第13話VS『殺戮者』ナユタ・ガル・バハムート

ナユタ・ガル・バハームトの傍にいた執事との戦闘を終えて、俺とアッシュ、副団長と名乗る男は謁見の間に入った。

そこで見たのは・・・・・・荒れ果てた空間である。

石畳の床はボロボロにひび割れ、レッドカーペットはボロボロ。

辺りの調度品なんかも壊れていて、なにより死体の数が尋常ではない。

兵士は勿論、貴族の服装をしている人も大勢死んでいた。

奥にある玉座を見ると口から血を吐いた王である存在が、既に息絶えているのが分かる。

その下で少女が二人、激しい戦闘をしていた。

一人はナユタ・ガル・バハームトである。

灰色の髪に水色が所々にある少女で、一見すれば可愛らしく素敵な子だ。

そんな子が今は真白色の剣を握りしめ、殺意を込めて振るう。

その姿は誰のかも分からない返り血で染まっていた。

もう一人は少し焦げた黄金色の髪を腰まで伸ばし、白いカチューシャを着けた子だ。

俺と同じぐらいの年齢の少女で、黒と紺色の着物に装飾やポケットなんかが付いている白のコートを着ている。

着物の裾は太ももの半分までしかなく、足はニーハイソックスを履いていた。

正直、初めて見る服の着方である。

着物にコートって結構似合うんだな。

頭の上には二つの突起物──狐耳?があるし、腰の方にはもふもふのしっぽがある。

右手には俺と同じく太刀が握られており、見ただけでも名刀というのが分かる。


「往生際が悪いのぉ、殺戮者。お前が妾に勝てる策があるとでも?それにもういいじゃろう。暴れ過ぎにも程があるというものじゃ」

「・・・・・・貴女を、倒すまでは・・・引かないつもり。ここには私達しか、いないから」

「もっと周りを見たらどうじゃ・・・・・・お客さん二人に妾の仲間が一人いるぞ」


ナユタは入口に立っていた俺らの方を向き、目を見開く。

そこには、本人が自分に関わるなと言った相手が──俺がいたのだから。


「・・・どう、して。ルゥがここにいるの?・・・・・・関わるなと、言ったのに」


こんな血塗れの自分を見て欲しくない。

人を殺める姿を見て欲しくなかったのか、ナユタの表情がどんどんと変わっていく。


「止めに来たんだよ。もう、十分殺したでしょ?これ以上殺すって言うのなら、全力で止めるよ」

「あと・・・・・・この人ともう一人、なの」

「その人は今後の国の為に必要だよ。見るからに強そうだし、あの子にとっては特に必要なの」


そう言いながら黄金色の少女を見る。

すると何故か、キラキラとした瞳を此方に向けてきた。

なんか嫌な予感がするんだけど・・・。


「中々に見る目があるのぉ!この妾をそんな目で見るとは・・・・・気に入ったのじゃ!!」


その言葉の後、だいぶ立ち位置が開いてたのにの関わらず、その距離を一瞬で無にして目の前に現れた。

いや移動が速すぎる。目で追えなかったぞ。

同い歳のような外見でこの移動速度とか、どうなってんだこの世界は。


「うむ、可愛らしい子じゃな。名はなんと言うのじゃ?因みに妾はムラサメじゃ」

「え、えっと・・・・・ルゥです。・・・よろしく」


名前を名乗るとムラサメと名乗った少女は、いきなり抱き着いてきた。

余りにいきなりだったから「うえっ?」と声を上げてしまう。


「ほぉ!抱き心地最高じゃな!毎日の様に抱いて寝たい。妾の抱き枕にならぬか?」


正気かムラサメさんよ・・・・・・。

つか、なる訳ないだろ。俺は神様専用の抱き枕だぞ。


「おいおい。イチャつくのも良いが、戦闘中じゃなかったのか?」

「その通りですよ団長殿。気を張ってください!」


アッシュと副団長が割って入ってくる。

正直、助かった。いちいち勢いが凄くて飲み込まれそうになる。


「戦闘?・・・・・妾からしたら遊びみたいな感じじゃが?あの可愛らしい子じゃ妾の相手にはならぬ」

「よく見たらお前、全然傷ついていな。まさか攻撃を一度も受けてねぇなんて言うなよな」

「そのまさかじゃ。妾は一切攻撃を受けてない。まだ三割ぐらいしか力を出してないし、全力で相手するの疲れるし、なにより城を壊してしまうから抑えているのじゃ」


いや待てよムラサメさんよ。

城壊すって・・・・・どんだけ強いのこの人。


「副団長さん」

「は、はい?」

「ムラサメさんってどのくらい強いか分かる?」

「多分ですけど、この大陸で右に出る人いないぐらいですかね・・・・・あの外見で、もう三百歳です」


そうかー大陸で、一番強いのねー。

はぁぁぁぁあぁぁ!?!?

