第105話 お説教と魔導具の成れの果て
あくる朝、クララさんは二日酔い。
本人は朝食の席に起きてこようとしていたが、エドが水と薬を飲ませてから休んでおくように言い聞かせてきたという。
メリリは朝食が済んでから散歩に出かけている。
軽い運動を日課にして体力をつけた方が良いと、シルバが助言をしたらしい。
素直に頷いて出かけっていったが、大した距離でもないので戻って来るのも早いだろうと思う。
それで今、俺は師匠に説教されている最中だ。
椅子に座った俺の周りをグルグル回りながら尋問してくる師匠。
「それで、
ジトリと睨まれるけど、まったくもって不本意だ。
あのときの俺にはやましい気持ちなんて
深夜に厨房の前で出会って一緒にホットミルクでもって誘っただけだもの。
言葉を重ねて一生懸命に弁解しても追及の手は緩まない。
「フン。ちっとも信用できないねぇ。部下の
「いやいや、それとコレとは論点が違うじゃんか。今は俺がクララさんに不埒な真似はしていないっていう話であってさ……」
「嘘つきは泥棒のはじまりっていうんだから、泥棒が嘘つきなのは当然の事実じゃないか」
だから何を言おうと弁明の余地なしと、取り付く島もない師匠。
そもそもさ、俺とクララさんは夫婦なのだし、……多少は色っぽい関係になったって不思議じゃないと思うんだけど。
だけども、今その話題を出しても相手にしてもらえないのはわかりきっているからさ。うん、沈黙しておくのが良さそうだ。
それでも、わざとじゃないということだけは信じてほしい。
繰り返すけれど、アメリの言うような
「酒といっても、ほんの少しだけだったんだよ。まさか少量で二日酔いになるほど強い酒だとは思わなかったんだ。いゃ、……反省してはいますけれどもさ」
「はぁ、……まったく。シルバに聞いたけれど、
あの酒を飲んで平気でいられる奴が信じられないと師匠が言った。
それをいうなら、シルバも変態仲間だと思うんだ。
なにせアレの所有者なのだし。
大事そうにチビチビ楽しんでいたのを俺は知っている。
チラリと奴を見てみれば、ギロリと剣呑な視線とぶつかった。
「言っておくが、アレは南大陸の甘露樹を原料とした珍品で取り寄せるのに三年もかかった代物なんだからな。ほんのチョットずつ舐めるようにして大事に味わっていたのに、今朝確認したら残り半分しかなくなってたんだぞ! ったく不死身のクソッタレ呑兵衛が! 新品を買って返しやがれ!!」
うゎあぉ。
かなりのご立腹だ。
仕方がない、こっそり馴染みの行商人に手配しておいてもらおうか。
多少の時間はかかっても、彼らならば叶えてくれることだろう。
ついでにクララさんが飲みやすいような珍しい酒も頼んでおこうかな。
今度はエドに視線をやれば、ため息交じりに頷いた。
どうやら意図を察して動いてくれるらしい。
よし、これで一安心。
さっさとお説教から脱出するべく話題を変える。
「それはそうと、アメリに相談があるんだよ」
ここは魔導具話が適当だろうと、クララさんが着けていた例の魔導具を
持ち出した。
チョーカーネックレスのような、どす黒い皮の首輪。
正面の真ん中辺りに金属の留め金がついている。
「何の相談だい? アタシャこれからクララちゃんの様子を見に行くんだから忙しいんだよ。……って、そいつは例のしょうもない出来損ない魔導具の成れの果てじゃないか。それが、どうかしたのかい?」
怪訝そうな師匠に頷いた。
「これ、クララさんに返そうかどうか迷ってるんだ。クソ兄貴の作ったやつを身に着けさせておくなんて腹立たしいから廃棄したいんだけど、アメリはどう思う?」
こんな忌々しい物、粉々に砕いて捨ててしまえと思っている。
そうすればクララさんは骸骨の姿に未練がなくなるはずだ。
たぶんだけれど、彼女に確認しちゃうと捨てないでほしいとか言いそうなんだよ。
普段の様子を鑑みると、骸骨姿に馴染んでしまって案外と気に入っているみたいだからさ。
変なふうに人間不信になっていて、他人と関わるのが億劫なのかも知れないな。
骸骨姿なら事情を知ってる人とか肝っ玉の据わった人物しか近寄ってこないだろうし、気持ちはわからなくもないんだけど。
でも俺は、できれば素顔のままでいてほしい。
アメリは俺の手から黒革の首輪を取り上げて、しげしげと観察した。
それで、一言。
「焼却だね!」
それから、握りこぶしを持ち上げつけ足した。
「アタシが消炭も残らないくらいに燃やしてやるわ!」
アメリもこの魔導具には腸が煮えくり返る思いでいたらしい。
力強いお言葉をいただいた。
それからもう少しだけ師匠と話をした。
俺はクララさんがどんな姿でもかまわないが、彼女の在りたい姿でいてほしいこと。
素顔が素敵だから、本音を言えばそのままでいてほしいんだけどね。
まぁ骸骨でも良いんだけどさ。
だがしかし、他の野郎から贈られたものを身に着けさせておくのは業腹なのだ。
……云々と、俺の考えを吐かされたとも言う。
その結果、やはり忌々しい魔導具の成れの果ては廃棄一択ということに。
万が一にも事情を知らない他人の手に渡ってしまったら、それが魔力保持量が少なめな一般の人だったら……あっという間に魔力枯渇で、長期的には命の危険があるかも知れない代物だしね。
「中身の魔法術式を他の魔導具に複写して、もう少し害のない術式に改造したら、アタシは面白い魔導具だとは思うんだけど。それはクララちゃん次第かねぇ。彼女には、そんな感じでアタシから話しておくよ」
そう言って、師匠は苦笑しながら通路へと出ていった。
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
[ クマな作者のご挨拶 (。>(エ)<。) ]
いつも読みに来てくださり誠にありがとうございます。
グラース視点、今回はここまでと相成りました。
頑なに骨のままで居たかったらしいクララさん。
どうしたら彼女が彼に素顔を晒せるか悶々と考えてみて、やはり素面じゃ無理かなってなりまして……思いきってお酒を飲ませちゃいまして……あとは勢いで何とかしてくれ〜って、グラース頼みな章でしたが彼は彼なりにそこそこ頑張ってくれたんじゃないでしょうか (;´(ェ)`)エヘ ←投げやりなクマw
そして、お酒はおとなになってから&飲むなら乗るな、乗るなら飲むなということで……用法用量を守って楽しく嗜みたいものでございますね(^^ゞ
そして例のごとく、またしても書き貯め文書が底をつきまして次章をチマチマ生産中でございます。
クララさん視点で魔導具魔改造とか出来たら楽しそうだなぁって妄想を膨らませて膨満感でエライコッチャだったりそうでもなかったり(……ナンノコッチャw)
またお時間をいただくことになりそうですが、そんなお話たちをこちらでご案内できたら嬉しいです♪
ついこの前まで作者なクマは猛暑で干からびていたのに、いつの間にか秋らしくなってまいりました。
今こそ美味しい実りを味わって、冬に備えて栄養貯蓄しちゃいましょう☆
皆さまどうぞ素敵な秋をすごしてね (〃(ェ)〃)∩ ))
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