第11話 殺戮を止める為に


11話


目の前に広がるのは活気ある風景ではない。

王都と呼ばれるくらいだ。人々が行き交い、色んな事が起きる楽しい場所だとそう思っていたのに。


「予想以上だね。まさか、こんなにも酷いなんて」


俺はナユタから貰った紙を見た後、暫く歩いて商店街の様な場所に来ていた。

ナユタは自ら殺戮者と呼ばれていると言っていた美少女である。

今思えば、俺も中学の時に付けられたあだ名が殺戮者だったな・・・。

いや、今はそんな事考えている場合じゃないか。

商店街に歩いている人は確かにいる。目に見えるだけでも三十人はいるだろう。

しかし、皆が顔に覇気がない。

顔色が悪く、歩くスピードさえも病人かとツッコミを入れたいぐらいだ。


「冒険者協会を目指そう。そうすればスライムをどうにかしてくれるみたいだし」

「おやぁ、お嬢ちゃん。どこかの貴族様かね?」


俺が行動を起こそうとすると、腰を曲げたお爺さんが話しかけて来た。

何が起こるか分からない。警戒心を一層強めて対応しないと。


「貴族、ではないです。私は冒険者なんです」

「冒険者・・・・・・なるほどのぉ。どこか他の国から来たと見られるが、間違いないかね?」


どうやら別国出身だと思われているらしい。

それなら都合がいい。それを利用させてもらうよ。


「えぇ、そうなんです。この国には友人がいまして、久しぶりに会いに来たんですよ」

「そうかい、そうかい。でもこの国も随分と腐ったのぉ。前までは人々は笑い、お互いに切磋琢磨して協力し合い、夜には仲間と酒を交わして歌ったもんじゃ」

「・・・・・・・・・・・・」

「お主の顔を見れば分かる。ここに来たのは友人と会う為じゃないのじゃろ?それに・・・ちと殺戮者の匂いがするのぉ。こっちに来なされ、安全な場所を提供するからのぉ」


そう言ってお爺さんは歩き出した。

状況が呑み込めないが、まずはついて行くべきだろう。

それにこちらの顔を見てすぐに嘘だと気づく人だ。

人を見る目は十分にあるのだろうな。

二十分程歩いて、お爺さんが案内してくれた場所へと着いた。

そこには小さな入口があり、中に何があるか分からない。

それに入口が上手く草なんかで隠れている。

いや、隠しているのか。


「不安になる事はないからのぉ。ほれ、入られよ」

『キュー?』

「大丈夫だよ。何があっても、守るから」


入口へと入ると少しばかり広い空間に出た。

テーブルやソファーなんかがあり、生活感が出ている。

もしかしてお爺さんの家だろうか?

色々と見ていると足音が聞こえてきた。

バタンっと扉が開かれると、そこには長身の男が立っている。


「誰だ、てめぇは・・・」

「えっと・・・ルゥ・ガ・エン──」

「アッシュ!お客さんになんて口を聞いとるか!すまんのぉ。コイツは口が少々悪いのじゃ」

「チッ、うっせぇな。・・・大体、こんな貴族みたいな子は何処から連れてきたんだ?周りの奴らからしたら餌が歩いている様なもんだぜ?」

「え、餌・・・?それは一体、どういう・・・」


いやいきなり餌扱いはキツい。

俺は食べ物じゃねぇぞ。美味しくないぞー。


「言った通りだぜ、餌は餌だ。見つかった瞬間、何人もの男に犯されるだろうよ。逃げないように四肢を切り落とされて、生かされて、孕まされても犯され続ける。平民の女共はそんな事されねぇけど、貴族の女は話が違ぇよ。この国を腐らせた貴族共の血が流れているんだ。やられて当然さ」