しかも、のじゃロリババアじゃねぇか!

ナユタ・・・挑む相手間違えたんじゃないのか。

そう思いながらナユタの方を見る。

するとナユタは対物ライフルを構え、今にも撃とうとしていた。

というか何処から出したあの対物ライフル。

いまさっきまで持ってなかったのに。

ムラサメを後ろに勢い良く倒し、鞘から太刀を抜いて構える。

ズドンッと音を鳴らしながら弾が発射されるが、氷蘭鉄心の空気の流れが見えるという能力で軌道が見える。


「・・・・・見えたっ!」


弾を袈裟斬りで斬り落とした。

確かな手応えと感覚を覚え、氷蘭鉄心を構えなおす。

一方でナユタは驚いた表情を浮かべていた。

それもそのはず、不意打ちで弾を斬られた相手が俺だからだろう。


「不意打ちなんてずるい事してねぇでよ。正面から真っ当にぶつかって来いや!」


不意打ちをされて腹が立ったのか、アッシュは槍を構えた瞬間ナユタの方へと走り、槍を振るった。

その槍をナユタは手からパリパリを音を上げて出した剣で応戦する。

剣と槍とでは槍の方がどうしてもリーチが長い為か有利になる。

しかし二人が何度か刃を重ねる姿を見ると、ほぼ互角であった。


「うむ、あの男はこれから伸びそうじゃのぉ。まぁ妾はルゥにしか興味がないがのぉ」

「さっきはごめんなさい。その、いきなり後ろに倒したりなんかして・・・・・」

「助けてくれたんじゃろ?ルゥは妾にとって

、命の恩人じゃ」


ガンッ、ギンッと剣戟がする中、ムラサメはニッコリと笑顔を向けてくる。

こういう状況に慣れてるんだろうな。

笑っていられるとかすげーわ、本当に。

おっと、こんな事をしている場合ではないな。

俺も止めに行かないと・・・・・・。

そう思った時、槍を構えたアッシュが隣に来ていた。

どうやら一度、剣と槍の打ち合いは休憩かな。


「アイツ、本当にガキか?・・・・・体力あり過ぎだろうが」

「世界樹に愛された人間ってのは、皆がこんなもんじゃ。世界樹の駒になり、命令を聞いて実行するだけの道具に成り果てるからのぉ」

「だ、団長。世界樹に愛された人間って・・・・・・っ!彼女はもしかして、世界樹の契約者!?」

「その通りじゃ、カインよ」


カインと言われた副団長は驚きを隠せない。

というかカインって名前だったのね、君の名は。

また新しい言葉も知ってしまったし、後で聞いとくか・・・・・。

世界樹、世界樹に愛された人間、世界樹の契約者──どれも気になる。


「世界樹だか何だか知らないけど、止めなきゃいけないの」

「その通りだぜ。あの方の為にもな!」

「妾も加勢するのじゃ。妾一人でも片づける事は出来るが、協力するのも悪くないしのぉ」

「自分もある程度、痛みは引いた。邪魔にならぬ様、精一杯やらせてもらう!」


太刀を構え、槍を前に出し、太刀の柄を握り、剣を持ち、覚悟を決める。

一人一人が全力で挑む、対殺戮者との戦闘──待っているアリアとアリーシャの為にも、終わらせないと。


「・・・・・ルゥ、貴女とは・・・・・仲良くなりたかった。今はダメでも、また仲良くできる?」

「それはナユタ次第だね。今はこの国の未来が掛かってるから、止めるだけ。いつか、仲良くなれるかもね」

「そう・・・・・じゃあ、今だけ、殺し合おう・・・・・!」

「全員っ、戦闘開始っ!!」

「っしゃ!やってやるぜ!」

「血が滾るのじゃ!」

「絶対に負けない!」


ナユタは両手に塩の剣を出し、こちらへと特攻して来る。

すぐに反撃の構えをし、剣と刀を重ねた。

ガギンッと重い音がしたと同時にカウンターを仕掛けるが、ナユタはバックステップで躱す。

流石に躱してくるか・・・。


「よそ見してんじゃねぇよ!」


俺のカウンターを躱したナユタを追うように、槍を横に一閃。

リーチが長い分、勢いを乗せた一閃だった。

しかしナユタは槍を掴み、アッシュの顔面を殴ろうとするが──。


「やらせはしない!!」


ナユタの体を目掛けて剣が飛んでくる。

それを本人は体を少し捻り、躱した。

そしてアッシュから距離をとる。

剣が飛んできた方向には副団長カインが立っている。


「助かったぜ!意外とやるじゃねぇか」

「副団長は伊達じゃない!」


どっかで聞いた事ある言葉だが、どこで聞いたっけ?

