かつて勇者だった俺は首を斬られて時間遡行。今度は魔王も討伐しないし俺を陥れた奴らには近づかない。そう思っていたのに何故か向こうから寄ってきます。
白田 まろん
プロローグだけどこれで終わり
「何故こうなった!?」
25歳の元勇者アーノルド・ジョイバッハーは、魔法封じの
15歳にして勇者の称号を授かり、3年間魔法学校で修行して、18歳でそこで知り合った仲間たちと魔王城に乗り込んだ。そして見事これを討ち果たし、名実共に世界の英雄となった。
つまり犯罪以外は何をしても許される位、ある意味での特権階級を手に入れたのである。
彼は寒村ジエンに生まれ、食うや食わずの幼少期を過ごした。だが、そんな生活が彼の強靱な精神と肉体を作り上げる。また、何代か前に混じったと思われるエルフの血が覚醒し、強力な魔力も備えていた。
無敵、それが彼を表すのに最も適切な言葉だろう。
しかし彼は謙虚だった。秘めたる力に奢ることなく、常に他人を思いやり、弱い者を見れば助けずにはいられない。そんな彼に民衆が心酔しないわけがなかった。
一時は英雄とまで称えられたアーノルド、その彼が今まさに斬首されようとしている。
「残念だわ、アーノルド。まさか貴方がこんなに落ちぶれるなんて」
言ったのは共に魔王に立ち向かった仲間のニーシャである。この女、よくもまあヌケヌケと。
「悪党とは君のことを言うのさ。あの世で自らの愚かさを悔いるといい」
もう1人の仲間、ガルガスは俺を半笑いで見下ろしている。信じた俺がバカだったよ。
「何か言い残すことはあるかね?」
「陛下、私は……私は!」
「ないようだ。やれ!」
「はっ!」
「え、ちょ……!」
そして次の瞬間、首に物凄い衝撃を感じたかと思うと、彼の視界はぐるりと一転したのであった。
◆◇◆◇
「ちょっと待っ……あれ?」
「アーノルド、やっと起きたのね」
見覚えのある天井。彼は訳が分からなかった。たった今、自分は首を斬られて死んだはずだ。
「てことは、ここは天国か……?」
「天国? まあ、私がいるからそれも間違ってないとは思うけど」
「君は……え? もしかしてサリリ!?」
「何よ、幼馴染みの顔を忘れてたって言うの?」
「あ、いや……」
「こ〜んな可愛い女の子を忘れるって、どういうことよ?」
ハーフエルフのサリリ。確か俺が15歳で破魔の剣を抜いて勇者として王都に移り住むまで、共に村で過ごした女の子だ。
働き者の彼女のお陰で俺の家族は何とか食っていけたが、エルフ族と人族の混血は悪魔の申し子と呼ばれて忌み嫌われている。
だが、俺の家系にも遥か昔にエルフ族の血が混じっている。だから家族は捨て子だった彼女を引き取った。俺が5歳の時だ。
自分の年齢も分からないとのことだったので、俺と同い年ということになったのだが――
それにしても、サリリってこんなに可愛かったっけ。あの頃は毎日顔を合わせていたから気づかなかったってことか。
ライトグリーンの長い髪に、エルフ族の血を引く証である尖った耳。雪のように白い肌と透き通る水色の瞳が、長い睫毛の下でクリクリと動いている。細い四肢と、わずかに膨らんだ胸元には眩しささえ感じられた。
ところがそんな愛らしい妖精は、俺が村を離れてから間もなく私刑に遭い殺されたと聞いた。それを知ったのは、魔王を討伐して村に凱旋した時のことだったが。
「な、何で生きて……」
そうか、やっぱり俺は死んだということか。それなら納得だ。
「失礼ね! まるで私が死んじゃったみたいじゃない!」
「あ、えっと……」
「今日は破魔の剣を抜きにシャルドの祠に行く日でしょ。いい加減、起きないと迎えの馬車が来ちゃうわよ」
「は?」
まさか、そんなことあるはずが! 俺はそう思って自分の手を眺めた。そこには栄養失調でガサガサになっていた肌ではなく、15歳と思われる若々しい手があったのである。
あの頃も栄養状態は決してよくなかったとは思うが、地下牢で過ごした1年間よりはマシだったということだ。
「もしかして俺、時間を逆戻りした!?」
「逆戻り? まだ寝惚けてるのかしら、お寝坊さん」
いきなり頬にキスされた。柔らかい唇の感触と甘い香りはあの頃のままだ。俺が寝惚けていると必ず彼女はこうして頬にキスしてくれていた。
待て、本当に俺は
しかし改めてサリリを見ると、確かに15歳の時に別れた時のままのような気がする。となると……
「やめる!」
「え?」
「破魔の剣は抜かない!」
「な、何をいきなり!?」
だってそうじゃないか。それを抜くと俺は勇者となり、英雄と崇められるまではいいが、その後首を刎ねられるのだから。だったらヤメだ、ヤメ!
そんなのに付き合ってられるかってんだ。
かつて勇者だった俺は首を斬られて時間遡行。今度は魔王も討伐しないし俺を陥れた奴らには近づかない。そう思っていたのに何故か向こうから寄ってきます。 白田 まろん @shiratamaron
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