第5話最愛の神様とお別れ

異世界に行くにあたって、特典的なものを貰えるという事で女神ソフィから選ぶ様に言われてから六日が経過した日。

今日、ついに俺は異世界に転生する事になる。

ソフィから渡された紙から選ぶ特典を選び終わった後はのんびりと過ごしていた。

最後にソフィに決めさせた異世界での俺の外見が気になってしょうがない。


「暫くは会えませんね・・・寂しいです」

「そうだな、でもまた会えるんだ。その時にでも会えなかった分、愛してやるから」


涙ぐんでいるソフィを優しく撫でると目を細め、気持ちよさそうに頬を朱色に染めていた。

俺だってずっとここにいたい。

その気持ちを抑え、今もソフィと別れようとしている。


「異世界に行ったら近くにある木箱に服が入ってるんだよな?」

「はい、私・・・魔神からの贈り物です」

「そっか・・・ありが──はぁ!?!?」


いや待て!こいつ今はっきりと魔神って言ったよな!?

魔神って聞いたら誰もが悪いイメージしか持たない奴だろ。

なんで今まで言わなかったんだソフィ・・・。

いや気にしなかった俺も俺だろう。

でも大丈夫だ・・・少しだけ動揺しただけで、いくら魔神とて俺の愛する人には変わりない。

俺は深呼吸をして心を落ち着かせた。

要は魔神で女神様で俺の愛する存在だと、聞けば聞くほど凄いな。

存在感増し増し過ぎて脳が追いつくかどうか不安になってきた。


「ちゃんと私が魔神だって伝えなくてごめんなさい。怖がってしまうかと・・・そう思って」

「怖がらないさ。ソフィはソフィだろ?俺の愛する女神様だよ」


俺はソフィを抱き寄せ、ぎゅっと優しく──力強く抱きしめた。

ソフィの匂い、温かさが直に伝わりこの感覚を暫く味わえないと思うと辛い。

それはきっとソフィも同じ事だろう。

でも今後、ずっと永遠に会えないわけじゃない。

また何時か、会える時が来るのだから•••。


「ソフィ•••俺、身体が──」

「あなたっ!」


指先、足先から徐々に光の粒子になって消えていく俺の体。

感覚が無くなっていき、力さえも込められない。

そんな俺を見て、とうとうソフィは輝く黄金の瞳を震わせ一粒の雫を零した。

それはやがて一粒で済まなくなり、何度も何度も大粒の涙を零す。

それと同時にソフィの抱きしめる力が強まった。


「私っ、ずっと待ってます!例え傍に居なくても•••見守ってます!だから、だから──」


俺の顔を見上げ、想いを言葉にするソフィ。

泣きながらも必死に想いを吐き出すソフィを見て、俺は幸せ者だと実感した。

家族を失い、独り身で過ごしていた──虚無感が辺りを埋め尽くす自分がようやく見つけた愛する存在。

そんなソフィは必死に俺の顔を見つめている。


「ソフィ•••俺の愛する神様、もう行かなくちゃ。でも俺はお前を忘れたくない──いいや忘れない!だから••••••」

「んっ、ちゅ••••••」


互いの唇を重ね、言葉では伝えられない愛を伝えた。

既に胴体は消えかかっている。

顔も薄く粒子が待っている状態だ。

ソフィの唇の感触さえ分からなくなっていた。

だが、ソフィの気持ちは俺の心に伝わっている。


「行ってくるよソフィ•••」

「行ってらっしゃい•••あなたっ♪」


泣いていて真っ赤になった目を細め、満足したかのように笑顔なソフィ。

まるで太陽の光に喜ぶ花のような笑顔を最後に俺の視界はブラックアウトした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る