第17話 英雄の目覚め


「ルゥ・・・・・・ちゃん・・・・・・?」


昼下がりの太陽の元、花壇に植えられた花が沢山ある場所。

何処かの屋敷の庭園で、俺は目を開いた。

ここは一体何処なんだ?

見渡せば綺麗に手入れされている花達が、おはようと言ってくれているみたいだ。

そして、目の前には見覚えのある少女。その少女は俺の顔を見て、今にも泣きそうになっている。


「ナユ、タ・・・・・・」

「ルゥちゃんっ!」


車椅子に乗っている俺をぎゅっと抱きしめ、その力は徐々に強くなる。

一体、どれぐらい眠っていたのだろうか。

それよりもナユタが無事で良かったと、俺は心の底から安堵した。

抱きしめられ、俺も抱き返そうと両腕をあげようとしたが、片腕しか感覚がない。

あぁ・・・・・・そういや腕ないんだった。

ため息を吐きたくなるが、ここは我慢しよう。


「ナユタ、元気そう・・・・・・良かった」


長時間眠っていたせいか、喉から素直に言葉を発するのがきつい。それに喉も渇いたな。

俺が声を出すと、離れて目と目を見合わす。


「うん、ルゥちゃんや皆のお陰。ルゥちゃんがねんねしてる間に色んな事があった」

「ほんと?それじゃあ、後でいっぱい聞かせてね」


そう言うとナユタは頷き、ニコリと笑う。

さて、まずはこの大きな屋敷の持ち主は誰だか聞いとかないと。


「この屋敷は誰の?随分と・・・・・・大きいよね」

「ムラサメの屋敷。国で一番大きいって聞いた」


成程、国内最大級ってことかぁ。

いや流石としか言いようがないな。

そういえば、ムラサメの片目は大丈夫だろうか。

世界樹の一部との戦闘で、片目を潰されていたが心配だな。

ムラサメの事を考えていると、ナユタはソワソワと何かしら焦る様子を見せた。


「皆に伝えてくる。ルゥちゃんが起きたって。きっと国中、大騒ぎになるよ」


ん?国中が大騒ぎってどういう事だ?

そこで俺は嫌な予感を感じてしまう。

まさかとは思うけど、世界樹の一部との戦闘で英雄みたいに扱ってないよな?

目立つのはあまり嫌なんだけど・・・・・・はぁ、なんか俺もソワソワしてきた。


「ルゥちゃんはここで待ってて。すぐに知らせてくる」


車椅子に乗っている俺を花壇の方へと向ける。


「うん。お花さん達でも見とくから・・・・・・すぐ戻ってきてね?独りだと寂しくて」


誰かと話していないと寂しい気持ちが込み上げてくる。

ナユタは俺に笑顔を見せ、深く頷き走り出した。

さて・・・・・・俺はこれからどうしようか。

片腕は失って、暫く動いてないせいで体は硬くなってるな。

でも母に──カナンお母さんに会って、記憶は思い出した。

そのお陰か魔法の使い方も分かる。

俺は片手を前に出して意識を集中させる。

魔力は血流の流れと同じ様に流れている為、意識を持てば後は形として外に出すだけ。

俺の使う魔法は星焔魔法、特殊魔法って言われる数少ない魔法である。

まぁ簡単に言うと火魔法の超強化版みたいなものだ。

俺は掌から小さな炎を出して見せた。

ゆらゆらと揺らめく炎は自然と熱くはない。

しかし俺以外の人間やモンスターであるアグニ達は火傷をしてしまう。不思議なもんだな。


「星の力を借りる魔法ね・・・・・・強くなりたいなぁ。世界樹の一部との戦闘でこんなんじゃ、きっとダメだよね。魔法・・・・・・学びたい」


そう言葉に出した時、俺の中でふと学校という施設が頭を過ぎる。

そうだ、この国にもそういう学校とかある筈だ。通える様に手配とかしてくれないかな?

