第19話黒猫のアリア


アッシュと母であるカナンの墓を訪れ、別れをした後はムラサメ達を呼び屋敷へと戻った。

いきなり馬とスライムがいるもんだから、三人ともびっくりしていたが、色々と説明して納得してもらった。

カインを納得させるのに、少々疲れたのは心の中に閉まっておこう。


「ただいまぁ」

「戻ったのじゃ〜!」

「キュイ?キュキュ?」

「む?屋敷の中が気になるのか?」


現在、スゥーはムラサメが腕の中で抱きしめている。

スゥーはムラサメの事も気に入ったのか、見た瞬間に飛びついていた。

フィーは屋敷に入る前に、外にある馬小屋へと連れていった。

ここが自分の部屋というのを認識しているのか、慣れた動きで自ら入っていき、嬉しそうに鳴いていた。


「お帰りなさいませ、ルゥ様。・・・・・・すみませんが、ナユタ様を知りませんか?屋敷にお帰りになってなくて」


俺たちの帰りをメイドであるアリアが出迎えてくれた。

整えられたメイド服に完璧なお辞儀を見ると、流石は元王族の専属メイドだなと思ってしまう。

ナユタに関してはカインの屋敷で泊まりたいと、帰り道で我儘を言っていた。

カインは苦笑いしながらその我儘を肯定していたし。

まぁそんだけ仲が良いって事なんだろうな。

こういうのは口刺しせず、黙って見届けとくのが大事。

ナユタの人生は彼女の物だ。今まで操られていた分、開放されたのだから自由に生きればいいと思う。


「ナユタならカインの屋敷に泊まると言っておったぞ。本当に仲が良いのじゃな。アリアが来てくれた事じゃし、妾はスゥーと共に屋敷を散歩してくるのじゃ」

「行ってらっしゃいませ、ムラサメ様」

「あーそうじゃ、ルゥよ。ここはお主の家じゃと思って過ごして良いからのぉ。遠慮する事はない」

「ありがとう、ムラサメ。遠慮なく使わせて貰うね」


俺が感謝の言葉を伝えると、「うむっ!」と頷いてムラサメは歩いて行った。

今の時間は昼過ぎ。少しお腹が空いたな。

でも先ずは自室に帰ってゆっくりしたいかな。


「ルゥ様、お部屋に戻りましょうか。部屋着へとお着替えをして、ゆっくりと致しましょう」

「そうだね。車椅子をお願いしてくれる?」

「勿論ですよ。愛しのルゥ様の為なら何でも致しますから」


アリアは俺の後ろへ来て、ゆっくりと車椅子を動かす。

自分に用意された部屋に行くまでに、多くのメイドに頭を下げられた。

ふと不思議に思ってしまう事が一つだけある。

この屋敷、メイドしかいないのか?

男──執事を全く見かけない。屋敷の仕事の中にも力仕事がある筈だ。

そんな仕事もメイド達がやっているのだろうか?


「ねぇアリア。・・・・・・この屋敷って執事はいないの?全然すれ違わないけど」

「いませんね。この屋敷の主であるムラサメ様は、男性が近くにいると休めないそうで。自宅と言えば憩いの場の一つです。何も気にせず、

遠慮せず、ゆっくりと休みたいのに男性がいると嫌なのでしょうね。普段のお仕事では男性とは関わってますので、男嫌いという訳ではないですよ」


なるほど・・・・・・ムラサメの考えだったのね。

悪く言えば我儘か。

まぁ話を聞けば、特に否定出来る所なんてない。

家に執事だろうと男を入れたくないのかも。

それだけ気を張っちゃう人なんだろうなぁ、ムラサメは。

そんなこんなで部屋に着き、中へ入って着替えを終える。

アリアの場合は変な風に考えないから助かる。

ムラサメの専属メイドであるシェリルに着替えなんかさせられない。

恍惚とした顔で、猛獣が獲物を見るような目でハァハァと息を荒くしながらかなりの時間を割いて行われるだろう。

今着ている服は部屋着なんだろうけど、上質な素材で作られているのが分かる。

真っ白なワンピースに、フリルがついている可愛らしい服だ。


「明日はアリーシャ陛下に謁見をしなければいけませんけど、まだ歩けはしませんよね。もし歩ける様なら素晴らしいお姿を貴族の方達にお見せできるのですが」

「私も歩きたいんだけど、多分盛大に顔面から転けそうで嫌かな。それだったらアリアに車椅子押してもらった方がいい」

「分かりました。それではお茶を飲みながら、これからについてお話しましょう。やりたい事とか望みとか沢山あると思います。頑張ったルゥ様の願い、出来るだけ叶えてあげたいですから」


