第14話 この世界で生きる意味

14話



プラティオ王国の城内、破壊の限りを尽くした謁見の間では二人の少女?が何度も刃を重ねていた。

黄金色の髪を揺らしながら、何度も太刀を振るうこの国の騎士団長ムラサメ。

その太刀をボロボロになりながらも、何度も受け止める世界樹の契約者『殺戮者』ナユタ・ガル・バハムート。

ナユタは現在、自分の意思では戦闘をしておらず、世界樹の意思によって操られている状態であった。


「世界樹めがっ、何故そこまで少女に固執するんじゃ!嫌がっているのじゃぞ!」


真白色の剣と黒塗りの太刀がぶつかる。

ナユタは頭から血を出しながらも、戦闘を余儀なくされていた。

それでもムラサメは容赦なく力を振るう。

その理由は救いたいからという単純な理由であった。

ナユタは命令で大切な人を、仲良くなりたい人を殺したくないとしっかりと意思表示した。

これまで何百年と命令を実行してきた存在が、そんな感情を芽生えさせたのなら、助けてやりたいとムラサメは思ったのである。


「・・・・・どう、して、逃げ・・・・・ないの?」


質問しながらも全力で剣を振るうナユタ。

それを受止め、怒った表情を見せながらムラサメはナユタを見つめる。


「妾とて、かつてはお主と同じ境遇を味わった。だからこそ救いたいのじゃ!人と人が触れ合い、お互いを信じる──その温かさをお主は欲しておるのじゃろ?・・・・・現に仲良くなりたいと言っておったしな」


剣を押し退け、自身もバックステップで後退する。

太刀を構え直し、また前に出ようとした時──ナユタは見た事のない武器を構えていた。

円状に何度も銃口が付いた、両手でしっかりと持たないといけないような武器。

「何じゃ・・・・・」と呟くと後ろから一人の青年の声が聞こえてきた。

その声の主は槍使いの男、アッシュである。


「ムラサメさんよ、その武器には気おつけろ!お嬢から今聞いたが、そいつはミニガンって言うやべぇ武器だ!対物ライフルみたいに単発式で撃つんじゃなく、速射だとよ!一発でも貰えば死ぬと思えってさ!」

「ふむ、楽しそうな武器じゃのぉ。──この世界では見た事のない武器じゃ。後でしっかりとお主について聞かせてもらうとしよう」


言葉を出し終えた瞬間──ズダダダダダダダダダダダダダダダッッッッ!!!

円状の銃口が何回転もし、銃弾を放つ。

ムラサメは稲妻の如く、縦横無尽に駆け抜けて無限に発射される銃弾を避けていた。

一方で流れ弾が副団長カインやアッシュ、俺の方へと飛んで来たが、全てアッシュが槍で凌いでくれている。

銃弾を槍で何度も斬るとか動体視力どうなってんの、この兄さんは。


「懐に入ればこんな物、造作もないのじゃ!」

「・・・・・避けてっ・・・・・!」


ムラサメは容赦なく降り注ぐ銃弾の雨を掻い潜り、懐に入るがナユタはミニガンを投げ捨ててハンドガンを両手に構え撃とうとしていた。

言葉とは反対に行動は完全に殺しに来ている。


「無駄じゃ!そんな物、斬り伏せるのみっ!」


両手に持っていたハンドガンをナユタの手を斬らぬように破壊した。

ナユタは瞬時に魔法の剣を手から出し、ムラサメに襲い掛かる。

しかしムラサメが太刀を振り斬り、それを剣で受け止めたナユタは吹き飛ばされ、またも壁に直撃する。


「かなり痛むが、これからする事に対して抵抗はしてもらいたくないのでな。四肢を封じ込めるのじゃ」


そう言うと空間がひび割れたかの様に、パリパリと音を立てる。

その奥には真っ黒な深淵で染まっていた。

そして空間から四本の赤黒い太刀が現れ、各々意思があるかの様にムラサメの周りに浮いている。


「おいおい・・・・・ありゃぁ、創造魔法か!?」


ムラサメの様子を見て、声を震わせながらアッシュは言った。

あれが魔法・・・・・なのか!?