アリーシャ辺りに言えば何とかしてくれるかも。

あっ、アリーシャとアリアってどうなってるんだろう・・・・・・。きっと心配してるよなぁ。

二人のことを考えながら花を見ていると、後ろから震える声で聞き覚えのある声がした。

振り向こうにも車椅子に乗っている為、真後ろを向くことが出来ない。

でも誰の声かはハッキリと分かる。


「・・・・・・アリア、なの?」

「ルゥ様ぁ!ほ、本当にお目覚めになられたのですねっ。あぁぁ、良かったっ!アリアは大変嬉しいです!」


花壇と俺の間にアリアは入り込み、しゃがんで俺を抱きしめる。あぁ、本当にアリアだ。

暖かいアリアの体温が直接伝わって、とても心地いい。自然と俺も抱きしめ返す。


「アリア、ごめんね。心配かけたよね・・・・・・」

「えぇ、心配しました。でも、でもっ、またこうしてルゥ様と触れ合えているのです。私は、アリアは・・・・・・幸せです」


微かに瞳に涙を浮かばせたアリア。

俺も少しだけもらい泣きしそうなんですけど。

二人揃っていい雰囲気になっている所に、大きな声が耳に入ってきた。


「ルゥぅぅぅううう!!!やっと起きたかぁぁぁぁああ!!!」

「えっ、いや誰で──んぐっ」


全力で走ってきては、アリアを押しのけ勢いよくハグをしてきた。

いやマジで誰だこの人はっ!

金髪狐耳美人・・・・・・ん?よく見たらムラサメと同じ匂いがする。

でも身長大きいし、おっぱいも大きいし、声も違うし。

なりより大人びて落ち着いた雰囲気のある美人に見えるんだけど。


「ムラサメ・・・・・・?」

「うむ!!妾っ、ムラサメじゃぁ!!」


いや成長し過ぎじゃ!誰だが分からなかったじゃろうが!