つまり・・・・・・下手に歩いてもヤバいって事か。

しかも勘違いされる服装とかしてるしな、俺。

顔もそうか。やばいなこりゃ・・・・・・。

でも教えてもらって助かった。

アッシュと呼ばれていたな、この男。

外見は頼れる兄貴って感じがする。

全体的に筋肉質な身体をしていて、ガッチリしている。

顔も目つきは悪いが、整っていてカッコイイ。

まぁ性格がちょっと難だけども。


「そんな暗い話をしなくてもよかろう。儂の名はガイじゃ。皆からはガイ爺さんと呼ばれておる」

「俺はアッシュ。アッシュ・ノートマンだ」

「私はルゥ・ガ・エンドロールと言います。この子はスライムの・・・・・・」

『キュイ??』


そう言えば名前、決めてないな。どうしよう・・・。名前付けてあげたい。

そうだ、いい名前思いついたかも。


「スライムのスゥーちゃんです。私の大切な仲間です」

『キュ!?キュキュッー!!』

「ちょ、ちょっと落ち着いてぇぇ。そんなにぺたぺたしなくても嬉しい気持ちは伝わるからぁぁ」


スライム改めスゥーは名前をつけられて余程嬉しかったのか、何度も俺の顔をぺたぺたと触れてくる。

気持ちいんだけど、なんか犬に舐められてるみたい。


「お、おい。爺さんよ、エンドロールったら・・・・・・」

「ふむ、名の知れた魔女じゃな。しかし顔は見た事がないし、半ば噂話だと思っておったが・・・・・・その髪に舞う粒子は魔女という事を証明するものじゃ。遂に、この国にも光が・・・」

「あのぉ、話が見えてこないのですけど」


二人の話の内容だと、何故か俺が魔女という事を知っているらしい。

しかも噂話が立っているという事は、そこそこの人間にも知られているのか。


「しかしこんな子供だとは思わなかったぜ。魔女様は年齢は幾つなんだ?」

「年齢ですか?十二ですけど・・・」

「それは嘘じゃ。少なくとも儂が子供時代から噂が広まっておる。少なくとも百は生きとるじゃろ」


いやそしたら俺ロリババアじゃねぇか!!

でも待てよ。確か冒険者ギルド協会のカードには十二歳と書いてあったぞ。

よしっ、ちゃんとこちらも見せないとな。

俺は肩がけバッグにゃんにゃん型空間収納──略してにゃんにゃんバッグから冒険者ギルドカードを出して確認する。

やはり年齢は十二歳となっていた。

確認した上で二人にもそれを見せる。


「ほら、ちゃんと十二歳ってなってるでしょ?」

「ふむ・・・確かにそうなっておるのぉ。しかしいつ作ったんじゃ?」

「あっ、えっと・・・それはぁ・・・」

「俺も知らねぇけどよ、魔女って言われるくらいだ。記憶とか何もかも代償にして若返りができるとか、そういうのでこの体型じゃねぇのか?カードなんて幾らでも偽る事は出来るぜ?」


