第7話王女殿下とメイドさん

第7話



休憩を終えた俺は家の中を探索する事にした。

自分がいた部屋を出るとリビングに繋がっていたが、やはり異世界••••••IHのキッチンなんて物はない。

代わりに火を自分で起こさないとダメらしく、家にいてもサバイバル要素が追加されるという、素人には序盤からキツイ仕様となっていた。


「あー私って星焔魔法が使えるからどうにかなるのかな。大体魔法ってどう使うのかも分からないんだけど」


リビングの中央に長テーブルと椅子が幾つか置いてあり、椅子に座りながら独り言を呟く。

なんか•••異世界に来ても一人ってのは寂しい。

現実で生きていたのならば、特には気にならなかったが女神ソフィと触れ合い、過ごしてきた後でまた孤独というのはキツイ。

あぁダメだ•••何かしてないとまた寂しいって感情が込み上げてくる。

とりあえずまだ見ていない場所があるみたいだし、見て回ろう。

椅子から立ち上がり、足を進める。

次にやってきたのは浴室だ。

だがお風呂は無く、シャワーのみであった。

日本人だった俺からしたらお風呂は欲しかった。

ちゃんと水が通っているのか、蛇口を捻るとお湯が出てきた。

まぁお湯が出てくるだけでもマシだろう。

これで水が出てきたらまた頭を悩めるところだった。

浴室から出て次に来たのはトイレである。

しかもちゃんと洋式のトイレだった。


「異世界だからトイレなんて凄くやりずらい物かと思ったけど、ちゃんとしてるんだね」


勿論、ちゃんとしたトイレじゃないと困る。

男だったら別にどうでもいいが、女の体である自分としては気になってしまう。

いや中身が男なら気にならないだろうと思うかもしれないが、この世界に来てから考えが偶にに女寄りになっているのが怖い。

このまま過ごしていく中で完全に中身も女の子になるのはちょっと勘弁して欲しい。

他に何か無いかと探してみたが、部屋に関しては他にはなかった。

二階も無いし、この家は小さな平屋の家なんだろう。

俺は一度リビングに戻り、これからどうするかを決める事にした。

ずっとこの家にいる訳ではないと思うし、ましてや色んな場所に行ってみたいと思ってる自分がいる。


「この世界の地図とか欲しいな。あとここがどこら辺なのかも知りたい」


情報を手に入れるなら一番手っ取り早いのは人に聞く事だろう。

だがここには俺しかいない。

となると新聞とかこの世界についての本なんかがあると非常に助かるのだが。

よし、探してみるか──


「きゃぁぁ!!」


俺が椅子から立ち上がると外から可愛らしい女の子の叫び声が耳に入ってきた。

それもいきなりである。

そういえば外には出た事がなかったな。

確認がてら、外も見ておくか。

何かあれば困ると思った俺は、一度自室に戻り太刀を手にし武装してから外へと向かう。

木のドアを開けるとギィィと軋む音と共に、太陽の光が徐々に自分を照らしていく。

一歩、また一歩、歩いて外を確認するとどうやら森の中らしい。

森の中に建つ家とは無縁だったから、新鮮である。

おっと、まずは叫び声の人物を探さないと。

そう思い横を振り向くと、少女と女性がいた。

思いのほかすぐに見つかって良かった。

見つかって良かったが、不味い光景でもある。

少女と女性の目線の先には十数名の男達が、いやらしい目で彼女達を見ていた。

うん、多分これから起こることは俺が生きていた世界の言葉で表すなら性的暴行だろう。

しかし女の子と女性を男達で囲むとか最低だな。

俺はもっと近づいて会話を聞こうとした。

そっーと物陰に隠れながらである。


「へっへっ、頭。こりゃ超大玉ですぜ!」

「あぁ、プラティオ王国の第八王女様とそのメイド••••••股間が疼いて仕方ねぇ!!」

「「「ひゃはー!!!」」」


言っていることがキモイ。

頭って言われているのがスキンヘッドのデブ。

頭と呼んでいたのがガリガリに痩せたワカメみたいな髪をした通称ガリワカメ。

スキンヘッドデブとガリワカメ、その他𝐞𝐭𝐜...らは目の前の女に目をギラつかせていた。

そして次に彼女達の存在についてだが、スキンヘッドデブが気になる事を言っていた。

プラティオ王国の第八王女とそのメイドと言っていたな。

つまりこの国かは知らんが、とにかく一国の姫とそれに仕えるメイドさんって事だ。

これはこれは••••••この世界の情報を手に入れるにはもってこいの人物である。

よし、助けよう。助けてこの世界の事について聞きまくろう。

それに助けた恩があれば聞きやすい。

俺は物陰から出て堂々と歩き出す。


「よっしゃ!お前ら、全員服を脱げ、お前はロープを持ってこい!」


スキンヘッドデブが大声で指示を出す。

それに対し特に特徴もない男がその場にあったロープを手に持った。そして俺はその男の腕を掴む。

コートの袖が長すぎる故、袖越しで掴んでいる訳だが。

ロープを持った男は俺の顔を見てびっくりしていた。

それはそうだろう、いきなり現れた存在が腕を掴んでいるのだから。


「ねぇ、そのロープは何に使うの?」

「え、えっと•••君は••••••」

「おい!てめぇ、何してやが•••る•••?」

「うん?あ、気づかれちゃった」