おっと何故か俺も、のじゃ口調になってしまった。


「お、おぉ・・・・・・!なんか、色々と大きくなったね。柔らかマシュマロおっぱいだ」


ムラサメの胸の下に手をやり、ポヨンポヨンと上に上げる。


「む?ルゥはおっぱい好きなのか?妾のなら幾らでも揉んで良いのじゃ!」

「ル、ルゥ様っ!アリアの胸も存分に揉んで下さって良いですよ!?」


いやいやいや!なんか冗談でやったのに、本気にされてるんですが!?あぁー女の子の体だから女子トークみたいになっちゃったか。

女の子同士だし、問題ないよね!みたいなやつね。


「二人とも、ステイステイ。ルゥちゃんは起きたばっかり。もう少し静かにしないと、ダメだよ」

「ありがとう・・・・・・ナユタ」


いつの間にか戻って来たナユタが落ち着かせてくれる。

なるほど、意外とこういう所があるのねナユタちゃん。

何かあった時、二人にブレーキをかけてくれそうで助かるかも。


「うん・・・・・・ルゥちゃん。ナユタの胸も揉んでいいよ?後でだけど」

「気持ちだけ受け取っておくね」


──にっこり。

偽りの笑顔を見せるとナユタは目の前まで来て、俺の両頬を軽く引っ張る。


「ふい、なにひゅるの?」

「笑顔が嘘っぽい。本当に受け取ったの?」

「うけとりぃまひぃた!だからゆるひてぇ」

「可愛いから許す」


その後、少し四人で談笑しつつ屋敷内へと皆で向かった。



────────────



俺が寝ていたであろう部屋へとムラサメに連れてこられた。

アリアはメイドの仕事、ナユタは魔力回路の治療に向かうそうだ。

魔力回路とは、魔力が流れる無数の管であり血管みたいなものである。

世界樹の一部を体から取り除く際、ムラサメがその手で腹抉ったが、どうやらその時に魔力回路がおかしくなったらしい。

しかし医者曰く、手術すれば治るんだとか。

一刻も早く体調が戻ればいいな。


「ルゥ、ちと姫様抱っこするぞ?──よいしょっと」


車椅子から抱えこまれ、ベッドへと座らせてくれる。

正直な話、両足あるんだから歩きたい。

でも美人さんにお姫様抱っこされるのはかなり嬉しいけどね。

いきなり美人さんになったムラサメは、凄く優しい香りをしていた。

でもちゃんと女の子特有の甘い香りもするから、少しドキドキしてしまう。

ムラサメは木で作られた椅子を持ってきて、対面して座る。


「明日は王との謁見じゃ。大変喜んでこられたぞ!ルゥの目覚めは国中が喜ぶじゃろう」

「国中が喜ぶ意味が分かってないんだけど・・・・・・」

「ルゥが寝とる間に今回の件は国民に公表したからのぉ。妾もそうだし、カインも英雄のような扱いを受けておる。槍使いの男も豪華な葬式で喜んでおったろうな」


・・・・・・アッシュ。ちゃんと葬式してもらったんだな。

アッシュは俺の事を守り、死んでいった。

彼が守ってくれなかったら、今の俺の命は無いに等しい。


「お墓はもうあるの?私を守ってくれた英雄に、花を手向けたいんだけど」

「なんなら今からでも行くか?彼奴は城の隣にある墓地に埋葬されたから、直ぐにでも行けるのじゃ」

「うん・・・・・・ちゃんとありがとうって伝えたくて。本当なら今も隣でニコニコと笑っていただろうに。一緒に旅をする約束だってした人だから」


自分の事より他者を気遣うことの出来る男だ。

生きていれば、良き友になれたことだろう。

そんな男を失ったのは、俺にとって辛い出来事だ。


「ならば、着替えをせねばならぬな。──シェリル!」


部屋の扉がゆっくりと開き、一人のメイドが入ってくる。

ピンク髪に二つの突起物、猫耳をピクピクと動かしながらお辞儀をしてメイドは歩いてきた。

年齢的にアリアと同じぐらいだろうか。

でも身長が高く、成人男性並みにある様に見える。


「妾の専属メイドじゃ。メイドとして素晴らしい仕事をしてくれる。じゃがのぉ・・・・・・妾のお遊びに付き合った結果、阿呆みたいに強くなってしまってのぉ。その辺の騎士など、比べものにならんのじゃ」

「メイドのシェリルと申します。戦闘メイドとしてムラサメ様より色々と教育されました。荒事は任せてください」


いや、見ただけで強そうなの分かるんですけど・・・・・・。

一般人なら分からないだろうけど、全く隙がないの怖い。

後もう一つ、笑顔が怖いんですけど。


「シェリルさん。無理に笑わないでください。笑顔が怖いんです」

「やはり私には笑顔が向いてませんか。ムラサメ様より笑えと言われるのですが、ルゥ様がそういうのでしたらやめます」


うん、やめてくれ。

素敵で良い笑みじゃないもん。般若のお面みたいに怖いもん。


「ぷっ、はっはっはっ!シェリルは本当に弄りがいがあるのぉ!」

「──次に弄ったら四肢斬り落とした上、首輪をつけて犬歩きさせますよ?」

「す、すまんのじゃ・・・・・・」


にっこりと般若顔でマジトーンで応えるシェリル。しかも考えることエグすぎるよ。

ムラサメに向けていた顔をこちらに向け、スっと真顔に戻る。

そして俺の肩に両手を置いて、一言。


「覚悟してくださいね」

「・・・・・・え?」


いやちょっと待て!なんでそんなに息荒くしてるんです!?

何されるか、たまったもんじゃないぞ!


「シェリルは可愛い娘を見ると、着せ替え人形にしたがるんじゃよ。この前なんか、知らぬ小娘を連れ込んで何度も服を着せては写真を撮りまくってたからのぉ。ある意味、変態じゃ」

