母が住んでる場所知らねぇな」
「なら待っているわ。本当にその子は一人でいいの?寂しくないのかしら?」
「所詮は人形──こんな事は言いたくねぇが、どれだけ人間に近づけても感情はねぇよ。ただ、感情を持ってる振りをしてるだけだ」
なんか本当に寂しいことを言うなぁ。
まぁレクスが大丈夫だと言うのなら、そこまで深追いはしなくてもいいんだろう。
でも俺はウェンディが寂しくならないように、店が閉まるまで彼女とずっと話した。
──────────────
「へぇ!中々に良い屋敷だな。正しく母に相応しいマイホームだ。ここに俺も住めるなんて、幸せか?俺」
煙草を吹かしながら、屋敷を見上げるレクス。
あんた・・・・・・煙草吸うんかいってツッコミはやめておいた。
普通は煙が臭いのか、体に悪いとか言われるんだろう。
でもそんなの吹っ飛ばして、レクスの煙草を吸う姿はかっこいい。
この世界では知らないが、生前の世界なら憧れる人も少なからず、いただろうな。
「さ、中に入りましょう。暗くなって寒くなってきたし──」
「お母さん?それに・・・・・・レクス?」
知った声に振り向くと、メイド服ではなくちゃんと騎士服を着たシュラがそこにはいた。
おおっ、中々似合ってるし美しいな。
「おう、久しぶりだな」
「ええ、本当に久しぶりです。アウトサージュへの旅は楽しかったですか?」
「あぁ楽しかった。契約者共を殺し歩いて、世界樹を見に行ったが旅の結末は最悪だったな。明日話してやるよ」
レクスがそう言うと、シュラはニッコリと笑顔を見せる。
黒死蝶のメンバーが仲良くしてる所を見て、お母さんほっこりしてます。
「さぁ、お母さん。早く屋敷に入りましょう。季節は冬ですから、夕刻の時間を過ぎれば尚のこと気温が下がります。あえて風邪を引いて私に看病されたいのであれば、それは協力しますよ?」
「バカ言うな。母は風邪なんかに負けねぇよ」
「いや普通に病気になったりはするから、早く入るわよ」
仲の良い二人と共に屋敷へと向かって行った。
さて、ヴィオラは今何をしてるのかな?
プレゼント・・・・・・喜んでくれるといいな。
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