第88話 返事がない・・・ ただのしかばねのようだ・・・?
呆気にとられるご一同。
とくにフィランツの顔が情けないことになっていた。
リヴィエール嬢は悔しそうかな。
だが、声を低めた今のクララさんは容赦がない。
「先ほども第一王子殿下にお祝いを申し上げさせていただきましたが、どうぞお二人で末永く仲良くなさってくださいませね。婚姻後はどちらにお住いになられるのかしら? さぞかし豪勢なお屋敷を用意されるのでしょうねぇ」
たぶん心にもないだろうに、
これはおそらく、さっきのボロい塔発言の意趣返しかな。
そんなクララさんの意図を知ってか知らずか、リヴィエール嬢が激怒する。
「なにを仰るの! 私は第一王子殿下の伴侶となるのですから、将来の王妃でもあるのよ!! 王城に住むに決まっているわ!!! 貴女、頭おかしいんじゃない!?」
頭がおかしい疑惑なクララさんは、今度は愉快そうな声で言う。
「まあ、そうでしたの? それならばそうと仰ってくださればよろしいのに、どうしてそんなにお怒りになられるのでしょう」
通常ならば王子妃は王城に住むのだろうけれど、例外はある。
たとえば、王族として不適合だと判断された場合だとか。
クララさんはその辺りを揶揄しているのだ。
もちろんその意図はリヴィエール嬢に伝わった。
「馬鹿にするのもたいがいになさいよっ! 未来の王妃に無礼でしょっ!!」
「ふふふ、それは大変失礼いたしましたわ。では、しっかり勉強なさって王子妃教育を修了なさらなければなりませんわね。最低限、婚姻のひと月前までに修めておかねば国を治める器ではないと判断されてしまいますし。そうすると殿下とともに臣籍降下となってしまいますもの、当然ですわよね」
「えっ!!? ……何よそれ!!」
「えっ!? ……ご存知ない、のですか!?」
クララさんの言葉に、驚くリヴィエール嬢。
驚くリヴィエール嬢に、これまた
フィランツも顔色が悪いような気がするが、こいつは知っていたはずだよな。
その顔色が悪い第一王子が、己の婚約者に確認する。
「リヴィ、まさか聞いてないとか言わないよな? 王子妃教育の一番初めに口を酸っぱくして言い聞かされることだぞ。余計なお世話かも知れないが、教師陣の言うことを聞いて予定通りに進めているんだよな?」
「えっ!? そんなこと聞いたかしらぁ? ……ごめんなさい、記憶にないわ。私は、てっきり婚姻後もお勉強を見ていただけるとばかり思っていたのですもの。だからまだ半分の半分、くらいかしら? ……たぶん??」
リヴィエール嬢は、その縋るような問いに対して白々しくも知らなかったと言い張った。
他人事ながら、これはあまりにも心配な状況だ。
フィランツは、今度こそ顔面蒼白になっていた。
「なんだって!! 報告書には教本の半分は終えているとなっていたが、違うのか!? 婚姻式まで一年ちょっとしかないのに、どうするんだよ!!」
俺が知る限りだが、王子妃教育には数年の期間が必要だとされている。
それを急な婚約者交代劇のせいで、一年半以内で終了させなければならないわけだから大変だろうに。
スケジュールを調整して婚姻を延期するにしても、半年くらいが限界だろう。
リヴィエール嬢のために優秀な教師たちが集められ、要点を絞った特別なカリキュラムが組まれたと聞いている。
彼女の言葉を信じるならば、ギリギリ終わるかどうか怪しいな。
まぁ、フィランツが焦るのは無理もない。
ちなみにクララさんは王子妃教育に三年ほどをかけていた。
その後は、公務見習いと称した各部門の手伝いや外国との折衝を行ったり、王妃教育の予習まで熟していたらしい。
俺の調べでは、むしろ使い勝手の良い雑用係として過ごした日々のほうが長いんじゃないのかと思われる。
あと、フィランツの書類仕事が滞っていたときは内緒で手伝っていたとか言っていたが、兄陛下はその辺りも全てお見通しだったんだ。
国王陛下の伝手は膨大だし、それに王家の暗部組織はいつでも何処でもしつこいくらいに王族たちを見守っているからねぇ。
それもこれも、今となってはどうでも良いことか。
リヴィエール嬢の勉強がどんな具合だろうと、べつにフィランツが立太子できなくても知ったこっちゃない。
フィランツの奴がどうしても王位にこだわるのなら、彼女と別れて別の優秀な伴侶候補を見つけるべきかもな。
それならば、もしかしたら可能性は残るのかも知れない。
うん、別の優秀な誰かが現れてくれればなのだけれど……どうだろう?
