路地裏に白いモコモコちゃんが落ちていたので、うちの子にしちゃおうと思います  (クラウディーラ視点)

第89話 甲冑貴婦人は街へ行くことになった




 華やかだったパーティーから数日後、廃墟塔はすっかり日常を取り戻していた。

ひと通りの付与術に関する基礎知識を授けてくれたフェル様は自分の工房で待っているお弟子さんたちの様子を見るために帰っていったので、少しばかりさみしい気がするが、師匠を独占してしまうのは他のお弟子さんたちに申し訳がない。

教えていただいた基礎をしっかり身につけ、次にお会いできるのを楽しみにしておこうと思う。



 ラス様は魔法魔術大学のお仕事を再開されて、護衛のシルバさんを伴って週に数度は大学へ通勤されている。

 エドさんは留守番役ということで、塔内の用事や王城とのやり取りなどの執事の仕事を。

 私は相変わらず勉強の日々だが、ベリーと戯れてみたり時々やって来るアメリ様とお茶を飲んだりと、意外と優雅に過ごしていた。






 そして今日も、午後から学長の執務を放り投げサボって流行りの洋菓子店へと単身で繰り出していたアメリ様が、戦利品のピーチタルトを手土産に来宅している。

 そんなわけで、いつもの流れで応接室へ。

 エドさんが切り分けてくれた完熟ピーチタルトからは芳香が漂い、アメリ様が傾けたティーポットからは琥珀色の紅茶が注がれる。

小皿にちょこんと盛られたタルトの欠片には、お行儀など無関係とばかりにベリーがぷるるんと覆いかぶさっていてご機嫌だ。

見ていてとっても微笑ましい。



 茶会の準備が一段落したところで、エドさんが外出宣言をした。

「それではごゆるりと。私はちょっと王城まで手紙を届けに行ってまいりますね」

「執事殿は相変わらず忙しそうだねぇ。アタシは夕方までこちらに居座るつもりだから、慌てずに行ってくると良いさ」

「エドさん、近いとはいえ気をつけていってらっしゃいね」

アメリ様と二人でエドさんを送り出した。

ぷるぷる震えていってらっしゃいのポーズなベリーをツンツンと突いてから、彼は礼儀正しく行ってまいりますと言って出かけていった。






 近ごろは二人と一匹のこうしたお茶会は毎度のことだ。

エドさんは毎回なにかしらの口実をつくって席を外すので、たぶんアメリ様に遠慮していたりとかするのかもしれない。

 スライム種の雌雄は判別が難しいベリーもおそらくは女の子だろうと仮定して、私はこのお茶会を心の中でこっそり女子会と呼んでいたりする。



 今日の話題は先日のパーティーについての感想会みたいな感じだ。

「フムフム、予想以上に主役の二人がお馬鹿さんで笑っちゃうねぇ。国王の奴は何を考えてるんだか知らないけれど、クララちゃんに害意がないのなら仲良くしておけば良いさ」

「ええ。何と言いますか、予想以上にお粗末なパーティーでしたわ。でも、国王陛下とお話できてお心の内を知ることができたのは良かったと思ってます」

「フフッ、そうだねぇ。それに、アタシの用意したドレスも少しは活躍したみたいだし、満足満足」

「フフフ、その節は大変ありがとうございます。思いがけずラス様とお揃いの衣装を披露できたので、私も大変嬉しかったのですよ。それにしても、備えあれば憂いなしでございましたわ。エリバスト侯爵夫人に嫌味を言われても、慌てずに一泡吹かせることができましたもの」

ウフフ、オホホと二人分の笑い声。



 ところでと、アメリ様が話題を変えた。

「クララちゃんは会場でずいぶんと派手にやらかしたみたいだけれど、たしか社交界は苦手だったんじゃなかったのかい? それに、結局は今の姿を皆の前で晒すことになったし……」

