第6話美少女になりました

薄暗い森の中、小さな家がポツリと建っていた。

素朴で、でも少し温もりを感じる家である。

そんな家をボッーと眺めている存在がいた。

一度彼女を見れば、魅了される事間違いない程の美貌。それでいて幼さから来る可愛らしさ。

白乳色の髪を腰まで伸ばして、髪からは膨大な魔力の持ち主だと見ただけで分かるほど、蒼い粒子がキラキラと舞っていた。

シミや汚れなど無縁な白磁の様な滑らかな肌。

長いまつ毛に縁取られる瞳はオッドアイで左右共に違う色をしている。

右目が紫水晶の様に輝くの瞳、左目が女神であり、魔神でもあった存在と同じ黄金色の瞳である。


「この世界に来てから一ヶ月••••••流石に身体には慣れてきたけど••••••」


そう言って少女は自分の胸に触れる。

少女の年齢は十二歳。しかし成長期なのか程よく胸が膨らんでいた。


「ソフィ•••どうして美少女なのぉ!!」


誰もいない薄暗い森の中で少女は叫ぶ。

以前とは性別が違う故、色んな面で苦労をした。

特に一番嫌だったのが、心で思った事を口にすると全て美少女フィルターに通されて、女の子の口調になる事だ。

『ここってどうなるんだ?』と男の声で言おうとしても『ここってどうなるの?』と可愛い声が出てしまうのだ。

何故、こうなってしまったのか•••。

事の発端は一ヶ月前に遡る。


───────────


身体に感触という感じる能力がはっきりと脳に伝わってきた。

ゆっくりと瞼を開けると、薄汚れた天井が視界に広がる。

ゆっくりと身体を起こし、辺りを見回すとそこはどうやら室内であった。


「転生•••ちゃんとできたみたい」


俺はベッドに横になっていたらしく、どれぐらい寝ていたのか分からないが、長時間なのは身体が教えてくれている。

寝すぎて少し身体が痛い感覚に似ていた為、長い間寝ていたのだろう。

ベッドから出て腕を上げて身体を伸ばす。

すると視界の高さに違和感を覚えた。

他にも身体が軽いとか、肌が以前と比べて綺麗な事とか。


「転生したから年齢も分からない。名前も分からない•••取り敢えず服を着ないと」


女神ソフィの言伝では近くに木箱があって、そこに武器やら服やら、他にもこの世界に来て役に立つような物が入っているらしい。

一歩足を進めると、いつもの感覚がないのが分かり股間部分を見た。


「───っ!?!?」


しっかりと男にはついている象さんが──ない!?

え!えぇぇ!!ちょ、ちょっと待って!?

俺は何度も確認する。目で見て、直接触って。

しかし大事な息子はそこにはない。

あるのは縦筋の割れ目だけである。


「ま、待って、落ち着つかないと•••私は──えっ?」


今俺は自分の事を『私』って言ったのか?

ここまで来れば頭の良い奴なら転生して女の子に!って考えるんだろうが、俺は信じたくない。

急いで鏡のようなものを探して自分を確かめないと。


「えっーと、鏡は•••あった!私の顔って•••」


手鏡を見つけ、恐る恐る自分の顔を見るとそこには息を飲むほどの美少女がいた。

これが俺なのかと信じられない程の美少女であった。

白乳色の髪からキラキラと蒼い粒子が舞っていて、オッドアイの瞳が鏡に中にいる存在を見つめている。

汚れを知らず、まるで白雪のような肌は触れると、擽ったくて──。


「んっ••••••」


男からは絶対に聞こえてこない、可愛らしい女の子特有の声が漏れた。

そしてこの事から俺は美少女になってしまったんだと確信が持てた。

瞬間、俺は誰もいない部屋で叫んだ。


「なんで、なんで私•••美少女になってるのぉぉ!!!」


これが俺の異世界デビューである。


────────────


取り敢えず俺は木箱を見つけ、中に入っていた服を着た。

それも女の子の服で、着るのが大変だったがなんとか着ることが出来た。

縦長の木箱には太刀やバッグ、他にもカードの様な物が入っていて、手紙も入っていた。

手紙はソフィから、この容姿の事が書かれていた。


『無事に転生出来て良かったです。

いきなりですが容姿について、めっっっっちゃ可愛いですよ!ちなみに死ぬまで女の子なのでよろしくお願いします。

もう一枚紙がありますので、そこに服の説明とかカードの説明とか書かれてます。

やっぱり転生するなら性転換しないと面白くないですしね。

言葉に関してはあなたの発する言葉でも伝わるのでご安心を。

それではゆるりと異世界生活を楽しんでください♪』


俺は手紙をクシャクシャに丸めて勢いよく床に投げた。

どうしてこうなった••••••いや、全ては魔神であり女神であるソフィが原因だろう。

改めて自分を確認すると、本当に可愛らしくてびっくりする。

それに服を着てから一層目を引くような存在感が溢れた。

俺はもう一枚の紙を見て、内容を確かめる。

紙には木箱に入っている物の説明等が書かれていた。


『白姫のコート』

『妖精王のカーディガン』

『妖精王のネクタイ』

『妖精王のカッターシャツ』

『白姫のスカート』

『妖精王のニーハイソックス』

『白姫のブーツ』


こう見ると、とあるゲームの装備画面を思い出してしょうがないのだが。

モンスターを狩るゲームを思い出す俺であった。

この『白姫』ってどんな服なんだろうか?