ナユタはまたも俺を見据え、瞬間的な速さで目の前に来る。

そして剣を上から下へと振り下ろそうとするが──黒塗りの太刀によって止められた。


「怪我はないかの?妾のお気に入りじゃから、傷つくのは御免じゃぞ」

「・・・・・チッ、貴方が一番、邪魔・・・・・!」

「ふむ、そう言うのなら早う終わらせる事じゃな。・・・・・ふんっ!」


ムラサメはナユタの腹に拳を深く入れ込んだ。

体がくの字になるぐらいだ。


「・・・うぐっ・・・・・・!」


その言葉と同時にナユタは数メートル吹き飛ぶ。一度も着地せずに、壁にぶち当たった。

それを見て何故かムラサメはこちらをニコニコと見てくる。

もしかしてだけど・・・・・・。


「ナイス・・・パンチ?」

「褒めてくれるなんて、なんて最高なんじゃ!後でたっぷり可愛がってやるからのぉ!」


唯一ムラサメだけ、この戦闘で全力では挑んでないだろう。

笑ってる時点でまだまだ余裕があるって事だ。

というか体をくねくねするのやめろ!集中出来ないだろうがっ!


「・・・・・・いっ、たいなぁ・・・・・・」


パラパラと崩れた壁から手を出し、ゆっくりと体を出すナユタ。

灰色の髪は血で染まり、頭から血を流し目に入ったのか、片目を真っ赤に染めている。

それでも尚、戦闘を続ける意思があるのか、ゆっくりとこちらに歩いてきた。

その様は──正に鬼が如く。

禍々しい雰囲気を纏うナユタは、フラフラとなりながら歩いてくる。


「まだやる気あんのかよ!?・・・・・いや、今がチャンスってね!これで終わらせてやらァ!」


チャンスだと思ったアッシュは槍を構え、ナユタの方へと全力で駆けていく。

ナユタの目の前に来たアッシュは、自身に赤黒い何かを纏わせて、槍を振るう。

あの赤黒いの何だろうか?もしかして魔法か。

槍を振るうアッシュは決まったと思っただろう。

しかし完全に嵌められたとしか見えなかった。


「アッシュ!一旦下がって!」

「何を言ってんだ?お嬢──」

「・・・・・・塩の抗」

「うぉぉおお!!あっぶねぇぇ!!」


アッシュの目の前、いや正確にはアッシュとナユタの間の地面から瞬時に塩の壁が現れる。

しかもよく見ると分厚くて、圧縮されている為か硬そうだ。

アッシュは一旦下がり、俺やムラサメの場所へと来る。副団長カインも合流した。


「面倒じゃのぉ。魔力量だけでも多過ぎではないかのぉ、あの殺戮者」

「あそこまで凝縮された魔法を使われては、そう思っても仕方ありませんね」

「ボロボロになってもあんな風に戦えるもんなのか?」

「世界樹の契約者・・・・・だからこそ倒れないんだろうね。倒れない体、死ねない体だったりして・・・・・」


ナユタを見ながらそう言うと、ピクッと体を動かし歩みを止めて俺を見つめる。

俺の推測が含んだ言葉に反応したのか?

