第15話『壊帰眼』発動
『先に行けよ・・・・・・星、焔の・・・・・・魔女様』
脳裏に響く今にも消えそうな声。
それは槍使いの男アッシュの最後の言葉である。
何度も何度も脳裏からそれが離れない。
共に旅をしようと約束をした友の死に様が目に焼き付いている。
そして今、心の奥の奥から湧き出る殺意。
復讐、憤怒、殺戮、それらの感情が一気に押し寄せ体が勝手に動く。
目の前には人の形をした何かを捉えていた。
世界樹の一部と名称しているそれは、感情があるかのようにニヤリと笑う。
心底、腹が立つな・・・・・・何で笑ってんだよ。
「死ね・・・・・・死んで死んで死んで、死ね!」
何度も太刀を振るう。振って振って、また振るう。
でも当たらない、掠らない。
殺らなきゃ・・・・・・俺が殺らなきゃ。
仇を討つんだ。アッシュの仇を、俺がっ!!
「──ぶっぅ!」
いきなり顔面に拳が飛んできた。
殴られた反動で数メートル吹き飛んでしまう。
何かと思い顔を上げようとしたが、誰かに胸ぐらを掴まれて思い切り引き寄せられる。
瞳に映るのは、ムラサメの泣きっ面だった。
「馬鹿者!そんなめちゃくちゃな太刀筋で何が出来るんじゃ!!」
「・・・・・・私は、何を」
「お主の生きる意味はなんじゃ!復讐か!?そんなものであの槍使いの男が救われるのか!?違うじゃろうが!!」
俺の頬に涙を零しながら、必死になって言葉を紡いでいく。
息を切らしながら思いの丈を、心の奥にある本音を。
「もう二度とっ、大切な何かを失わぬ様に・・・・・・繰り返さぬ様にしなければならんじゃろうが!!」
「──がぁっ!」
また一発、拳が顔面へと吸い込まれる。
そしてまた一発・・・・・・とはいかなかった。
ムラサメが途中で振り上げた拳を下ろしたのだ。
目覚めるかのように意識がハッキリする。
「ありがとう・・・・・・ムラサメ。スッキリした・・・・・・」
「妾はお主やカインを失いとうない。大切な、仲間じゃからの・・・・・・それに、好きだから」
ハッキリとそう言ったムラサメ。
勇気づけられる言葉に、再び俺は心に炎を灯した。
そうだ・・・・・・復讐なんかで生きたらダメなんだ。止めないとな、世界樹を。
俺とムラサメは立ち上がり、世界樹の一部を見据える。
「この騒動は他の領の人間にも伝わってる筈じゃ。そろそろ応援が来てもおかしくない。その前に片をつけるのじゃ。被害をこれ以上出してはならぬ」
「そうだね・・・・・・もう、殺らせない。行くよっ、ムラサメ!!」
「承知っ!妾に力を貸せ、伊邪那岐っ!!」
こちらの戦闘員は二人で相手は単体だ。
こちらの方に分はある。
先にムラサメが駆け出し、その後ろを俺はついて行く。
ムラサメは世界樹の一部へ袈裟斬りをしたが、ギリギリのところで躱された。
でもこれで終わりじゃない。
俺は後ろから横に飛び、そのまま前へ走る。
そのままの勢いで居合切りを放った。
世界樹の一部は避けきれないと判断したのか、手から剣を創り出し、受け止めた。
剣と刀がぶつかり合った瞬間、空気が震えるかのように衝撃波が生まれる。
こいつ・・・・・・力も強いな、おい!!
『滅・昇り龍!』
剣と刀を交わらせ、力比べをしている隙に入り込むムラサメ。
今度は下から上へと太刀を振るうが、なんと地面から龍の形をした何かが出てきた。
流石異世界・・・・・・ゲームみたいな技とかあるんだな。
その瞬間に俺は引き、バックステップで巻き込まれない様に下がる。
そしてムラサメの放った剣技は世界樹の一部を捉えた。
流石だな、大陸最強は伊達じゃないらしい。
「ナイスだよっ、ムラサメ!・・・・・・ん?」
腕を斬り落としたのはいいが、その場から動かない──いや片方の手でムラサメが捕まっている。
「離すのじゃ!むぅ・・・・・・ならばそちらの腕も落とすのみ!!」
「ダメっ、ムラサメ下がって!!」
ムラサメの脳天にハンドガンが添えられていた。
いつの間にか瞬時に腕が再生している!?