ニコッと笑顔を見せた後、お茶を取りに一度部屋から出てすぐに戻ってきた。

これからについて・・・・・・まぁ確かにやりたい事はあるけど。

まずは学校なんかに行ってみたい。後は世界を見てみたいってのもある。

丸型のテーブルに完璧な動きでお茶や菓子を並べ、ティーカップに紅茶を注ぐアリア。

その動きを目で追っていると、アリアと目が合い彼女は柔らかな表情で笑った。


「そんなに見つめてどうされたのですか?」

「ご、こめん・・・・・・目で追っちゃって」

「謝る事はありません。寧ろもっと見て欲しいですっ。我儘を言わせてもらうと、惚れて欲しいですね!」


うん、このノリはなんか身に覚えがある。

女神ソフィとよく似ているな。

お世話する時のテンションとかそっくりだ。

それにしても惚れて欲しいねぇ。

この世界の女性って同性愛者が多いのかな?

ムラサメも男性が好きって感じしないし、アリアに至っては完全に俺に好意向けてきてるし。

アリーシャも普通にあの年齢でエッチな事を少女の体である俺とするぐらいだしなぁ。


「何を考えているですか?」


俺の傍に立って顔を見るアリアは不思議そうな表情を浮かべていた。

流石にこの世界の女性って同性愛者が多いの?とかは聞きづらいな。


「ううん、なんでもないよ。ねぇアリア、王都に教育施設──学校とかってある?」


学校に行ってみたい俺はアリアにそう尋ねた。

すると少し驚いたのか、目を開いて少し固まってしまう。

え、なんか変な事でも言ったのか?


「ガッコウ?今、学校と言いましたか!?」

「うん、学校って言ったよ?もしかして教育する機関とかないの?」

「い、いえ・・・・・・勿論ありますよ。ですが、世界から見てそういう施設は学園、学院と言うのです。・・・・・・学校なんて言葉はこの世界に存在しませんから」


うむ、そうなのか・・・・・・学園とか学院って言うのか。でもなんでアリアは学校って言葉に驚いたのだろうか。

初めて聞いた言葉に戸惑ったのかも知れないな。


「あ、あの・・・・・・ルゥ様は学校という言葉を何処で覚えましたか?」


ん?なんだその質問は。

なんか探るような質問に俺はピリッとした何かを感じた。

もしかして、この世界の人じゃないってバレたか?いやバレても別にいいんだけども。

でも学校って言葉だけでバレるもんなのか?


「・・・・・・気になる?」

「はい!だって初代勇者様であるアーサー様も学校に行きたいって仰ったんですよ!アーサー様は異世界から来たと文献に記されてますし、きっとルゥ様もそうなのかなって思ったんです。初代勇者であるアーサー様は、それはもう素晴らしいご活躍をなさった方なんです!美しく華やかな女性で、そんな方が剣を振る姿はまるで戦乙女っ!小さい頃に助けてもらって以来、ずっと彼女のファンなんです。あっ、勿論生涯尽くす相手はルゥ様ですよ?」


たった一人の女性の事で、よくここまでベラベラと喋れるな。

オタク界隈で言うと初代勇者アーサーはアリアとって『推し』なのであろう。

ファンだって言ってたし、小さい頃に助けてもらったのならまだ生きてる筈。

会ってみたいかもね。

それに異世界から来たと言われてる人だし、仲良く出来そうだ。


「はっ!す、すみません・・・・・・つい熱が入ってしまい」

「ふふっ、全然いいよ。好きな物や人について聞くのも大事だし、聞いてて楽しいから」


そう言うとアリアはホッと息を吐いた。

生涯、そばに居てくれるのなら俺の身の上を話しといても良いだろう。

でもやっぱり緊張するな。外見は少女で中身は男ですって言いづらい。

でも隠し通すなんて俺には無理だ。


「ちょっと複雑なんだけど、この身体はこの世界の者なの。でも性格?というか中身は違ってね。外見は女の子だけど、中身は異世界の・・・・・・男性なの」


少し声が震えてたのは自分でもハッキリと分かる。それにこんな事を言えば、専属メイド辞めますなんて言われても仕方ないかなって思うし。


「つまり・・・・・・ルゥ様は、男性?」

「思考や趣味、行動なんかは元々の男であった自分そのものだし。ただこの世界に来たら女の子だったから、声や外見が可愛いってだけなの」

「成程です。でもルゥ様はルゥ様ですよ。私を助けてくれた素敵な方で、まだ若いのに腕を失いながらも全力で守ろうとする──そんな方が自らの秘密を明かしてくれたんです。私としては嬉しい・・・・・・信頼されてるからこそ、告げてくれたのかなって、勝手に思っちゃうんです」