アッシュが言いたいのは、俺の冒険者ギルドカードが偽装だと。

なるほどな、そういう解釈もあるのか・・・。

自分の事をもっと知らないとだな。


「そういえば、お主は何故にこの地へ来たんじゃ?何か理由があるじゃろ?」

「・・・話しても信じてもらえるかどうか分かりませんよ?」

「エンドロールと名乗る魔女は一度、世界を救った奴だ。俺は信じるぜ」

「儂もじゃ。外見がどうあれ、儂とアッシュはお主を信用しておるよ」


二人とも揃って俺を慕ってくれている様子。

俺は世界を救った覚えとかないのだが、エンドロールって世界規模で凄いのか。

とりあえず、何処から話せばいいか分からないけど、そうだな・・・。

面倒だし女神ソフィと出会う前から話しちゃうか。

俺はアッシュとガイ爺さんに全てを話した。

ちょっと前の出来事だったが、かなり話したと思う。

二人は俺の語る言葉を黙って聞いていた。

ガイ爺さんは瞼を閉じて、何度も頷きながら。

アッシュは信じられねぇという顔をしながら聞いていた。


「──と、いうのが私の今の状況です」

「なるほどのぉ。お主は運が良いなぁ!偽装カードなら儂が作れるから幾らでも作ってあげるのじゃ」

「えっ!ガイ爺さんが偽装カード作れる人なの!?こんなに早く出会うと思わなかった!」


めっちゃラッキーじゃねぇか!運良すぎてびっくりするわ。


「いや、おいおいおい!そんな事よりも神に出会ったとか、本当かよ!?」

「本当だよ。これ見る?私、神様と婚約したの」


そう言って左手の薬指に着けている指輪を見せる。

実はこの世界に来てからはじめに気づいていたのだが、婚約しているのなら別に当たり前の物だと思い、触れてはいなかった。


「やべぇ・・・頭痛くなってきたぜ。しかも男だったとか、刺されて死んだとか、何が何だか分かんねぇよ・・・」

「まぁ、人生なんて色々じゃしな。ルゥちゃん、喉乾いとらんか?」

「確かに喉乾いたかもです」

「アイスティーしかないけど良いかの?」

「ありがたくいただきます」

「とりあえず、魔女様はスゲー奴ってのは分かったぜ。一服するならその椅子に座れよ。立ちながらだと疲れるぜ」


アッシュが椅子へと案内してくれた。

それに座り、少しだけ待つとガイ爺さんがアイスティーを出してくれた。

一口飲むと、ほのかに紅茶の香りが口全体に広がる。うん、美味しい。

アッシュとガイ爺さんも座り、紅茶と一緒に出されたお菓子を食べていた。

なんかアッシュがお菓子をちょこちょこ食べてるのギャップがすごいな。一部の女性は喜びそう。


「偽装カードはすぐにでも作れるからのぉ。三時間程、待ってくれると助かるのじゃ」

「結構早く出来るんですね。凄く助かります」

「ふぉっ、ふぉっ。もう慣れたもんじゃよ」


そんな会話をしつつ、ゆっくりとしていると外から何か定期的に音がする。

少し遠いが、ドンッダンッと何かが爆発しているような音だ。

二人も気づいているのか、お互いに目を合わせた後アッシュが外へと向かった。

何があったのだうか?少し不安だ。

アッシュが帰ってくるのにそこまでの時間は掛からなかった。

しかし顔色を変えて急いで帰ってきたのか、呼吸が少し荒い。


「大変だ!王城から煙が何個も上がってやがるっ!周りの奴らも騒いでるぜ」

「もしや、なるほどのぉ。殺戮者の匂いがすると思ったら、こういう事か。アッシュ、王城へと向かうのじゃ。あの子だけは殺させてはならん。あの子は今後における国の光じゃ。何がなんでも、死守せねば」


一体誰の事を言っているのだろう。

そう思い考えたが、意外にも直ぐにアッシュが正解を言ってくれた。


「勿論、アリーシャ様は絶対に守ってみせる。必ずなっ!」

「え、アリーシャ!?」

「うむ?どうしたのかのぉ、ルゥちゃん?」

「えっと、実はアリーシャの偽装カードを作りたくて、話してなくてごめんなさい。でも今アリーシャは、安全な場所にいますよ」

「アリーシャ様の偽装カードはなんて作ってどうする気じゃ?」


少しだけガイ爺さんは顔色を変えた。

きっと答え次第で何かされるに違いない。

だが、俺は覚悟を決めて言葉を発した。


「ドラゴベール竜王国に行こうと思います。あの子、もうこの国が嫌みたいで。一からやり直しさせ──」

「それは甘えって言うんだぜ、魔女様。あの方は唯一、王族の中で腐ってねぇ人だ。それに、王としての弁えも持ってる。それに王族痕があるって事はそういう事だ」

「そういう事?それはつまり・・・・・・」


確かアリーシャは王族痕について、自分の位置が分かるような代物だと言っていた。

死んだりしても、それで確認が出来るとかなんとか言ってたな。

つまりは魔法版GPS機能みたいなやつだろう。


「他の王族の血を引いてる奴に王族痕は無いのじゃ。今の王の体にはあるがのぉ。大体察しがつくじゃろ?」


王に王族痕があって、他の王族には王族痕がない。そしてアリーシャには王族痕があると。

・・・・・・まさか、王位継承権争いなんかしているが、それは関係なくアリーシャが王になるって事か!?


「しかし安全な場所にいるなら大丈夫かも知れねぇが、王城の様子は見ねぇとな」

「わ、私も行く。これでも多少は力になれると思うし」

「おっ!魔女様が味方とか、こりゃ強いな!よろしく頼むぜ」


アリーシャが仮に本当の王になるのなら、一緒にドラゴベール竜王国に行っている場合じゃない。

王族が嫌だと言っていたが、何としてでも王にさせるべきだ。

アリーシャがこの国を変えないと、この腐りきった国を。


「さぁ、こっちだ魔女様。人混みに気おつけろよ。結構、さっきの騒動でごちゃごちゃしてるからな!」

「うん、分かった。行ってくるねガイ爺さん」

「殺戮者には気おつけるのじゃぞ。偽装カードは一旦保留にしておくからのぉ」


俺は強く頷き、アッシュと共に外へと出た。

外に出た瞬間、遠くから煙が立ち上がってるのが分かる。

それにアッシュの言っていた通り、人々がぞろぞろと出てきていて、皆が王城の方を見ていた。


「魔女様、これに乗るぜ。魔女様は体が小さいから、俺の前でもいいか?」


目の前には馬がいた。

黒く染まった毛並みは、あまりにもかっこよ過ぎて惚れそう。


「大丈夫だよ。それにしても私、馬に乗るなんて初めて!」


そう言って馬の横で軽くジャンプして馬の背に乗る。

おぉ!景色が少し高い!

アッシュの方を見ると少し驚いた表情をしていた。特に何もしてないのだが、なんでだろうか。

アッシュも続いて馬に跨り、手綱を勢いよく振るとそれに馬が応え、走り出す。

うわぁぁ、ケツがすんごい揺れる。

これ長時間乗り続けたら痔になるの確定ですね、はい。

それにね、風が目に入って痛いですわ。

ちょっと馬で移動するの嫌いになりそう。


───────────────


馬は蹄の音を響かせながら、城へと駆ける。

その上には少女と青年、俺とアッシュが乗っていた。


「おら、退けどけ!」


アッシュは叫ぶ。いち早くも王城へと行き、状況を確認したいのだろう。

それは俺も同じである。ナユタは既にかなりの人を殺しているかもしれない。

殺戮者と呼ばれるくらいだ。普通の人間なら紙切れのように屠るだろう。


「スゥー、大丈夫?結構揺れているけど、気分は平気?」

『キュ?キュキュ!』

「そう、ならいいの。何かあったら言ってね。スゥーも家族だから」

「魔女様、城門が見えてきたぜ!」


スゥーから視線を外し、前を見る。

すると大きな城の門が数十メートル先にあった。走る馬の速度はさっきより増している。

その分、顔に当たる風も強くなるのは我慢しないと。

目を細めながら再度、城門を確認すると門の前に数十人の兵士がいるのが見えた。

どれも甲冑を来て腰に剣を装備している。

城から煙が上がっているのに、この兵士達は何をしているのだろう?

走りながら門に近づくと、一人の兵士がこちらを指さしているのが見えた。

それに続いて周りの兵士がこちらを見る。


「気づいたな、都合がいいぜ。蹴散らしてやらぁ!」

「えっ、ちょ、ちょっと!!」

「馬の手綱は任せたぜ、魔女様!ちょっと暴れてくるぜ!・・・とうっ!!」


俺に手綱を渡し、アッシュはその場で飛んで少し前で着地──した瞬間に凄い勢いで兵士の中へと向かっていく。

俺はというと手綱をぎゅっと握り締め、ただ前へと進んでいた。

にしてもアッシュは足が速い。馬よりも速いとかどうかしてる。

兵士との戦闘に入ったアッシュ。しかし、離れているから声は聞こえない。だが動きは見える。

アッシュが槍を振るうと兵士の数人が宙に浮いていた。

腹を刺されている奴とか、顔面を拳で殴れ吹き飛んでいる光景が俺の視界へと入る。

しばらく走りながら見ていると、アッシュの背中を狙って剣を突こうとしている兵士がいた。

しかもアッシュはその事に気づいていない。

俺も馬から飛び降り、着地と同時に駆け出す。

右足を踏み込むと舗装された地面を軽く抉り、白乳色の髪をなびかせた。

アッシュの背中とそれを狙う兵士の間に入り、太刀で剣を弾く。


「なっ!誰だこの少じ──」


弾いた反動でよろめいた兵士の胸ぐらを掴み、勢い任せに地面へと叩きつけた。


「・・・かはっ!」


そのまま兵士は動かなくなる。気絶したのだろう。残りの兵士は五人、特に変わった様子はない一般兵のようだ。


「んお?わりぃーな、助かったぜ。残り少ないが──暴れるか?」

「自分の戦闘能力についてまだ未知数だし、確かめる為に暴れようかな」

「へっへっ、ノリが良くて嬉しいぜ!さぁ、どっからでもかかって来な!全員相手してるよ!」

『キュ!キュー!!』

「スゥーは余り無理しなくてもいいよ。まぁ戦闘したいのなら止めはしないけど」


そう言うと一人の兵士がこちらへと剣を上から振り下ろしてくる。

少女如き、殺るのは容易いと思ったのだろう。

しかし振り下ろす前に兵士の腹を一閃。

血飛沫を飛ばしながら倒れ、それを見た周りの兵士は動揺していた。


「私の行く道を止めるのなら、容赦なく殺すよ?」

「俺はそうでなくても殺すけどな?」

「わ、我ら王国騎士団。引く訳には行かない!」

「あっそう?じゃあ、仲良く逝ってね」


相手が出る前に懐に入り、居合切りで殺す。

同時にアッシュも槍を投擲して、一人殺した。

残りは二人、だがどっちも怯えた様子で震えてきた。

剣を正面に構えているが、足から手からガタガタと揺れている。

こんな相手、斬るまでもないな。

太刀をスゥーに預け、素手でゆっくりと二人の前へと歩く。

体重移動しながら一人の兵士に拳を顔面目掛けて繰り出すが、俺はギリギリの所で止める。

もちろん致命傷なんて一切与えていない。

しかし、兵士はその場で倒れた。白目で泡を吹きながら。


「ひ、ひっ!」

「もうあなたしかいないね。逃げる?それとも仲良くやられちゃう?」

「に、逃げ、に、に、逃げた、に、に・・・」


恐怖からかまともに話せなくなっていた。

もうどうでもいいや。さっさとぶっ飛ばそう。

兵士の腹目掛けて掌底を繰り出す。

兵士は体をくの字に曲げながら数メートル吹き飛んだ。

残る兵士は──いない。城門前は制圧完了だな。


「ヒュー。さっすが魔女様だな!」

「その魔女様って言うの、やめない?ちゃんとルゥと呼んでよ」

「んじゃ、お嬢って呼んでいいか?なんかお嬢様っぽいしよ」

「それならいいよ。様って呼ばれるの、慣れてなくて」


ポリポリと頬を掻きながら、スゥーから太刀を返してもらう。

アッシュはニコニコと笑っていた。


「そーいや、ドラゴベール竜王国行くんだっけか?」

「うん?まぁそうだけど・・・」

「なら、俺も行きてぇ。お嬢と一緒だと退屈しなさそうだし、面白そうだな!」

「アッシュのような戦闘をしてくれる人いると助かるし、こちらとしても大賛成だよ」


アッシュは信用できるし、何より強い。

味方に着いてくれれば大助かりだ。

いざという時に非戦闘員を抱えての戦闘時にも助かる。

こうして話していると、馬がゆっくりとこちらへと歩いてきた。

かなり走っていたが、疲れた様子は見られない。

じっーと馬を見ていると、アッシュが馬を触りながら説明してくれる。


「こいつは騎馬とアグニのハーフなんだよ。外見は馬だが、中身はアグニそのものでよ。単騎で戦闘なんてするんだぜ」

「一つ聞いてもいいかな。アグニって何?」

「はぁ!?お、おっと・・・そういや知らねぇんだよな、世界の事」


ごほんっと咳払いをし、一息ついてアッシュは再度説明してくれる。

ごめんな、何も知らなくてよ。


「アグニっつーのは、簡単に言えばモンスターだ。人類に害を与え、世界自体にも害を与える存在だな。だからこそ冒険者を集めて駆除してるのさ。お嬢の傍にいるスライムや俺の馬とかは、ごく稀に人に友好的なアグニ。そいつらは温厚で忠誠を誓った相手の言うことしか聞かねぇ」

「スゥーは忠誠を誓ってるのかな?私に・・・」


地面にいるスゥーを抱えて見つめる。

スっーも真っ直ぐ、俺を見つめていた。


「疑問に思わなくても、見れば分かるぜ。ここまで傍にいて離れないなら、誓ってるんじゃね」

『キュイキューイ!』


嬉しそうな声を上げながら、スリスリと俺の顔に自分を擦り付けて来るスゥー。

まるで猫みたいだと思いながら撫でてやると、嬉しかったのか、大変喜んでいる様子だ。

さて、少しの休憩は終わりにしよう。

そろそろ城内部の状況を確認しないとな。

そう思いながら、城の方へと視線を向ける。

アッシュも察したのか、城の方を見てニヤリと笑った。


「そろそろ行くか?最悪、とんでもねぇ戦闘が待ち受けてそうだがよ」

「行くしかないよ。なんならこの状況の被害を最小限に抑えないとね。アリーシャが王になった時、苦労しそうだし」

「連れていくのはやめたのか?お嬢は一緒に行くって言ってたろ」


王になるのなら話は別だ。

しかも今後この国の光となり、国民の導き手となるなら逃げている場合ではない。

例え本人が嫌だと言っても、無理やり引っ張ってでも王座に座らせる。

現国王がアリーシャだけに希望や未来を託して、王族痕をアリーシャに渡したのだ。

それだけ期待もしているという事だろう。


「この国の・・・王になるのはアリーシャだよ。確かに子供にとっては、いきなり王だなんて分からないと思うけど、それでも王になってもらわないと困る。何より民が迷ってしまうからね」

「こればっかりは我儘を言われても無理だな。アリーシャ様には悪いが、そういう運命なんだよ」


アッシュは歩き出し、全体重をのせて大きな城門を両手で押した。

力あり過ぎでは?一人で開ける程の大きさじゃないぞこれ。


「さぁ、行こうぜ。パーティーの始まりだ!」

「スゥーは馬と一緒に待っててくれる?この先は危ないから」

『キュ、キュイ』


スゥーはポヨンと俺の腕の中から跳ね、馬の背に乗った。馬はというと俺に頭を下げる。

俺は馬の顔に手を当ててゆっくりと撫でた。


「ごめんけど、私の家族をよろしくね。何かあったら守ってあげて」

『ブフルルルッ』

「おーい、お嬢。まだかぁー、置いてくぞー」

「今行くよ!・・・・・・それじゃあね」


アッシュの馬とスゥーに一時別れを告げ、アッシュの元へと走る。

きっとかなりの戦闘が予想されるけど、星焔魔法を使えるようになるキッカケになるといいな。

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