このままじゃ撃たれて即死だ。もう失いたくない。
俺は地面を抉り、駆けた。もう誰かを失うのは御免だ。
ムラサメを押すようにして手を伸ばす。
しかし俺の願いは届かなかった。
パンッと乾いた音はムラサメの左眼を捉え、撃たれた反動で後ろに仰け反る。
「ぐっ、がぁぁぁ!!」
仰け反り地面に倒れた後、刀を手から離して左眼を両手で押さえ血をどうにか止めようとしていた。
そんなムラサメを直ぐにお姫様抱っこして、カインのいる場所へと移動する。
「ムラサメっ、しっかりしてっ!死んだらダメだよ!」
「見えぬ!ぐぅぅ・・・・・・!」
「団長殿っ、直ぐに治療します!幸いにもこの少女の治療が軽く終わりましたから、まずは弾を抜かないと」
俺を他所に直ぐに治療を始めるカイン。
先程治療されてきたナユタは気持ち良さそうに寝ている。
もう俺しか、俺しか戦える奴がいないんだ。
カインも戦闘は出来るが、きっと俺程じゃない。
一人は眼をやられ、一人は治療を施された後に疲れからか寝ている。
俺はゆっくり立ち上がり、世界樹の一部を睨みつけた。
「カイン。彼女達を守ってあげて」
「まだ続けるつもりなのか!?ここは一旦下がって応援が来るまで待機した方が良いだろう!!」
「それだとダメなの!」
太刀を強く握りしめ、俺は言う。
「被害は最小限に抑えたいの。だから・・・・・・私が止めないと」
「・・・・・・・・・本当に、それでいいのか?」
「カインは二人を抱えて外に行って。ここだと巻き込まれるよ」
「・・・・・・しかしっ!」
「行ってよ!貴方達まで死なせたくないのっ!」
そう言うと、苦虫を噛み潰したような顔で二人を抱え扉の方を見る。
その時、一瞬だけカインの瞳から雫が伝うのが見えた。
「待っている・・・・・・必ず生きて帰ってきてくれ!」
「約束するから、安心して。もう迷ったりしないし」
カインは頷き、外へと走り出した。
世界樹の一部の方を見ると、ずっとその場で待機している。
一様、話はさせてくれる奴で助かったな。
さてと、一対一の状況かぁ。俺はムラサメよりは弱いと思うし、何か手はないか?
いやあるにはある。でも寿命が縮む可能性がある。
それにそれを使ったとして、多分この城の一部がくり抜かれるように消えるのはなぁ。
・・・・・・あっ、魔法あるじゃん。
でもどうやって発現するのかが分からないな。
考えているとこちらにアサルトライフルを構えて今にも撃とうとしている存在がいる。
少しは考えさせてくれや、世界樹の一部さん。
今の俺に出来る事──撃たれる前に即行動っ!
世界樹の一部を目掛けて一気に地面を踏み込む。
目の前に来た俺は相手の持っている武器を斬り、バックステップで距離を取った。
しかし相手は俺を追うように、ナユタが持っていたであろう剣を手から出して斬りかかろうと何度も何度も攻撃してくる。
俺はそれを避けたり、防いだり・・・・・・。
剣と刀を交える度に世界樹の一部の力強さを痛感する。腕がビリビリと痺れて痛いな。
暫くして、世界樹の一部が距離を取った。
そしていきなり膝を着いて何かを取り出し、それを肩に抱える。
──ん?・・・・・・は!?!?!?
「RPGなんて聞いてないんですけど!?!?」
いやいやロケットランチャーはマズイぞ!