「つまり、私は──」

「ファイトじゃ。妾は準備が終わるまで自室に待機しておるからのぉ。もう一つ、シェリル。ルゥに変な事したら流石に妾はブチギレるからのぉ。変な気を起こすでないぞ?」

「待って!私とこの人の二人きりにしな──」


バタンっと扉を閉めてその場からいなくなるムラサメ。

どうやら俺は目の前にいる、変態メイドとの時間を過ごさないといけないのか。

未だにフッー、フッーと荒い呼吸をしている。

まるで好物が目の前にあるのに、待てと命令されて食べれない犬のようだ。

絶対変なことするじゃん、このメイド。



─────────────



鏡に映っている自分を見て、まず思った事──天使か、俺は・・・・・・。


「さ、最高です・・・・・・ぶふっ!!」

「うわっ!鼻血なんて出さないでよぉ!」


急いで近くにあったテッシュをシェリルに渡す。

小さな女の子を見て興奮する変態だが、ここまでコーディネートが上手いとなんとも責めれないのが嫌らしい。

乳白色の髪に対して黒のサマードレスを着せられ、ヒールも履かされた。

サマードレスには星屑のようなキラキラとした模様が入っている。

後は軽くカジュアルメイクを施され、今の俺がいる。

しかし素材が元々良すぎるせいか、磨くと更に良くなるのね。

さぁ、ムラサメの元へと行こうかな。

早くアッシュのお墓に行きたいし。


「おっと・・・・・・」


俺が歩き出すと、なれないヒールに足が挫けそうになってシェリルに抱きつく形となってしまう。

その瞬間──


「ほぉわぁぁぁぁぁ!!!」


思わぬハプニング・・・・・・いや、彼女にとっては嬉しい出来事が起きて発狂していた。

そしてがっちりと俺の体を抱きしめる。

・・・・・・フガフガと匂いを嗅ぎながら。


「何事じゃ!?」

「おぉお、お”ぉん!!ロリの匂い!ほぉおぉおお!!」


先程のシェリルの発狂を聞きつけて、ムラサメが部屋へと入ってきた。

しかし目に見える光景は、あまりに酷い。

シェリルが小さな俺の体を抱きしめ、汚い声で喘ぎながら匂いを嗅ぐ。

ムラサメはスタスタと歩きながら、こちらへ来た。やっと助かるな、よかったぁ。

ムラサメはシェリルの肩を掴み、自分の方へと向かせる。

勿論、そうなると俺は解放されるのだが──


「この・・・・・・・・・どうしようもない、阿呆がっ!!!」


思いっきり、ノーモーションから繰り出されたアッパーがメイドの顎を貫く。

と同時にドガンッと音がなり、何故かパラパラと上から粉みたいな何かが降ってきた。

俺はゆっくりと上を見ると、何処かで見た事のある光景を目にした。

うわぁぁ・・・・・・〇ミってますやん・・・・・・。

魔法少女系アニメの一番最初に犠牲になった人みたいになってますよ、シェリルさん。

天井に頭部だけが埋まり、首から下の体はぷらんぷらんと宙に浮いている状態。

流石にやり過ぎだと思い、俺はどうにかして戻そうと歩き出した時、またもや転けそうになる。

しかし目の前に大きな胸が──ふぅにゃんと柔らかい感触が顔全体に伝わってくる。


「あぁん・・・・・・これ、ルゥ。妾の乳に飛び込んでくるとは」

「ご、ごめん!ちゃんと歩きたいんだけど、ヒールがなれなくて」


そう言うとムラサメは優しく抱きしめ、頭をなでなでしてくれる。

あっ、これ気持ちいい。

偶にで良いから、ムラサメになでなでしてもらいたいな。


「そうじゃのぉ。長時間寝ていたせいで、まともに歩けるわけないし、車椅子に乗せてやるのじゃ」

「ありがとう、ムラサメ。でもシェリルさんはこのままでいいの?」


天井を見れば、未だにマ〇っているメイドが必然的に視界に入る。

ムラサメはフンっと鼻を鳴らしながら、不機嫌な顔をした。


「どうでも良いのじゃ。出かける前に点滴はもう必要ないじゃろ。医者を呼んであるから、外してもらうじゃ」


そう言うと、俺を車椅子に乗せてムラサメは部屋を出る。

少し待っていると白衣を着た医者が入ってきて、点滴を外す作業が始まった。

暫くして腕から細い管が取り除かれる。


「これで終了です。点滴を打った箇所が再生するまでは入浴はしてはなりません。それと、目覚めてくれて我々も嬉しく思います。快復までに時間が掛かりますが、最後まで面倒を見させてください。・・・・・・英雄様」


女医者は淡々と告げる。

最後まで面倒を見てくれるのは助かるな。

やっぱリハビリなんかもあるだろうし、いてくれると安心だ。


「ありがとうこざいます。快復するまで、よろしくお願いします」


優しく微笑むと「天使っ」とボソッと声に出した女医者。ちゃんと聞こえてますよ。

近くにいたムラサメにはどうやら聞こえてなさそう。

意外にもムラサメは保護欲が強いから、聞こえてたら担当外されそうだな。


「少し水分補給をしてから行くのじゃ。起きてから飲み物を飲んでない故、乾いたじゃろ?少し休んでから行くとするかのぉ」

「気遣ってくれてありがとう。正直お腹も空いたし、喉も乾いてたんだよね。ムラサメは優しいね」


ムラサメの方を見ると、顔を真っ赤にしていた。耳まで赤くなって、照れているようだ。

それも物凄くである。

俺はムラサメに車椅子を押してもらい、二人で食堂へと向かう。

胃に優しいお粥と飲み物を貰い、屋敷の外へと出るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る