しかし、ムラサメに腹を殴られ吹き飛ばされている時点で死んだと思った。だがナユタは死なずに立っている。

頭からの出血だってそうだ。

あそこまで血を流しているなら、上手く頭が働かない筈。

しかも最悪、出血死してもおかしくない量の血を流している。

なのに先程のアッシュとの戦闘では、ちゃんと状況に応じて対処した。

もしかすると、まだ本気を出していない可能性がある。


「・・・・・・数百年、生きて・・・・・きた。・・・・・・世界樹の為、に・・・・・死ぬ事も、許され、ない体で」


ナユタはまた、ゆっくりと足を引きずりながら歩み始める。

その方向は真っ直ぐ俺の方であった。


「世界樹の、命令は・・・・・絶対。これまで・・・・・ずっと、実行・・・・・してきた」


ナユタは言わば世界樹の駒や道具の様な存在なのだろう。

命令は絶対、逆らう事も許されないんだろうな。


「生まれて・・・・・初めて、友達に、なり・・・・・たいと思った・・・・・ルゥ・・・・・ルゥちゃんと」


ゆっくりと歩いて来て、ナユタは俺の目の前に来た。

血塗れの手が頬に触れ、暖かい感触が脳に伝わる。

同時にナユタのこれまでの寂しさや孤独さを感じた。以前の俺も家族を失い、孤独に生きてきた。

しかしナユタはその上、逆らう事の出来ない事情を何度も乗り越えてきたのだろう。


「命令で・・・・・人を殺す、のは・・・・・もう、嫌だよ・・・・・仲良く、なりたい人を、殺すのは、嫌だよ・・・・・」


これがナユタの本音。

心に秘めたたった一人の女の子の想い。

本人は数百年生きてきたと言っていたが、外見はまるっきり少女だ。

契約とやらをしてから歳をとってない可能性もある。


「ぐだぐだうるせぇなぁ。そんな風に思ってんなら、最初からそう言えよ・・・・・幾らでも助けてやんのに」

「同感じゃ、まぁ妾から一発貰って目が覚めたんじゃろ。こんな可愛い少女が願った事じゃ。叶えてやろうとするかのぉ」

「世界樹という存在がどんなものかは知らないが、少し嫌な感じですね。自分ならとっくに逃げている」


皆が皆、ナユタの本音に優しさがこもった言葉を漏らした。

きっと今しかない。この殺戮を止めるには絶好のチャンスだ。

ナユタの手を取り、優しくギュッと抱きしめる。


「ナユタ・・・・・偉いね。ちゃんと言いたい事、言えたね。ナユタがなりたいのなら、私はいつでも友達になるよ?本当はいい子だって、私は分かってる」

「・・・・・ルゥ、ちゃん」

「一つだけ聞かせて?どうしたらナユタと世界樹の関係を切れるかな」

「私の、お腹に・・・・・世界樹の、一部・・・・・埋め込ま、れてる。・・・・・それを、破壊、する」


そう言いながら、ナユタは自身の腹に手を当てた。

でもどうやって破壊すればいい?太刀で貫く訳にもいかないだろう。

他に・・・・・何か方法はないのか。


「ルゥちゃん・・・・・逃げて・・・・・・!」

「──え?」

「避けるのじゃ!ルゥ!!」


突如、腹の辺りに鋭い痛みが襲う。

恐る恐る腹辺りを見ると、真っ白な剣が腹を貫通していた。

俺の血でどんどん剣が赤く染まる。


「どう・・・・・してっ!?」

「喋るんじゃねぇ!ちくしょう!血が止まらねぇぞ!?」

「妾の考えじゃが、奴の体に世界樹の一部が宿っとるんじゃろ?・・・きっとそれは意志そのものじゃ」

「団長・・・・・つまりは今の行動は世界樹の意思が彼女を動かしたと」


カインの言葉に深く頷くムラサメ。操り人形って事か・・・・・。

しかし痛てぇよ、何でこんなに血を出して死なねぇんだ?この体はよ。

ダメだ、体を動かそうにも力が抜ける・・・・・。


「カイン、槍使いの男よ。ここは妾に任せてくれぬか?少女の願い、叶えてやりたくてのぉ」

「団長・・・・・分かりました。少し離れて、治療をしておきます」

「チッ、俺も離れて見ててやる。危なくなったら直ぐに加勢に入るからな!」

「ごめん・・・・・ムラサメさん、ナユタを、お願いするね」


そう言うと、ニコッと笑いながらこちらを見てきた。


「妾、これでも三百歳じゃぞ?もっと頼ると良いのじゃ」


鞘から刃を抜き、下段に構える。

俺はアッシュと副団長カインに運ばれ、少し離れた場所に移動した。

副団長のカインは布を取り出し、止血を始める。


「これでも回復魔法が使える身、全力で治療する」

「は?いやお前っ、回復魔法使えんの!?めちゃくちゃ稀有な存在なのにか?」

「確かに、この国では自分しか使える者がいない」


え、えぇ・・・・・・。

何この世界、回復魔法ない縛りなのかよ。

それだと旅をするのなら、出来れば一人ぐらい欲しいな。

ちょっと待てよ?カインって戦闘面をもっと磨けば凄い奴になるんじゃないか。

戦闘でダメージを受けても回復魔法で何とかなるし、自己完結型になるやん!

俺も回復魔法使える様になりてぇ・・・・・・。


「お嬢、そろそろ始まりそうだぜ」

「今は願うしかないよ。ムラサメさんを信じよう」


再び対峙する二人を見て、心からナユタを救ってくれと願った。

願わくば、ナユタも旅仲間に入れたい。

頼んだぞ・・・・・ムラサメ。

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