優しく俺の右手をキュッと握り、それがだんだんと恋人繋ぎに変わっていく。


「ルゥ様・・・・・・私は貴女が好きです。だからこそ、正直であって欲しい。我儘を沢山言ってください。色んな表情を見せて欲しいです。私は──アリアはルゥ様に一生寄り添います。愛してますからねっ!」


俺は自然と彼女を、アリアを抱きしめていた。

少し心の中に不安感があったんだ。

中身は男だと告げれば気持ち悪いと思われる事に。でもアリアは肯定してくれた。

我儘を言って欲しい、色んな表情を見せて欲しいと言われれば、恥ずかしくてなんとも言えない気持ちが込み上げてくる。

やっぱり甘やかされるのに俺って弱すぎるんだ。ソフィもアリアも、二人ともよく似ている。

このままアリアと過ごしていると、彼女に溺れそうで怖いな。

それにソフィという素敵な女性がいるんだ。

まぁソフィが一夫多妻を気にしないと言うのなら・・・・・・多分アリアの事、めちゃくちゃにしちゃいそうだな。


「ルゥ様は学園に行きたいのですね。それでしたら明日の謁見の後にでも手続きをしましょうか?」


恋人繋ぎの状態で、さらりと言葉を発する彼女との距離は物凄く近い。


「う、うん。そんなに急いでないからゆっくりでもいいよ。後ね・・・・・・ちょっと離れてくれる?・・・・・・ドキドキしちゃう」

「抱きしめてきたのはルゥ様ですよ?本当に離れたいですか?顔を見るからに喜んでられる様に見えます」


正直に言おう・・・・・・喜んでるよっ!!

前に生きていた世界じゃ彼女いない歴イコール年齢やぞ俺はっ!

そんな女性に対して耐性がないにも等しい俺に、簡単にここまで寄ってこられると困るの!

神様に童貞は奪われたけど、こんなに美人でスタイル良い女性に寄られたら嬉しいでしょ!

だがここは否定スタイルでいこうか。


「よ、喜でないよ?」

「そうですよね・・・・・・魅力とか私には皆無ですもんね」


項垂れるアリア。

ふぁー!?なんでそうなるのっ!!


