第98話 朝の、ひと騒動




 塔の朝は比較的ゆっくりだ。

いや、エドさんとシルバさんは早起きで各自のお仕事に取り掛かってくれている。 

そう、ラス様と私がゆっくりなのだ。



 ラス様は宵っ張りの朝寝坊な方なので、それが平常運転らしい。

そして近ごろの私も、すっかり似たりよったりな生活習慣になってしまっている。

「お嬢たちは勉強やら研究やらで、深夜まで起きてるんだろ? そのぶん睡眠時間はしっかり取らなきゃ駄目だろが。俺たちは朝は早いが就寝時間も早めだから問題ないんだよ」

シルバさんは、役割とか習慣とか人ぞれぞれで良いんじゃないかって言う。

でも、私は彼が趣味の時間として寝る前に甲冑のお手入れとか鑑賞をして遅くまで楽しんでいるのを知っているし、……エドさんなんて夜中も塔の中を見回ったりして、いつ寝ているのかわからない。



 私の内心を察してか、ラス様が。

「ははは。エドとシルバは睡眠時間が短めでも心配ないんだよ。そういう習性っていうか体質でもあるからね。だが、残念ながら俺たちは夜にしっかり寝ないと支障が出る種族だから、多少の朝寝坊は大目に見てほしいかな」

って片目をつぶる。

「まあ、そういうことです。クララ様も、朝くらいはゆっくり過ごされたらよろしいのですよ」

エドさんまでもが、朝寝坊を推奨だった。



 そうはいっても、子ども時代から早寝早起きをと言われ続けて育った身として、多少の罪悪感は否めない。

そんな感じのことを言ってみたら、エドさんが微妙な表情に。

「朝寝坊はともかく、お二人も早い時間におやすみになられた方が良いとは思いますがね……しかし、閣下の夜更かしは筋金入りなので諦めたのですよ。夜具の中にまで本と魔導ランプを持ち込んで隠れてまで起きていらっしゃるんですからねぇ、まったく……」

なるほど、改善は試みたが無理だったと。

そして、どうやら匙を投げ捨てたらしい。

執事さんは苦笑しながら朝ごはんを配膳してくれるのだった。






 朝食は、スクランブルエッグとグリーンサラダに具だくさんトマトのスープを美味しくいただいた。

「そういえば、昨日の娘はどんな具合だい? 少しは良くなったのかな?」

「ええ。今朝は昨夜よりも顔色がマシな気がします。よく眠っていたので、またあとで様子を見に行ってみるつもりですわ」

「そうか。それは良かったよ」

ラス様も何かと心配をしてくれているようで、そんな会話をしながらの食事となった。





 それからゆったり食後のコーヒーを飲んでいると……バタバタ、バタタタターーっと足音が。

続いて、キャァ! とか、いやぁァァァァ! とかいう叫び声が聞こえてきた。



 食堂で皆が固まったまま、扉を見つめる。

すぐ近くの通路辺りで、来ないで骸骨ぅぅぅぅぅ……と、涙声がしたかと思ったら、いきなりバンッと食堂の扉が開かれた。

「「えっ!!?」」

「ふぇっ!?」

 私の向かい側にいたエドさんとラス様、そして扉からの闖入者ちんにゅうしゃ

三人の視線が交差した。





 私は扉側に背を向けて座っていたので咄嗟に反応できず、躊躇したままその様子を見ているばかり。





 闖入者な少女は室内の様子を認識すると、ブワッと赤いその瞳に涙を浮かべた。

「うっ、わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーん!!!」

それはもう、見事な大泣きを披露してくれたのだった。






 こちらの異変を察知して、厨房からシルバさんが駆けつけた。

「おい、何事だ!!」

シルバさんの問いかけにラス様が紅い瞳を細めて、問題ないよと呟いた。

 体格の良い大男と、自称見た目が不吉な無表情の短い会話。

それを見た少女の瞳に再び涙の雫が盛り上がる。

「ひぇ……」

何というか、かなり怯えられてしまったみたい。









 「なあ、チビちゃん。頼むから泣き止んでくれよ……」

涙を流しつつピシリと固まっている少女の頭をポンポンしながら、困った表情のシルバさん。

「…………」

無言で無表情なのだけれどたぶん戸惑っているラス様は、飲み干したはずのコーヒーカップを持ったまま。

 エドさんは食器やカップを片付けながらにこやかに、目が覚めて良かったですとね言っていた。



 執事さんの優しさに少しだけ安堵したのか、彼女はヒックヒックとしゃくりあげながらエドさんを見た。

「ック、……あ、りがとう、ック……ご、ざいますっ……ック……起きたら、知らない場所で……ヒック、………いきなり骸骨がっ、やって来てびっくりして逃げたんだけど……どこも骸骨だらけでっ………」

なるほど、ものすごく怖かったらしい。





 それから徐ろに私の方を見て、目を見開いた。

「……っ!!?」

なんだろう、……言葉にならないくらいに驚いているような?

いえ、思いっきり怯えているみたい。



 恐怖に強張った表情で、彼女が言った。

「イヤぁァァァっ!! 怪物ぅ!! が、ががが骸骨のっ親玉ぁぁぁぁぁ…………」

叫んだと思ったら、フラリと白目をむいて気絶した。





…………なるほど。

私って、そんな風に見えるのね………。











・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


[クマ作者のご挨拶 (〃(エ)〃) ]


ヒロインちゃんのときと似たりよったりですが……塔にやって来た彼女が、こんなお約束な展開を辿ったら楽しいかなって思いながらこの回を書きました ww(^^ゞ

気絶されちゃったヒロインちゃんの心情が気になりますが、クラウディーラ視点のお話はここで一区切りとなりまする。


ホントはもっとサクサクすぴーでぃーに進めたかったのですが、ちっとも進まなくって……オイラには無理でした (´;ω;`)ブワッ

続きは新章のグラース視点でお送りできたらと考えておりますです。

まだ全然書けてないんですけれども、がんばって書きたいですぜ☆


ここまで読んでくださった優しい皆々様、ホントに本当にありがとうございます。

次章の投稿がいつになるか不明ではありますが、のろのろながらもコツコツ生産中でごさいますので、ぜひぜひまた覗いてやってくださいませね。



実りの秋はすぐそこに。

皆様お身体に気をつけて元気にすごしてくださいませ〜 (>ω<)∩ ))♪♪







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