確かに摩訶不思議な現象だし、何も無い空間から太刀が現れるとか魔法っぽい。

そんな光景を見ていると副団長カインが俺の腹部に当てていた手を引いた。


「完治した、これで十分に動ける筈だ。しかし、余りにも修復が早い。何か自分で治療の心得があるとかは?」

「そんなの説明してられないよ。それより、ありがとうカイン。命を救ってくれて」

「・・・・・あっ、えっと、当たり前の事をしただけだっ」


カインは顔を赤らめてそう言った。

もしかして照れているのか?これは弄りがいがありそう。

さて、俺もムラサメに加勢しよう。

まだ戦闘は終わっていないし、終わらせなければならない。

俺はムラサメの元へと駆けた。


「ムラサメさんっ!」

「む?おぉ、案外早かったの。流石は妾が信頼における男じゃ」


ニシシっと笑いながら笑顔を見せるムラサメ。

信頼における男というのはカインの事だろう。


「これからどうするの?何か策はある?」

「小娘の四肢にこの太刀を突き刺す。動けなくなった状態で腹から世界樹の一部を取り除くという作戦じゃ」

「取り除くってどうやって・・・・・」

「勿論、妾の手で抉るのじゃ。幸いな事にカインがおるし、多少血を多く流そうと間に合うじゃろう」


ムラサメの言葉の後、ナユタの方を見る。

彼女は未だに意識はあるし、だらだらとしていても再度戦闘する羽目になるだろう。

ムラサメが言っていた策も色々と大変だが、簡単に考えるのならやる事は大体二つ。

腹から世界樹の一部を取り出して、ナユタを回復させるだけ。

それに俺自身はそこまで役割はないし、非常事態に備えておくのがベストだろう。


「カインさんっ、アッシュっ!」


俺が二人の名を呼ぶと、二人とも此方へと合流した。

そしてムラサメの言った策を伝えると、二人は深く頷き武器を構えた。

一人一人がこれで終わりにしようと覚悟を決める。


「さぁ、舞うのじゃ!」


ムラサメは右腕を前に出し、号令をかける様に声を出した。

すると宙に浮いていた四本の太刀がシュンっと音を立てながら、ナユタの方へと駆けて行く。

そしてその太刀は──


「ぐっ!ぁぁあああああっっ!!!・・・・・・痛いっ!これ嫌ぁぁぁぁ!!!!」


壁に打ち付けられたナユタの四肢に太刀が刺さる。

勿論、壁は血で溢れて床に向けて壁伝いにダラダラと血が垂れ、ナユタの下には血溜まりが出来ていた。

・・・・・・これは酷い。でもこのやり方しかないんだろう。


「カインっ、少女の下で待機じゃ!世界樹の一部を取り除いたら太刀を抜く。そうしたら直ぐに治療出来るように準備をしておれ!」

「了解しました、団長殿っ!!」


声を張りながらナユタが磔の状態になっている下の方へと駆けていくカイン。

そんなカインは平然と血溜まりに足を入れていく。

よくもまぁ、平気で突っ込んで行くなアイツ・・・・・・。


「槍使いの男とルゥは非常時に備えて、何時でも対応出来るように待機じゃ!」

「おうよっ、まっかせな!」


アッシュは返事を返し、俺は深く頷く。

流石は騎士団長と言ったところか、指揮を直ぐに取り対応が早い。

こんな人も仲間に欲しいなぁ。やっぱ頼れるし、いざって時に率先して前に出てくれる仲間は精神的にも助かる。

そしてムラサメは駆け出した。

助走をつけてナユタの方へとジャンプ。

そのままの勢いで腹を抉る気だろう。


「痛みは一瞬っ。この戦闘、勝利は妾達じゃ!!」

「ぐっ・・・・・・あ、あっ、ごぷっ・・・・・・ごほっ!」


ムラサメはナユタの腹を自らの手で抉り、引っこ抜いた。

その反動で大量に血が舞い、ムラサメはかなりの量の返り血を浴びている。

これでまだ息をしているナユタも凄いな。

明らかに即死する程に血を出してるだろ、あれは・・・・・・。

ムラサメは地面に着地と同時に、ナユタに刺していた四本の立ちを操り壁から抜いた。

するとナユタは前方向へと地面へ落ちていくが、下に待機していたカインがキャッチ。