「アリアは魅力的だよ!綺麗でスタイル良くて、私のお世話をしてくれるし。そのメイド姿とかすっごく可愛い!」

「・・・・・・もっと」

「匂いとか好きだし、ぎゅっとされてると安心する!」

「・・・・・・もう少し、ください」

「大好きです。私の傍にいてください」


いやもうこれ告白じゃん。

しばらく返事が返ってこなかった。

沈黙が心寂しく広がる。

そして十分ぐらい経過した後、漸くアリアが口を開いた。


「ルゥ様、愛してます♪」


満面の笑みを見せ、頬には少しの涙が流れた後があった。

それぐらい嬉しかったのだろうか。

ごめんソフィ・・・・・・俺に愛人が出来そうです。


それから色々と話をしていると、あっという間に時間は過ぎていった。

夜が訪れ、深淵の中心で光る月が綺麗に輝いている。


「ルゥ様、お食事をお持ちしました。ですが、本当に私もご一緒してもよろしいのですか?普通メイドや執事などの従者は、主人の後に食べ──」

「いいから座って、アリア。家族なんだから食事の時ぐらい気にしないでよ」

「家族・・・・・・いい響きです」


何故かアリアは頬を赤く染めていた。

そんな光景を見て、横からため息混じりの声が聞こえてくる。


「妾はどうなんじゃ?妾だけ仲間外れは嫌じゃ。・・・・・・妾とて愛して欲しいっ!」

「はいはい、あいしてるよー。だいすきだよー。ずっといっしょにいようねー」

「な、何じゃその子供をあしらうような物言いはっ!?」


ムラサメは食事を取ろうとした時に、急にノックも無しで部屋へと入ってきた。

一緒にご飯を食べようと言ってきたので、まぁ良いかと思い、今に至る。

少し大きめのテーブルをムラサメに持ってきてもらい、アリアはそこに食事を並べていく。

並べ終わって皆が席に着いたところで──


「キューイ♪」

「いただきます」

「いただきますっ」

「いただきますなのじゃ!」


三人とスライム一匹で囲む食事。

生きていた頃、それもちゃんと家族が生きていた頃を思い出した。

温かいご飯を用意してくれ母や、苦手な食べ物を俺の皿へと苦笑いしながら移してくる妹。

それを叱る父や、そんな光景を見て優しそうに笑うお婆ちゃん。何も言わず酒をちびちびと呑む爺ちゃん。

思い出す度に涙が零れる。

もう会えないんだと再度、考えてしまう度に胸が締め付けられる。


「ルゥ、お主は・・・・・・」

「ムラサメ様、何も言わないで下さい」

「・・・・・・キュー」


スゥーが俺の膝の上に来て、大丈夫?と心配する様に鳴いた。

ある意味のホームシックと言うやつだろう。

亡き家族との決別を心の中でちゃんと出来てないが為である。


「ルゥ様の過去を──いえ、男性だった頃の話を聞かせて貰えませんか?」

「む?男性だったじゃと?それは一体・・・・・・どういう事じゃ」


ムラサメには元は男だと伝えていない。

だからこそ話すべきだろう。

ムラサメだって新しい家族なのだから。

ご飯を食べる前、アリアは俺の事を家族だと言ってくれた。

丁度そのタイミングでムラサメが入って来て『妾も家族になるっ!』って言い始めたのがキッカケである。


「・・・・・・えっとね。私は日本っていう国に住んでたの。それでね──」


涙を堪え、過去を全て話した。

幸せな家庭に生まれ、愛されて育った事。

一人の殺人鬼に為す術なく、愛してくれた家族を一瞬で失った事。

不良に絡まれて最終的に刃物で刺されて死んだ事。他にも色んな俺を教えた。

喧嘩を売られたら必ず買ってたとか、癖のある食べ物が嫌いだとか、そんなくだらない話である。

でもそんな話を二人は真剣に聞いてくれていた。ムラサメなんかちょっと瞳が潤んでいる。


「人生、上手くいかないもんじゃ・・・・・・まぁ出会いや別れがあって、その中に思い出がある。振り返れば、ああしてればと後悔なんて幾つもあるものじゃ。妾も失うものが沢山あった。救いたくても間に合わない事があった。でも今は幸せに過ごせておる。それに楽しみが一つふえたしのぉ!」

「楽しみですか・・・・・・それは一体?」


アリアがお茶をコップに注ぎながら、問いた。

ムラサメは腕を組んで一つ頷く。


「ルゥの成長じゃな。妾が下手うった相手を倒したんじゃ。興味も湧くのは当たり前じゃ」


確かに世界樹の一部との戦闘で、勝利は掴んだ。でも代償が余りにもでかい。

アッシュは帰らぬ人になったし、ムラサメ自身も左眼を失った。

俺も『壊帰眼』を発動したせいで寿命は縮むし、かなり長い時間眠っていたしな。


「そうじゃ、ルゥに渡さねばならぬ物があった。んーとのぉ、これじゃ」

「・・・・・・指輪──あぁ!ありがとうムラサメっ!これ大事な物なの。腕をなくした時に一緒になくしなのかと思ってた」


ムラサメが渡してくれたのは、ソフィとの婚約指輪であった。

いやー本当に帰ってきて嬉しい。

でも左手はおろか左腕がないから、身に付けれない。


「これをこうして・・・・・・ルゥ、ちょっと失礼するのぉ。うむ、似合っておるのじゃ!」

「素敵ですよ、ルゥ様っ」

「キュイキュイ!」

「ムラサメ、ありがとう。スゥーもアリアも褒めてくれて嬉しい」


ムラサメは指輪を紐で吊るし、切れ端を結んでネックレスのようにしてくれた。

それを俺の首に掛けてくれたから、これで指に嵌めなくても大丈夫だ。


「しかしルゥも既に心に決めておる相手がおるとはのぉ。『あなたに身に宿す全ての愛を──ソフィ』と指輪の内側に彫られておった。ソフィとはどんな人なのじゃ?」


そういえば、さっき俺の事を教えた時に神様に出会ったなんて言ってなかった。

恥ずかしいし、アリアが此方を凄い目で見てくるんだけど。

え、そんなに気になるのか?