なんでこんな魔法とかある世界で近代兵器出てくるんだよ!
いやツッコミを入れている場合じゃない!
どうしたらいいんだ、どう対処したら正解なんだと脳内で思考が張り巡らされる。
しかしどう考えても逃げの一択しかない。
そう考えた時──ドンッとロケットランチャーが発射される音がした。
目の前には煙を吐きながら高速で此方に接近してくる爆発兵器。
「避ければ・・・・・・いいだけっ!」
太刀を鞘に収め、脚に全力の力を込めて横に飛んだ。
ロケットランチャーはギリギリの所を行き、なんとか回避出来た。
よしっ、ナイス回避だ!俺ってやれば出来るじゃん。
いや待てよ──なんで爆発音がしない。
普通ならば壁にぶつかったりしたらドカンッと爆発する筈。
まさかとは思い、俺は後ろを見る。
すると方向を変えて、再度此方に向かってきていた。
「え!誘導系のロケットランチャー!?!?こっちに来てるんですけど!!」
流石にこれは間に合わない。
それでも俺はまたも横に飛び、回避をする微かに左手に触れてしまった。
ヤバイと思っても、もう遅い。
──ドガァァァァァアンン!!
鼓膜を破るような爆発音が響き、その後耳鳴りがする。
俺は壁まで吹き飛んでしまい、かなりの痛みが体を襲う。
「い、たい・・・・・・あ、れ?」
特に痛いのは左肩、我慢出来ない痛みに俺は右手で押さえようとした。
でもそこには腕がなく、触れようとしても空を切るだけ。
ちょ、ちょっと待ってくれ・・・・・・まさかだよな?
恐る恐ると左腕を見ると、そこには大量に血が流れ肩から先がない。
現実を目の当たりにした瞬間、今までの痛みとは比じゃない痛みが襲ってきた。
「あぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!!!痛い!!いだいよぉぉ!!!腕がぁぁ、腕がぁぁ!!!!」
泣き叫び、その場で立つことさえも出来ない痛み。心の中で絶望という未来が、もう終わったなと思う思考が、俺をどん底へと堕とす。
あぁ・・・・・・もうダメだ。
血を流し過ぎたのか、意識が遠のいていく。
体が冷たくなるのを感じていた。こんなにも血液は温かいと感じるのに。
「う・・・・・・あ・・・・・・」
ぼやけた視界に何かが映る。
それはさっきまで戦っていた世界樹の一部だと、分かった。
爆発の衝撃で体全体が痛む。腕は肩から先がない。
でも・・・・・・それでも今、俺は死ねない。
──死にたくない!
こういう時こそ痛みに負けず冷静になれ!
絶望したらダメだ・・・・・・俺は、生きたい!
もう最終手段を使うしかないだろう。
女神であり魔神ソフィからもらった特性の一つ『壊帰眼』だ。
今ならバッチリ視界に入っているし、確実に消す事ができる。
この後に及んで城が壊れるなんて関係ないだろう。
『壊帰眼』の発動に必要なのは己の血だ。必要な血は左肩から溢れている。
俺は震える右手にベッタリと付け、それを舌で舐める。
体の芯が燃えるように熱いのを感じる。
「──壊、帰眼・・・・・・発、動っ」
脳内で鎖がバキンッと割れるような音がした。
先程より体が熱く、まるで自分自身が燃えているかのよう。
視界にはハッキリと世界樹の一部を捉えており、もう勝利は目の前。
しかし俺の体は限界を迎えていた。
今思えばまだ十二歳の小さな体で、よくここまでやったものだ。
壊帰眼を発動した瞬間、プシューっと煙を立てて目の前が消える。
そして・・・・・・世界樹の一部は消え去っていた。
俺の目の前には綺麗な夜空が広がっていた。
城の壁諸共消してしまったらしい。
もう・・・・・・疲れたな。
体の血がなくなってきたのか意識が朦朧とする。
いつの間にか体の熱は引いていた。
俺はゆっくり瞼を閉じて深く意識を手放した。
──暫くゆっくりしたいな。
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