スキンヘッドデブに気づかれた。

しかし奴は獲物を捉えたような目でこちらを見ている。

あーそうだわ、俺って少女だったわ。

しかも自分を鏡で見て美少女って思うくらいだし、多分•••いや絶対このスキンヘッドデブは俺も犯す数に入れようとしてるんだろう。

やめてくれよ•••異世界に来てからいきなりそんなイベントは嫌だぞ。


「こりゃこりゃ、とんでもねぇ女じゃねぇか!そこの女二人より美味しそうだな!おい!!」


俺の傍に来て顔をジロジロと見ながら、そして身体を舐めるように見てくる。

キモイ•••ただただキモイぞ、スキンヘッドデブ。

俺はこの世界の情報が知りたい。

だからこそこんな所で男達に臭そうな男根で蹂躙される訳にはいかない。


「それ以上、近づかないで。お風呂入ってるの?••••••臭い」

「あぁ!?てめぇブチ犯してやる!」

「却下です。さようならスキンヘッドデブ」


身体全体を使って俺を抑え込もうとするスキンヘッドデブ。

俺はロープを持っていた男から手を離し、太刀の柄を握りそのまま腹を目掛けて居合切り。

すると肉と骨を断つ感触が手に伝わり、スキンヘッドデブは上半身と下半身が分かれ、口からごぷっと血を吐きながら•••絶命した。

返り血がコートやシャツに付くが、すぐに消えてしまう。

なるほど、これが自動洗浄•••めっちゃ便利!


「ひ、ひっ!頭が•••頭がぁ!!」

「うわぁ。死体を見ただけでお漏らしするなんて•••というか臭い」


そう言って俺はロープを持ってこいと指示された男を斬り倒した。

そしてそれを見ていたガリワカメとその他𝐞𝐭𝐜...の連中。

視線をそいつらに移すと一同顔を青くして一人、また一人と逃げ出した。

最後に残ったのは尻もちをついたガリワカメである。

俺はガリワカメへと歩き出す。

一歩一歩足を進める度に、顔色が悪くなるガリワカメは口を開けたまま俺を見上げていた。


「ダメだよ•••人の家の前で力のない女を犯すなんて」


俺は抱き合いながら不安そうにこちらを見ている王女とメイドさんを見る。

ニコリと笑顔を見せると、何故か王女の方が「ひっ」と軽い悲鳴をあげた。


「ゆ、許して•••お願いします!許してください!!」

「私に言う言葉じゃないよ?それに、許すわけないでしょ。運がなかったね、お疲れ様。ガリワカメ、その腐った心と臭い身体とはお別れしようね」


痩せこけた首を一閃。

首がゴトッと地面に落ちて、ブシャーっと斬られた首から勢いよく血が溢れ出す。

暫くして血が出なくなり、ドスッと身体が地面へ向かって倒れた。

ふぅ•••とため息を吐いて、太刀に着いた血を払い鞘へと仕舞う。

人を初めて殺した。でも意外と嫌な感じはしない。

悪人相手だったからだろうか?それでも罪悪感に駆られそうだが、一切それらの感情がなかった。

元々この身体が、ルゥという存在が人を殺す事に慣れているのか?

あぁそうか•••女神ソフィがそういう事に対して耐性のある身体を選んだ的な?

それだったらなんとなく納得がいく。

さて、王女と言われていた少女とメイドさんをどうするかだな。

まずは家の中へと案内した方が良さそう。

それにこの臭い三人の死体を片付けないとな。

俺は王女とメイドさんに近づき、挨拶をする。


「こんにちは、私はルゥです。えっと•••怪我とかしてませんか?」

「あっ•••えっと•••」

「た、助けてくださり、ありがとうございます。私はメイドのアリア、です。この方はプラティオ王国第八王女アリーシャ王女殿下に、ございます」


おお、本当に王女とメイドさんなんだ。

しかしなんでこんな森の中、そんな身分の高い人が護衛もいないのにここに来たのだろう。

そんな事は後回しだな。

家にシャワーはあるし、休んでもらわないと。


「まずは家の中で休んで。色々あって疲れたでしょう?シャワーもあるし、狭い家だけど我慢してね」

「心遣い、ありがとうございます」

「•••ありがと、ございます」


頭を下げながら感謝するメイドさん。

王女は消えそうな声で、でもちゃんとはっきりと感謝の言葉を告げていた。

俺は二人を家の中へと案内した。

そして死体を片付けるのに再び外へと来た。

さてどうやって片付けるか•••埋める?それとも燃やす?

いや、ここは埋めよう。俺はロープで死体を縛り、ズルズルと引き摺りながら家から少し歩いた場所へやって来た。

ここなら大丈夫だろうと、家の壁に立て掛けてあったスコップで地面を掘っていく。

あぁ、なんだろうなぁ。美少女が地面をスコップで掘るって中々シュールな絵だ。

掘り初めてから二時間、ようやく死体を入れられる程に掘り、穴へと死体を蹴って入れた。

そしてまた埋める•••めんどくせぇ。

だが仕方ないな、燃やせるのなら燃やしたい。

星焔魔法とやらが使えるといいのだけど、魔法の使い方が分からないんだよね。

いやマジで宝の持ち腐れ状態である。


「疲れた」


埋め終わり、空に向かって呟く。

よし帰ろう•••帰ってシャワーを浴びよう。

トコトコと歩きながら、俺は家へと向かった。

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