あぁ、そうか。愛していますって言った相手に先人がいたとなると一番目ではなくなるからだな。

女って・・・・・・怖いね。

仕方ない、説明するかぁ。


「えっとね・・・・・・ソフィって言うのは、私の──」


長い説明をして、アリアは納得がいく顔をしていた。


暫くして食事が終わり、ムラサメはスゥーを連れておやすみと言い残し、部屋を後にした。

スゥーはムラサメとまだ遊びたいらしい。

アリアは食器を片付けた後、また部屋に来て今夜から毎日俺と寝るらしい(強制)。

アリアなら別に良いかと思っている自分がいる。この場にソフィがいたら、少し怒られた上で仲良く一緒に寝ようとか言われそうだ。

そんな事を考えているとノックの後にアリアが部屋へと入って来た。

メイド服姿ではなく──アリアに貸してあげた服を着ていた。そう、怠惰一番とプリントされた服である。

やはり胸が大きい為か、怠惰が強調されて・・・・・・面白い(笑)。


「ルゥ様、失礼しますね。あっ、この服は、その・・・・・・気に入っちゃいまして」


ベッドに横になっている俺の隣に来て、布団へと入って来た。

なんかこう、添い寝する相手がベッドに入ってくる瞬間って緊張する。

まぁ寝てしまえば緊張なんて、何ですか?って感じなんだけども。


「そう、気に入って貰えてよかった。遠慮なく、何かして欲しかったら言って。アリアには今後お世話になるし、何かと溜めちゃうかもしれないしね」

「身に余るお言葉です。それでは・・・・・・なでなでしてください」


アリアも少し恥ずかしそうにしている。

でもそんな姿が可愛いというか、アリアもこんな風に甘えるんだなぁって思ってしまう。

俺はアリアの要望に応え、なでなでしてあげた。すると気持ちいいのか、目を細めて嬉しそうだ。

ん?なんか、もふもふするな・・・・・・なんだこれは?


「ふっ、んんっ・・・・・・あっ、んふぅん、やぁん、ルゥさ、まぁ!だ、だめぇぇ」

「ど、どうしたの?急に喘ぐなんて?!」


よく見ると小さな突起物が二つある。

え、これってムラサメみたいな獣耳的なやつか?

って事は・・・・・・アリアって獣人?

今までそんな風に見えなかったけど、もしかして隠してたとか・・・・・・。


「す、すみません。やっぱり猫耳は恥ずかしいです。で、でも、触って欲しい」

「アリア。もしかして獣人なの?ムラサメと同じような」

「はい、そうなんです。・・・・・・猫獣人なんです。今まで隠していてごめんなさい。ですが、猫獣人の中でも黒猫族はよく馬鹿にされるんです。先祖様が何かやらかしたみたいで」


黒猫族──確か母カナンから聞いた話だと、先祖が貴族に加担して白猫族の数人を奴隷にしたとかなんとか。

でも実際はデマで、黒猫族に罪を着せて奴隷にしようとした人間側が悪いらしい。

成程ね、つまりはアリアは全く悪くない。

よし、猫なら猫らしく甘やかしてあげようではないですか!


「アリアはこれまで虐められてきたでしょ?」

「は、はい。石を投げられたり、同じメイドに悪い評価を当時の主に言われたり、私の部屋なんかなかった時もありました」

「そう・・・・・・大変だったね。おいで、私が包んであげるから」


アリアは何も言わず、俺の体を抱きしめた。

あぁ、やっぱり可愛い。

なんか猫獣人って分かってから、可愛さが倍増した。

普段はキリッとして仕事を真面目にこなすアリアが、こんなに弱々しくて甘えん坊なんて。

それに尻尾も隠してたんだろう。

今は俺の細い脚に絡まれてるのが分かる。

離れたくないって事なのか、アリア?


「ルゥ、さま・・・・・・すぅー、すぅー・・・・・・」

「おやすみなさい、アリア。末永くよろしくね。──私の愛する猫さん」


カーテンの間から溢れる月明かりが、まるで俺とアリアを包むかの様だった。

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