とにかく俺はクララさんがそばにいてくれれば、それで良い。
束の間ぼんやりと考え事をしていたら、フィランツとリヴィエール嬢が喧嘩を始めていた。
クララさんは呆れたように立っていて、その成り行きを見守っているらしい。
「リヴィー、頼むから真面目に王子妃教育に取り組んでくれ。君が私の足を引っ張ることがないように、何としてもあと一年で習得するんだ!」
「ぇえ〜、あんなの適当で良いじゃない。外国語なんて通訳者を配置すればいいし、大陸の歴史なんて何の役に立つっていうの? それよりも、淑女の最高峰として社交界での人脈づくりが大切だわよ」
「いや、何を言ってるんだ。通訳なしでも日常会話くらいはできていないと、相手国に興味関心がないのかと思われたり教養を疑われてしまうだろが。それに最低限の大陸史を知っていなければ、現在の国家間の関係が正しく理解できるわけがないだろ。君は、本当に私と結婚して将来にわたり国を支える気持ちがあるのか!?」
「国を支える? そんなの大臣とか官僚たちがやるんじゃないの? 王妃にまで仕事をさせるなんていうなら彼らの職務怠慢だわ! うちのお母様は、貴族女性は当主である旦那様が恥をかかないように美しく装って常に笑顔を忘れずにいることが大切だって仰っていたもの。仕事は殿方に任せるべきで、女が出しゃばるなんて恥ずべき行為じゃないかしら!!」
「き、君はこの数ヶ月で何を学んでいたんだ。君の実家の考え方が、王家で通用するわけがないだろっ! だから王子妃教育が必要なのに、ちっとも理解していないじゃないか!!!」
「仕方がないじゃないっ。つまらない話ばかりを無理やり聞かされる、あんな退屈な授業なんて願い下げだもの。フィーは優しくて素敵な王子様だけど、そんな窮屈な将来なんて嫌だわ……私、ちょっと王妃殿下に悩み事を聞いてもらって来ようっと。このまま貴方と結婚したら、つまらない人生になりそうなのだもの……」
色々と言い合った挙げ句、リヴィエール嬢は王妃殿下の元へと取り巻きを連れて去っていった。
「おいっ、待てよ。リヴィー!! 母上に相談って、どういうことだ!」
「婚約を解消していただけるか、陛下にお願いする前に王妃様に聞いてみるのよっ。それでは失礼しますわ!」
わー、置き土産とばかりに大きな爆弾発言を投下してったよ。
後には呆気にとられた俺たちと、呆然と立ち尽くす第一王子。
それから戸惑っている数人ほどの近衛たち。
「で、殿下? ……どうか、お気をたしかに」
「…………」
近衛が声をかけるが返事がない。
「殿下、お顔の色が屍のようですよ。……医務室にお連れしましょう」
「…………」
フィランツは無言のままで、彼を気遣う近衛たちに連れて行かれたのだった。
今のところは俺たち以外の帰宅する招待客の姿がないということは、幸いにもこの騒動を知られずにパーティーは続行中なのだと思う。
たぶんだが、進行役の宰相補佐官殿が奮闘している成果だろうね。
すっかり取り残されたかたちの、俺とクララさん。
二人とも咄嗟に言葉が出てこなくて互いの顔を見合わせ首を傾げた。
「「……」」
急に静かになった状況で肩の力が抜けすぎて、笑いがこみ上げる。
「ぶっ、フッ。ククククッ……、アッハッハっはーー!」
堪えきれなくて、しまいには腹を抱えてしまう。
俺の隣の甲冑美人さんが、不思議そうにこちらを見た。
「ラス様、急になんですの?」
声音がちょっと不機嫌そうだ。
「ごめんごめん、さっきまでの騒動が可笑しくってさ。それに、あまりにもクララさんの威勢がいいもんだから吃驚しちゃったんだよ。君ってば、リヴィエール嬢が勉強嫌いなのを知っていてあんなことを言ったんだよね? それを考えたらさ、…………ふっ、ククク……駄目だ、腹が
「もうっ、私は真剣でしたのに」
そうだよね、クララさんは真面目だもの。
真面目なクララさんの叫びが愛おしかったんだ。
あと、フィランツのアホ面が面白かったんだよ。
「フッ、プププ……アホ面の、アホ王子は傑作だった……」
「あぁ、もう。ものすごく腹立たしかったのに、すっかり気が削がれてしまいましたわ……」
「それじゃぁ、気を取り直して帰ろうか?」
「ふふっ、そうですわね。私、ちょっと疲れてしまいました」
フィランツたちの今後やクソ兄貴の心情とか気になることはあるけれど、今は帰ろう。
優秀なうちの執事が事後情報をもれなく報告してくるだろうし。
俺はクララさんとしっかり腕を組んで帰路についたのだった。
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
[クマ作者のご挨拶 (>(ェ)<) ]
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます
とうとうというか……またしても、書き貯め文書が底をつきましたッス
( ↑↑ 計画的犯行 (;´∀`)スンマセン💦 )
気がついちゃった方もいらっしゃるかもですが、今回はちょっと後半のサブタイトルでおふざけを(^^ゞ
良い感じのが思いつかなくて、ついw
ゲームやったことないのですが、面白そうで……世界観とかキャラとかも好きなんですよぅ(笑)
次章はクララ視点で街へ行きます ←予定
甲冑姿で行っちゃうみたいです ←未定
そんでもって、かわいい系の新キャラクターも……羊獣人ちゃんで作者的にはモコかわいい子なのですが、果たしてどうだろかww
只今ちまちまと続きを生産中でございますので、どうか今後とも気長におつき合いいただけますと恐悦至極にございます(_ _)
梅雨明け秒読みで今年も猛暑が予想されますので、水分&癒やし成分補給をこまめになさって元気に夏を乗りきりましょうね〜(〃∇〃)∩♪♪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます