第9話未来への一歩
この世界には五つの広大な大陸が存在する。
北の方に世界で一番大きい大陸ベルノサージュ。
西の方に縦長に伸びた大陸ブレイダウン。
東の方に四つの大陸の中では最小規模で、近年大陸自体が他の国に狙われそうになっているヤマト。
南の方には温暖な気候で過ごしやすい大陸ユルノベージュ。
そして中央大陸と呼ばれ、魔境大陸とも呼ばれている大陸。
四つの大陸に囲まれている中央の大陸をアウトサージュ。
そして北のベルノサージュにはプラティオ王国という国が百年の戦いを経て大陸を治めていた。
しかし、現在のプラティオ王国内は血と血で争う王位継承権争いが勃発していた。
それに巻き込まれたのが、アリーシャ・ナナ・プラティオ。この国の第八王女で王位継承権はないものの、邪魔だという理由で暗殺されそうになった。
この王位継承権争いのせいで、内政はボロボロ・・・周辺の国に今、攻められたら国が堕ちるとまで言われるほどに。
「というのが、今のプラティオ王国の現状です。しかし、何故このような事を聞かれるのでしょうか?ルゥ様」
「分からないから。私、この世界の情勢とか知らないし、気になるでしょ?」
「どうでもいい気がしますけど・・・それより私としては、もっとルゥ様の好みとかそういう事が知りたいですね」
「後でいっぱい教えてあげるから、今は私の質問に答えてね。・・・アリア」
三人で絶頂を迎えた日から三日程経っていた。
あの日からアリアとアリーシャの二人の態度は変わり、ベタベタと俺に甘えるようになった。
困ったものだ。こんな事になるとは思わなかったぞ。
二人とも国とはもう関わらないと決意していて、アリーシャに至っては国の名前を捨てると言っていた。
アリアも家族がおらず、俺達が家族だと言っていたし。
そして何故か二人とも俺の今の名前、エンドロールにすると言い出した。
アリーシャ・ナナ・エンドロール。
アリア・エンドロール。
二人は勝手に自分の名前にエンドロールを付けて、家族だと言っている。
まぁ俺としても別にいいかなと思っていた。
今は俺とアリアでリビングで紅茶を飲みながら寛いでいた。
アリーシャは俺の部屋のベッドでゴロゴロしている。
「ねぇアリア。ベルノサージュ大陸にはまだ国があるでしょ?どんな国があるの?」
「プラティオ王国以外に三つの国があります。えっとですね・・・・・・」
アリアは淡々と国と国の特徴を教えてくれた。
プラティオ王国の東側にアグレ連峰が存在し、隣にルルファラン大森林がある。
その大森林を抜けるとルルファラン帝国があるらしい。
ルルファラン帝国はプラティオ王国に次いで強国であり、特に魔法に長けているという。
帝国には魔法を研究する機関等も存在し、日々魔法に力を注いでいるとか。
続いてルルファラン帝国と和平協定を結び、仲が良い事で知られているシェリウス神聖国。
シェリウス神聖国は唯一、奴隷禁止制度が存在しない国で街中を歩けば奴隷を目にする事が出来る。
奴隷管理制度というのがあり、奴隷全ては犯罪、借金という二つの種類に分けられているんだとか。
偶に違法奴隷という攫われて奴隷になった奴もいるらしいが、国が厳しく管理体制を徹底している為か、違法奴隷と分かれば直ぐに解放して本人確認とかした後にちゃんと帰してくれるらしい。
アリア曰く、奴隷を扱う国としては珍しく治安が良いんだとか。
次に最後の国、ドラゴベール竜王国。
人口のおよそ9割が竜人種で、王である竜王も竜人種。
ドラゴンと対話が出来る能力を生まれつき持ち、ドラゴンと共に生きる生活をしている。
俺としては最後に紹介されたドラゴベール竜王国に行ってみたい。
ドラゴン見てみたいと思ってしまった。
いやだってさ、かっこいいじゃん!!
「しかし、国の特徴なんか聞いてどうしたんですか?」
「しばらくしてから、この国から離れようと思うの。アリアもアリーシャも、一からやり直ししたいだろうし、誰も身内がいない国の方が良いでしょ?」
「私達の事を考えてくれてありがとうございます。しかし、本当にこの国は何を考えているのでしょうか?アリーシャ様を探しに来ないなんて」
「アリーシャを暗殺しようとした侯爵家が裏で手を回してるか、或いは王族自体がアリーシャを嫌っているか・・・」
胸の前で腕を組み、アリーシャについて考える。
ぶっちゃけた話、嫌われる要素なんて今は見当たらない。今後一緒に過ごす中で見つかる可能性もあるけど、そういうのは案外早く見つかる。
エッチをした後だって俺とアリアにニコニコして会話してるし、暇になったら外に出て花を見ながら笑顔を咲かせている美少女だ。
ケータイとかカメラとか持ってるなら、写真を撮りたい程に綺麗だった。
きっと成長したら美女間違いなしだ。
王位継承権争いで侯爵家に狙われる・・・多分だが、王族の中にアリーシャを嫌ってる奴がいる筈だ。
そいつと侯爵家がグルでアリーシャを暗殺しようとしたと・・・これなら案外納得がいく。
俺が頭の中でアリーシャについて考えていると、後ろから誰かにギュッと抱きしめられた。
目の前にアリアはいるし、そうなると一人しかいない。
「どうしたの?アリーシャ。何も言わずに、急に抱きついて」
「ルゥ様とイチャイチャしたくて・・・ダメ?」
「後で沢山甘やかしてあげるから。今はこれからについて話してるの。アリーシャも話に混ざる?」
「これからについて?ずっとここにいるんじゃダメなの?」
アリーシャはいまいち分かっていないようだ。
確かにここでいるのも良いのだが、最悪アリーシャやアリアなんかの居場所がバレた場合に、暗殺の手が来るかもしれない。
平気で人を殺すような奴相手だと、どんな手を使ってくるか分からない。
それに魔法なんか使われたら俺が対処しきれない。
どうにかして俺も魔法を使えるようにならないとな。
「ドラゴベール竜王国に行こう。一からやり直して、幸せを掴むの」
「幸せを掴む・・・ルゥ様!大好きですっ!」
「わわっ!アリーシャ、ちょっと痛いよぉ」
アリーシャの抱きつく力が増して、少しばかり痛い。
それに甘えるようにスリスリと頬を俺の背中に擦り付けてくる。
「しかし国外に行き永住するとなると、やはり身分証明書なんか持っていなくてはなりません。そうなると私は大丈夫ですが、アリーシャ様は登録時に名前バレしてしまいます」
「名前バレ・・・もしかしてカードを作る際は自分で書類に書いたりしないの?」
「いえ、書きます。書いた上でもう一つ、嘘や隠蔽工作等をしていないかを調べる為や得意な魔法等を調べる水晶が存在します」
「それに手を当てると全部の個人情報が開示されちゃうんだ。ルゥ様もカードは持っているの?」
「う、うん。持ってるよ」
冒険者のギルドカードは持っている。
持っているというか女神であるソフィが用意してくれた。マジ感謝である。
アリーシャが登録時に身バレしたならば、即刻に王族へと引き渡されてしまうだろう。
だがそれだけは回避しないと、アリーシャも国を捨てると覚悟を決めているし守らないと。
でも本当にどうしようか。バレる覚悟で行くか?だけど戦闘は避けられないと思う。
「プラティオ王国の王都にあるスラム街に偽造のギルドカードを作る人がいると噂で聞いた事があります。あくまで噂・・・ですが」
噂かぁ・・・・・・でも行く価値はありそうだ。
ナイスだ!アリアちゃん。
「って事は行かないとダメなのね。プラティオ王国に」
「私は・・・嫌だなぁ。王都に戻りたくない・・・」
「アリーシャは王都に入ったらダメだよ?国民はアリーシャの顔を知ってるだろうし、バレたらどんな風になるか分からないから」
「その通りです。それに私、アリアも行く事が出来ません。見つかれば、きっと・・・・・・」
あぁ間違いなく捕まって、裏で色々と手を回されて最終的には処刑とかありそうだな。
って事は俺が行かないとダメって事だな。
王都までの道のりは遠いのだろうか?それに道が分からん。
いや、途中までアリアに案内してもらうか?そうなるとアリーシャが一人になってしまうから不安材料になってしまう。
うーん・・・あっ、家に紙ぐらいあるよな?なら道のりを紙に書いてもらえれば問題ない。
「アリア、ちょっといいかな?王都までの道のりを紙に書いて欲しいんだけど。それなら迷うこともないし、私が行くよ」
「そうですね。では紙を用意しますので少々お待ちを」
そう言ってアリアは俺の部屋へと向かって行った。
あれ?自室に紙なんてあったかな。
「ここの森は王都から近いんだよ。ルゥ様が行くのは良いけど、ちゃんと帰ってきてね?」
「何を言ってるの?帰って来るに決まってるでしょ。アリーシャとアリアが待ってるんだから」
「えへへ・・・ルゥ様、可愛い!」
分からん。そこまで可愛いことを言った訳でもないのに何故か可愛いと言われる。
今日まで実に三十回程、可愛いと言われている。確かに外見は可愛いのは分かる。しかし言い過ぎだぞアリーシャよ。
そんなこんなにしているとパタパタとアリアが帰ってきた。
「書いてきましたよ。これが王都までの道のりです。結構正確に書いたので分かりやすいかと」
流石、仕事が早くて助かる。さてと、どれどれ・・・。
渡された紙を見て確認する。
意外にも距離は近いのか、王都までの道のりは簡素に書かれていた。
しかも紙の上側におよそ五時間と書かれている。
「王都までこんなに近いの?尚更、早く引越ししないと不味いね」
「そうですね。見つかるのは時間の問題だと思います」
「でもルゥ様が早く偽装カードを作れる人を見つければ問題ないよ。ルゥ様、頑張って!」
「勿論、頑張るよ。明日出発しようと思うの。二人にはごめんけど待っててね」
俺がそう言うと二人は揃って頷いた。
「アリアと二人で待ってるね」
「何かあれば隠れますのでご安心を」
隠れる所は少ないけれど、まぁ大丈夫かな。
それに二人は俺の事を家族だと慕ってるし、その分早く帰ってきてあげないと。
さぁ、明日に備えてもう休むか・・・。
明日は忙しくなりそうだしな。
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