それに『妖精王』の服も気になる。

紙を見るとちゃんとそこん所の説明が書かれていた。


『〈白姫の服〉神が作った服。自動洗浄という効果がついている。他にも自動修復等の効果もあるので傷とは一切無縁。身体に合わせてサイズが自動で変わるため、一生着ていられる』


ほほう•••。つまりソフィが作ったんだな、この服

そうなると完全に一から俺を女の子にする予定だったのかと考えてしまうのだが。

妖精王の服は••••••。


『〈妖精王の服〉妖精王の羽から出た魔力で作られた服。妖精王の羽から出た魔力で作られている為、この服を着ていると妖精に好かれる』


これもまた一級品だろう。

改めて服装を確認すると、すぐにでも職人が作ったと分かるほどに仕立てられている。

しかしデザインが凄く可愛らしいというか、似合いすぎて困る。

コートの袖は長くて腕がすっぽりと入り、腕を上げると袖が長い分、だらんと垂れてしまう。

そこもまたオシャレポイントなのだろう。

ちなみに色は白色で、金色や黒色で装飾されていた。

コートの色に合わせてカッターシャツも白だが、襟の部分は黒色。カーディガンも黒である。

スカートも黒だが下部分に白色のラインが入っていて、しかも太刀を携帯出来るようにベルトまでついている。

ニーハイソックスは白色で、ブーツは黒である。ブーツの紐は白だった。


「はぁ•••しかし本当に困ったなぁ。えっと次はカード?だっけ」


何のカードか説明されていないから、気になっていた。

木箱から取り出すとカードには『冒険者ギルド協会』と書かれていて、その他にも名前や称号等が書かれていた。


冒険者ギルド協会

名前:ルゥ・ガ・エンドロール

年齢:十二歳

職業:冒険者

称号:星焔ノ魔女


俺の名前はどうやらルゥと言うらしい。

可愛らしい名前だな。でも呼びやすくて良いかも。

職業は別にいいとして称号が気になった。

星焔ノ魔女って言うのはなんだろうか。

確かに俺は星焔魔法を扱えるようになってるとは思うが。

よく見ると細かな字で説明が書かれていた。

ちなみに何故か文字が読める。


・星焔ノ魔女

星焔魔法を扱う魔女。

膨大な魔力を有している為、それが微かに髪から溢れキラキラと蒼い粒子が舞っている。

若さ、美貌を保てる程の魔力量を持ち、魔女と呼ばれる。


おぉ•••つまり魔力の泉っていう特性を貰ったから魔女って称号がついた訳か。

自分の年齢や名前が分かったし、ちょっと休もう。

流石に身体の件でショックを受けた。

俺はベッドに座り、慣れない柔らかな太股に手を置く。


「うぅ〜これからどうしよう。家があるのは良いけど、私一人っぽいし。食料とかあるのかな?それにここってどこら辺かも気になるし。先ずは情報を集めないとね」


この私という一人称も慣れないし、なにか喋る度に、可愛らしく大人しめの声が聞こえてくるのも慣れない。

そういえば、木箱にバッグが入っていたけどどんな物だろうか。

デザインは猫の形をした肩がけのバッグだったが、紙に書かれている内容を見ていなかった。

もう一度、紙を手にしてバッグの項目を見る。


『肩がけバッグにゃんにゃん型空間収納』


名前が長い!?

見た瞬間にツッコミが炸裂してしまった。

本当に名前が長いので略して『にゃんにゃんバッグ』にしよう。

えっと•••内容は、どれどれ•••。


『無限に収納が出来るバッグ。バッグの中は時が流れていない為、食材を入れても腐らない。温かい料理を入れても、出す時は入れた時と同じように温かい状態で食べれる。しかしバッグの口からはみ出るような物は入れられない』


うむ、内容を見た限りだとめっちゃ使える。

確かに大きな物は入らないというデメリットはあるけど、それだけである。

収納と言っても服とか小物とかになりそうだし、でも出す時ってどうやって出すんだろう。

ドラ○もんみたいに手を突っ込んで手探りで探すのか?いやデメリット増えた気がするぞ。


『物を出す時は出す事を念じると項目が表示されるので、出したい物をタップしてください。尚、項目は他人には見えないようになっています』


ほっ•••デメリットが増えなくて安心した。

外に出た時は常に持っといた方が便利だな、このバッグは。

よし、木箱の中身は確認できたし、改めて休憩してから家の中を探索するか。



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