 それは私を気づかうような問いかけだった。

無理をしたんじゃないのかとか、大丈夫だったのかといった感じだ。



 彼女の問いかけに、私は笑顔で返す。

たしかに断罪された罪人の娘として社交界に引きずり出されたかたちだったが、もう何も失う心配もない身の上だ。

それに今はラス様が居てくださる。

「ええ、以前は表裏のある貴族同士のやり取りが苦手だったのです。立場上、私は弱みや隙を見せるわけにもまいりませんでしたし、……表面上はおべっかばかりで陰では生意気だとかお飾りだとか見た目だけの無愛想とか言われて貶されていたのは、いちおう把握はしておりましたので。でも今回は見た目がアレでしたし、取り繕う必要もありませんでしたわ。良い感じに開き直ってやりたいようにしてみたら、不思議と気分が晴れ晴れしましたの」

 ですから今後もやりたいようにいたしますわと締めくくれば、アメリ様もニヤリと笑う。

「なるほど。要するにクララちゃんは、スッキリ爽快な気分を味わったのだねぇ」

「そうそう、それですわ。私とってもスッキリいたしました」



 ベリーは二つ目のタルトを取り込み中で、私とアメリ様は二人とも紅茶のおかわりを楽しんでいる。

「それじゃ、色々と吹っ切れたのかな? 例えば、甲冑姿で街中へ行くとか……できそうかな?」

白磁のカップをソーサーに置きながら、アメリ様が聞いてきた。



 うーん、どうだろう……、大学の研修室には何度かお邪魔しているし、何となく抵抗はないような?

「そう、ですわねぇ……やってみないとわかりませんが、まわりがどんな目で見てこようが私は私ですもの。さすがに骸骨姿は善良な街の皆様に嫌な思いをさせそうなので嫌ですけれども、甲冑でならばできそうな気がします」

「フフフ。そうかいそうかい、それじゃぁ今度の週末にでも私と買い物三昧なお出かけなんてどうだい?」

「街へお買い物、ですか? じつは行ったことがないのですけれど、私でもできますでしょうか……あと、街では何を買うのでしょう?」



 アメリ様のお誘いに不安になって質問をすると、目を見開いて驚かれてしまった。

「えっ!? 買い物に、行ったことがないのかい?」

「ええ。王子妃教育で手一杯だったこともありますが、必要なものは屋敷に商人を呼んで注文しておりましたので……」



 少しばかりバツが悪くて言葉尻をすぼめてしまう。

そんな私の手を取って、アメリ様が嬉しそうに言った。

「なんと。クララちゃんの初めてのお買い物! ぜひともアタシがご一緒しなくてはっ!」

両手を握られフリフリと左右に揺らされながら戸惑うばかり。

「ええぇ!? そんなに喜んでいただいて恐縮ですが、……お買い物って、いったい何を買いに行くのでしょう?」

「えぇ!?」

私のとりあえずの質問に、アメリ様は再び驚きの表情に。

「乙女には自分で選びたい小物とか髪飾りとか、たっくさん必需品があるじゃないかっ! 買わなくっても、流行のファッションとか美味しい甘味とかの情報だって仕入れておきたいじゃないっ!!」




 そしてアメリ様は、戸惑う私をジト目で見つめながら宣言した。

「もうクララちゃんは王城の鳥籠に囚われの身じゃなくなったんだからね! 世間知らずは良くないし、もっと自由を満喫しなきゃだ!!」











・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


[クマな作者のご挨拶 (〃(ェ)〃) ]


またしても、ご無沙汰しておりましたッス

じつはノロノロ過ぎて未だに一章分が書き上がっておりません (´;ω;`)

でもでも、八月のうちにちょびっとだけでも更新しておきたいとアセアせな作者でございます💦


そんなワケで、見切り発車でクラウディーラ視点のお話を投稿しちゃいました(^^ゞ

尻切れトンボになるかもですが、書けるとこまで書いてまいりますww

予定では、新キャラクター投入で九話から十話くらいの新章となります

どうぞ宜しくお願いいたします〜(_ _)♪

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