そしてその場から少し離れ、ナユタを寝かせて治療を始めた。

なんとかナユタは大丈夫そうだな。


「ふむ・・・・・・これが世界樹の一部か。なんかウネウネしておるの。・・・・・・気色悪いのじゃ」


ムラサメは抉り出した世界樹の一部をポイッと投げ捨て、ナユタの方へと向かった。

さて、俺もナユタを確認しに行くか・・・・・・。

そして一歩足を進めた時、後ろから誰かに抱きしめられた。


「わりぃ、お嬢・・・・・・。約束、果たせそうにないわ」


何を・・・・・・言ってるんだアッシュ。


「不味いっ、間に合わぬ!!」


ムラサメがこちらに向かいながら手を伸ばした瞬間──ズダダダダダダダダッッッッッ!!!

その音と共に何度も体を揺らすアッシュ。

一体、何が起こってるんだ!?でも音・・・・・・いやこの銃声は、ミニガンか!!

未だに鳴り止まぬとてつもない音にアッシュも声を上げていた。


「ぐっ、ぉぉぉあああああああ!!クソッタレがぁぁぁぁぁぁぁああぁぁああ!!!!!」


俺の体を抱きしめる力がどんどんと抜けていく。

それと同時にミニガンが、弾を切らしたのか音が止んだ。

俺は急いで振り返り、アッシュを確認する。

──っ!!!う、うそだろ・・・・・・!?嘘だと言ってくれ!!!

目の前に立っていたのは、目を虚ろにして笑っているアッシュ。

そして小さな俺の体へと項垂れる様にして倒れ込んだ。

俺はアッシュを抱きしめ、そっと寝かせる。


「お嬢・・・・・・生きて、るよな?」

「アッシュのお陰でね・・・・・・でも、でも何で!何で!?アッシュならこんな風に守らなくても、槍でどうにか出来たでしょ!」

「槍を、ヒュー・・・・・・構え、る、、時間も・・・・・・なかった」


血で濡れた手で、俺の頬を弱弱しく撫でる。

アッシュは笑っていた。

凄い勢いで血溜まりをつくっていく。

それはもう・・・・・・助からないだろう。

カインだってナユタの治療で手が離せない。

俺やムラサメは相手の傷を癒す魔法なんて持っていない。

完全に・・・・・・詰みだ。


「ルゥ・・・・・・強く、なれよ。かはっ、ごほっ、俺、空の、上からさ・・・・・・見てっから、よ」

「アッシュ・・・・・・うぅ、うぅ・・・・・・」

「・・・・・・前を、見ろよ。ほら、団長、さんが・・・・・・戦ってる、だろ」


言われた通りに前を見ると、ムラサメが人の形をした何かと戦っていた。

ウネウネと動くそれは何度も銃を乱射している。


「このっ!よくも妾の戦友を・・・・・・死んで償え!!世界樹がぁぁ!!お前なんぞ、この手で燃やし尽くしてやるのじゃぁぁぁあ!!!!」


声を荒らげ、何度も何度も太刀を振るうムラサメは目に涙を浮かべていた。

そうか・・・・・・まだ終わりじゃないんだ。


「俺はも、う・・・・・・助かりゃ、しねぇ。先に行けよ・・・・・・星、焔の・・・・・・魔女様」

「アッシュ!!」


掴んでいた手が糸が切れたかのように下へと落ちる。

死んで・・・・・・しまった。

共に生きて、旅をしようと誓った友が目の前で。

でも満足そうな顔を浮かべて、 瞳は閉じているが口は笑っている。

その表情を見て、俺の中で何かが込み上げてくるのが分かる。

アッシュを抱え、壁まで運んでゆっくりと下ろし座らせた。

そして俺は振り返る。目の前には怒りに任せて刀を振るう存在、ムラサメがいる。

視線の端にはカインが必死で治療をしていた。

表情を見ると汗をかいている。

余程、精神的に疲れてるだろう。

そんな状況で、俺は何をすべきか──そんな事は分かりきっていた。


「──世界樹の一部・・・・・・殺す。殺した後は・・・・・・世界樹を燃やす。絶対に許さない」


鞘から太刀を思い切り引き抜き、体勢は低いまま走り出す。

この時、俺はこの世界で生きる意味を見つけた。



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